84・来ちゃった(ハート)
「やぁ、ジョシュア殿。 来ちゃった!」
「………っ……っ」
きゅるん!と語尾にハートが付きそうな物言いをするお兄さんに対峙した伯爵様は笑顔で頬をピクピクと引き攣らせた。
これあれだよねぇー。美人以外やっちゃいけないやつだよね。お兄さんの美貌なら「来ちゃった(ハート)」とアポなし突撃訪問も許されるって事だろうか。と言うか伯爵様とお兄さんは知り合いだったのか。だから一緒に来たかったのかな?
「あれ?おーい、ジョシュア殿?」
「─! ちょっ、何…!何でこんな所に…!?」
目の前で手のひらをヒラヒラさせたお兄さんにハッとした伯爵様はそのままお兄さんの手首を掴んで声が届かない所まで引っ張って行った。
小声で何か話しているけれど聞こえない。狼狽する伯爵様に対してお兄さんはニコニコと朗らかに笑っている。最終的に伯爵様は頭を抱えて声にならない叫び声を飲み込んでいた。
そしてニコニコのお兄さんと苦虫を噛み潰したような伯爵様が私の元に戻ってきた。
そして何となく悟った。─あ、コイツ問題児なんだ、と。
「それで、どうしてお前がエデル殿と一緒なんだ?」
エデルって誰ぞや?
首をかしげた私を見たお兄さんが小さく「あっ」と溢す。そう言えば今更だけど私はお兄さんの名前を知らないのだった。
「ごめんね。自己紹介まだだったよね」
「そう言うのは知り合ってすぐするものじゃないんですかね…」
伯爵様の目が「やっぱダメだコイツ」みたいに細められてる。
「僕はエデル・フリーデン。旅の魔法使いさ!」
ペカーッ!と満面の笑みで名乗ったお兄さんの背後で伯爵様が「ちょっと!?」と突っ込んでいる。
「あんた一応宮廷魔術師師団長でしょうが!」
「え~?今はただの旅人だよぉ~。休職中なんだから。 それで、君の名前は?」
何気に気になるワードが聞こえてきたんですけど。アンタ魔術師師団長様なんかい!
「えっと、ラピスです。6歳です」
「えー!6歳?本当に?」
お兄さんことエデルさんは私の頭や肩や背中を撫でながら「こんなに小さいのに本当に6歳なの?」と驚いたような、感心しているような訳の解らない表情でセクハラしてくる。私が幼女じゃなかったら処刑である。
「ジョシュア殿!ラピスは面白いね!まだ幼いのにとんでもない魔法を考えたり、興味が尽きないよ!」
伯爵様の方へ振り向いたエデルさんの鼻息が荒い。初見のイメージからどんどん離れていってる。
エデルさんは私と伯爵様がどういう知り合いなのか、どこで知り合ったのか、どんな子なのか、と早口で詰め寄っている。伯爵様はその様子にやや上体を反らして私に視線で「どういう事だ!?」と聞いてきた。
「どうしたんだい?」
するとそこへ私達とは違う声が響いた。エルナたんのパパ、公爵様だ。
公爵様はエデルさんに気が付くとキョトンとして、伯爵様へ「御愁傷様」と言わんばかりの生暖かい眼差しを向け、そっと背を向けた。ちなみにエデルさんはグイグイ伯爵様を質問攻めしているので公爵様には気が付いていないようだ。
「ちょ、待て!アーチェス!」
「うわー私を巻き込まないでよー」
名前を叫ばれた公爵様が抑揚のない声で迷惑そうに顎を撫でた。
「あれ?アーチェス殿じゃないか。お久しぶりだね」
「………そうですね」
伯爵様の声で公爵様に気が付いたエデルさんは標的を変えて今度は公爵様に詰め寄る。途端にぎょっとした表情をした公爵様は「いやいやいや、私には構わずジョシュアとお話ししてください」と早口で捲し立てると無表情で両手を胸の前で翳した。
「アーチェス殿もラピスをご存知なのですね!」
わはー!と笑顔で仲間を見つけたとばかりにグイグイ近寄るエデルさんに公爵様は笑顔なのに口角がヒクヒクしている。公爵様にも苦手な人が居るんだなぁ~。
「と、取り敢えず落ち着きましょう」
公爵様の一言に私達は応接間へと向かうことになった。
「エルナたぁーん!遅くなっちゃった。ごめんね」
「大丈夫よ。心配はしていたけれど…何か楽しいことでも見つけてしまったの?」
出迎えてくれたエルナたんが私の頭を優しく撫でながら小さく首を傾げて顔を覗き込む。はう…かわええ…!
「えっとね、前に職人さんの村に行ったときに会った魔法使いのお兄さんに会ったんだよ。それでね、転移魔法でここまで連れてきてもらったんだぁ~」
「まぁ、そうなの。どう?楽しかった?」
「うん!」
まぁ正直良く解らんまま転移してきたけど、やっぱり一瞬で移動できるって言うのは凄いしロマンがあるよね!いつか絶対転移魔法を覚えてやるぜ!そんでエルナたんとお忍びおデートするのが夢なんだぁ~ふひ。
「エルディアナ、ちょっといいかな。 こちらエデル・フリーデン殿だ」
「初めまして…ではありませんね。お久しぶりでございます。あの時はご挨拶が出来ずに申し訳ありませんでした。エルディアナ・ルビニカと申します」
エデルさんの顔を見てエルナたんはあの時の魔法使いのお兄さんだと気が付いたようだった。
淑女の礼をするエルナたんは私と同じ年齢なのに既に完成された令嬢にしか見えない。さすがだ。
「これはご丁寧に。 僕はエデル・フリーデン。旅の魔法使い…なんだけど、旅は暫くやめようと思ってるから只の魔法使いですよ」
「「は?」」
エデルさんの言葉に公爵様と伯爵様の声がダブる。
「え、エデル殿、城に戻るのですか?」
「良かった。これでマーテル殿の愚痴を聞かなくて済むんですね。私も暇ではないので良かったです。本当に」
「え?帰らないよ?」
「「え?」」
何言ってんの?と心底不思議そうな顔のエデルさんにまたしても二人の声が重なった。
「え、あの、それはどう言う…?」
伯爵様が口角を引き攣らせたまま怖々と問うと、エデルさんはハッとしたようにポンと手を打った。
「あ、そっかそっか。旅をやめるには住居を決めなきゃね。って事でよろしくね!ジョシュア殿!」
「はぁぁぁ!?」
顎が外れそうなほどの叫び声を漏らした伯爵様は頭を抱えて「問題児がふたりに…!」とチラリと私の方に視線を寄越した。
まてまてまてぃ!何か私まで問題児扱いされてない?解せぬ。
「頑張れ、ジョシュア」
「おまっ、他人事だと思って…!」
良い笑顔でサムズアップした公爵様を恨みがましく見た伯爵様。
今は伯爵様がストレスで禿げないことをお祈りすることしか私にはできないよ。
手を合わせてナムナムしていると伯爵様が「何をしてるんだ?」と聞いてきたので、素直に「伯爵様の毛根が死滅しないようにお祈りした」と口にすると笑顔で青筋浮かべた伯爵様にほっぺたムチムチの刑にされたのだった。なして?
魔法使いのお兄さん、エデルさんはフンスフンスしてます笑
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