82・Yes We Can!
聞けば魔法使いのお兄さん、マルチスに用があったのだとか。何かわからんけど確認と調整と、あと知り合いに顔を見せに来たらしい。
私は私でエルナたんを追っ掛けなければなので、魔法を教えてくれないならぶっちゃけお兄さんに用はない。
「ところで君はこれから何処かへ出掛けるのかい?」
「うん。ハーマン伯爵様のお屋敷に行くの」
「え。ハーマン伯爵って西の辺境伯だよね?」
「そうだよー。今からならお昼ご飯前には着くかな…?今日のお昼ご飯は何だろう~」
お兄さん捕獲の為に時間を使ってしまったのでいつもよりは到着が遅くなりそうだ。私が到着する頃にはお昼ご飯の良い匂いが漂っている事だろう。むふふ。
「聞いて良いかな?」
「うん?」
「もしかして歩いて行くの?」
「うん」
正しくは走ってだけど。ア○ル○ン○ナ並みの爆走で行くぜ。
「今から君ひとりで行くの?歩いて?え、お昼?夜中になっちゃうんじゃないかな…?」
お兄さんはやや困惑気味に頬を引き攣らせて言った。
何を言っているんだ。私の足をもってすれば昼飯前だ。心底不思議そうに首を傾げた私の姿がお兄さんの目に映っているのが見える。何をそんなに狼狽えているんだろう?
「そんなにかからないよ?お昼ご飯には間に合うと思うし」
「え」
「?」
何故固まる。私はそんなにおかしな事を言っただろうか。
「…ごめんね。僕が知らない間に人間て進化してたんだね…知らなくてごめんね」
お兄さんは「あれ?僕がおかしいのかな」とあらぬ方向を向いて変な顔をしている。
「…ちなみに此処からだとどのくらいの時間で到着するのかな?」
「んーと、ランニング的スピードなら一時間弱くらいかな…本気で走れば20分かからないくらいだと思うよ」
えっへん!実は此処最近でスピードアップしたのだよ!前は一時間半かかってたけど今は一時間切れるようになったんだよね~。この間本気で走ったらどれくらいで着くのか試したら20分切ってた。これならいつでも何処でもエルナたんの所へ駆け付けられるぜ!
最終的にお兄さんは私にこの場で一時間ほど待っていてほしいと、悟りを開いたような妙な微笑みを浮かべてマルチスへと向かっていった。
何故私が待つかと言うと、例のあの物を修復する魔法を教えてくれると約束してくれたからだ。そうじゃなきゃ待たない。
因みに伯爵様の所へは転移魔法で連れていってくれるらしい。転移魔法初体験ヒャッホウ!体験することで何かヒントを得られるかもしれないからね。うひひ。
─10分経過。
「………ヒマだ」
無為に時間を過ごす事のなんと退屈なことか。いっそ昼寝でもしていようかと寝転がる。
「暑い…」
そりゃそうだ。今は8月。夏も後半に入ったと言えど夏には変わりない。日陰でこの暑さなら日向だと乾物になってしまうんじゃないだろうか。
幸い寝転がった場所は日陰で地面は何となくひんやりしているので気持ちいい。
ふと寝転がった視線の先に木の枝が落ちていた。それに手を伸ばし意味もなくブンブンと振り回す。
……うん、つまらん。
そして仰向けからうつ伏せに体制を変えて枝で地面にガリガリと落書きをすることにした。
暇なので転移魔法について考察しようと思う。
「う~ん…」
一度見ただけじゃ詳しく解らないけれど、転移魔法は創作ではよく見られる魔法だ。決して難しい魔法ではないと思う。
ただお兄さんの反応からして恐らく魔法創作者は悪用されることを危惧し態と危険な魔法に作り替えたのだと思われる。
「取り敢えず『転移』って事は一瞬で別の場所へ飛ぶって事で合ってるよね…」
アレか?七つの玉を集める某主人公が使ってたヤツか?否あれは確か瞬間移動だったはず…ん?転移になるのか?アレ。よくわからん。
そもそもの原理がわからん。最初にビー玉みたいなのが現れて、それがみゅーんてピザ生地みたいに広がって、それが更に二枚に別れて某国民的アニメのOPの猫が果物の中からパカッと出てきたみたいにお兄さんは現れたのだ。
どういう原理なんだアレは。
「んー…これは下手に参考にせず一から考えた方が良いのか…?」
瞬きの間に移動。つまり光並のスピード移動だ。一秒で地球7周半だったっけ?
─無理じゃん。いくら私の足が早くても光には太刀打ちできない。
「─いや!愛の力があれば出来る!」
そうだ。私はエルナたんの為なら限界を超えられるはずだ。
Yes!!We!!Can!!どっかの元大統領だって言ってたじゃないか!
「おっし。とりま光を超えるか…」
しかし光を超えるスピードを身に付けたとして、恐らくだけど私は死ぬ。だって光のスピードだもん。身体は多分だけど粒子?に分解されるんじゃなかろうか?
前世でモンブランを作ったときに栗を裏漉ししたのを自分に置き換えてちょっとゾッとした。死ぬじゃん。
「いや待てよ…」
この世界じゃ大抵の事は魔法でどうにか出来る。なら死者を甦生させることも可能じゃないのか?
「……………無理かな」
考えてみたけど無理だろう。そんなことが出来るなら世の中死人なんて存在しない。
ならどうすれば良いだろうか。
「一秒の中に100回くらいの治癒魔法を詰め込んでおくのはどうだろう…?オートヒール状態…みたいな」
これなら裏漉しされずに済むのでは?
いや実際は裏漉しされるんだけど裏漉しと治癒を並走させる、みたいな?これならイケルんじゃなかろうか。
「あとは…どうやって思い浮かべた場所に転移するか…だよね」
多分マーキングした場所に転移できるんだと思うけど…。
よくファンタジー小説だと『思い浮かべた場所』にポーンと移動できるみたいな曖昧な感じで描かれているけど、そんなので転移できるなら苦労はしない。現に今私が頭を悩ませている。
「どうやったら移動できるのか…う~ん…」
枝を手にガリガリと地面に落書きをして行く。今考えて出てきた物を魔法陣に描き込んでいった。未完成の物なので発動はしないけど、中々にエグイ物が中途半端に出来上がって行く。何がエグイって消費魔力が半端ない。転移魔法一回で魔力が完全枯渇する感じだ。保有魔力が少ないと死ぬ可能性もある。
適当に描き込んだなんちゃって転移魔法陣は中途半端な殺人魔法になりそうな予感がした。これはアカン。
「よし、ここをこうして…いや、こっちがこうかな? ─んん?あれ?」
取り敢えず死なない様に、と色々継ぎ足して描き込んだ。
ガリガリ
ガリガリ…
ガリガリガリ…。
「…………えっと、お待たせしました…」
「あ。お兄さん、おかえりなさい」
控え目に背後から声を掛けられて私は寝転がったまま振り返る。
いつの間にか夢中になって居たので、気配を消して背後で私を見下ろすお兄さんに気が付かなかった。
どうやら数分前から私を見ていたようだ。いやん。
「よし!そんじゃ行こーう!」
ぱっと立ち上がりお兄さんに歩み寄る。
はよ。はよ転移魔法はよ!
ワクワクと初転移体験を急かす私に、お兄さんは複雑そうな顔で地面に落書きされたなんちゃって魔法陣と私を交互に見た。
「─アレは君が…?」
「? うん。けど完成しなかったんだー。転移魔法ってよく解んないや」
あ、落書きとはいえ一応魔法陣だもんね。下手に発動したりはしないだろうけど、もしもを考えて消しておかなきゃ。
「ちょ!ちょっと待って!」
「うん?」
魔法陣を足でザリザリと消しだした私をお兄さんが引き留める。
脇に手を差し込みひょいと持ち上げられた。
なにをするんだ。と首だけで振り返るとお兄さんは興奮を押さえきれないように早口で捲し立てた。
「描き写したいんだ!いいよね?!だから消さないで!あぁ…!なんて不思議な魔法陣なんだ…!光の速度!?そんなの考えたことがなかったよ!凄い!凄い!うわぁ~!」
「……」
頬を染めてまるで推しのアイドルにでも会ったように魔法陣を見詰めるお兄さんに、ややドン引きする私であった。
七月です!
今月もよろしくお願いいたします(ФωФ)
…そろそろお気付きだと思いますが、私の書く物語の中には正統派イケメンは存在しないと思われます…。
…恋愛小説は向いてないのか、私…。
誤字、脱字がありましたらお知らせください(*´ω`*)助かります!アホなので!爆
ブクマ&評価ありがとうございます(///ω///)♪




