79・古竜
翌日。私は嬉々としてジルにエルナたん専用剣の図案を見せた。
ところが。
「無理だ」
「えぇぇ!なんで!?」
バッサリと案を却下されてブーたれる私。
「ペンより軽くて切れ味最高で頑丈。その上変幻自在な剣て…」
若干引いている様子のジルが私のデザイン画に視線を落としながら深く息を吐き出した。
「それもう伝説の剣だね…」
シーナちゃんが苦笑しながらデザイン画から視線を外す。
デザイン画に添えられた説明書きにはこれでもかという程にミッチリと要望が書き込まれていた。だってエルナたんの剣だよ?中途半端は許さへんで。
せっかく頑張って描いたのに。ヒドイ。
「そもそもペンより軽い、っていうのが不可能だ」
「なんで?」
付与魔法で重さを軽減させれば出来そうだと思うんだけど。無理なのかな?
「軽さを求めるなら強度は格段に落ちる。強度が落ちると切れ味にも響く。その全てを補う事が出来る素材なんて古竜の骨でもなければ不可能だ」
そんな古竜の骨すら伝説級の素材だとジルは言う。
「こりゅー?」
「千年生きた竜のことだよ」
この世界に竜が存在するのは知っていたけど、実際に見たことはないし本の知識しかない私には竜と言われてもピンと来ない。
そんな私を見てシーナちゃんが竜について説明してくれた。
竜は人里を離れた土地を好むので滅多に人目につくことはなく、色は赤(火)青(水)緑(風)茶(地)と4属性なのだとか。けど全身がその属性毎の色かと言うとそうじゃないようだ。なんと産まれたばかりの竜は真っ白なのだとか。そして成長するにつれて身体が色付いてゆき、全身がその属性の色に包まれるには最低でも200年の時を要する。最後に顎の下の逆鱗と呼ばれる鱗が同じ色に染まる事でその竜は一人前になるそうだ。
「ん?けど古竜は真っ黒なんだよね?赤と青と緑と茶以外にも居るの?」
「古竜は元はその中の竜が千年生きた先の姿なんだ。年を重ねるごとに真っ白の竜が染まるように、一人前になった竜は更に年月を重ねてその身体の色を濃くして行く。赤は深紅に青は濃紺に…て感じでね。そして全身を漆黒に染めることが出来た竜は古き竜─古竜になるんだ」
「ほぇ~…竜って長生きなんだね~」
竜スゲー。千年以上生きるってどんな感じなんだろう。
「じゃあ千年生きてたら皆が古竜になるんだね。て事は古竜ってたくさん居るの?」
「残念だけど、竜の寿命は短くて300年、長くて600年って言われてるんだ。古竜になるまで寿命が持たないみたいで今この国で確認されてる個体は確か二体…だったと思う」
「そうなんだ…けど古竜は千年生きてるんだよね?」
「僕は専門家じゃないからよく解らないけど…600年が壁…みたいな物なんじゃないかな」
なるほど。600年を越えたら頑張れば古竜になれる可能性があるって事か。
「竜は魔物とは違って頭がよくて人間の言葉を理解するんだって。長く生きた竜ほど知能が高くて人間のように言葉を話すそうだよ」
「へぇ~…」
「まぁ僕も郷のお年寄りに聞いた話だから、竜について知っているのはこの程度なんだ、ゴメンね」
申し訳なさそう様に小さく笑みを溢したシーナちゃんだけど、新たに出来た目的に私はにんまりとした。
「じゃあ古竜を倒せば骨が手に入るってことだよね!」
「え」
「最悪倒せなくてもお喋り出来るなら尻尾の先っちょだけでも貰えないか交渉することも出来るよね!」
「ラ、ラピス?」
「よし!古竜に会いに行くぞー!」
「ラピス!落ち着いて!」
気合いを入れるために握り締めた拳を慌てたようにシーナちゃんに捕まれて振り返る。
「駄目だよ、ラピスっ」
「なんで?」
折角伝説級の素材があることが判明したのに何故止めるんだろうか?
「えっとね…古竜はその…この国の守り神と言うか…」
なぬ?守り神とな。
「ラピスはこの国の北にもうひとつ国があるのは知ってるよね?」
「うん。えーと、確かクレイジーハンターだっけ」
「…っ、クレイハイト、ね」
ジルとシーナちゃんが同時に噴き出す。
ちゃんと所々合ってるじゃん。そんなに笑わなくても。
笑いのツボが落ち着いた頃、シーナちゃんが話してくれた。
─北の山脈、霊峰山には古竜と呼ばれる漆黒の竜が棲んでいるそうだ。
マードラニエ(私達が暮らす国)の北、霊峰を挟んだ向こうの側の【クレイハイト王国】はマードラニエの肥沃な大地を狙って度々ちょっかいを出す様だけど、うちの国の北の辺境伯がアホほど強いので一歩も踏み入ることが出来ないらしい。そこまではちょっと前に公爵様に聞いた話だ。
しかし理由はそれだけではなくて、霊峰を棲家とする古竜の脅威による抑止力もあるようだ。
古竜は冬場は冬眠するので冬季に攻めれば良いと思いきや霊峰に吹き荒ぶ雪風で進めず、なら雪の無い季節に!となった頃には古竜は活動期。古竜を避けて進んでも待ち受けるのは鬼のように強い辺境伯軍。と言う訳でクレイハイト王国は手を拱いている、と言う事だった。
ようするに古竜はクレイハイトからすれば目の上のタンコブで、マードラニエから見ると守り神的なものって事だろうか?
「え、なにそれ。じゃあ古竜やっつけられないじゃん。やっつけたら私悪者になっちゃう!」
何てことだ。折角のレア素材が!!
これでエルナたんに新しい剣を作ってあげられると思ったのにぃぃ!
─いや待てよ…?
「…二匹居るなら一匹狩ってもいいんじゃない?」
よし!一匹狩ろう!
決意も新たに拳を握りしめる。
竜だって見た目はでっかい蜥蜴みたいなものだし、もしかしたらぽろっと尻尾を落とすかも知れない。そしたら尻尾だけ回収してさっさと撤退すればいいじゃん!私頭いい!!
「……兄さん、もしかしてラピスって危険思想…?」
「もしかしなくてもそうだろう…」
私の背後では兄弟揃ってこそこそと何か囁きあっている。あれかな?エルナたんの剣作りを前向きに検討してくれてるのかな。
「…ラピス。燃えてるところ悪いが、古竜は駄目だからな」
「えええぇぇぇ!!!?なんでッ!?」
「何ででも。駄目なものは駄目だ。他に良さそうな素材を探してみるから、それで妥協してくれ」
「ぶぅぅぅぅ!!!」
ジルにガッツリ釘を刺されて頬を膨らます。いい考えだと思ったのに。ジルひどい。
「それに、もうすぐラピスの大好きなルビニカ公爵令嬢がやって来るんだろ。何かサプライズをするんじゃなかったのか?」
「はっ!そうだった!」
ジルに溜め息混じりに諭されて思い出す。
今はもう7月の後半。もうすぐエルナたんが視察にやって来る。前回の逢瀬からこっち、色々と忙しくてエルナたんへのプレゼントは今のところドライヤーだけなのだ。それじゃ寂しい。
「う~ん…う~ん…エルナたんが喜んでくれそうなもの…」
お肉…は前回いっぱい捕ったし…。カレーはマリスさんに頼むとして、後は…。
「─デザートだ!」
ポンと閃いたのは暑い夏にピッタリの物だった。
それを作るには専用の道具が必要になる。ジル達の出番だ。
私は紙に描いたり手振り素振りでその道具を説明した。ふたりは時々不思議そうに首を傾げたりしながらも最終的には「こうすればどうだ?」「ここはこうすればいいんじゃないか?」と私が説明する事の先を理解して意見を述べてくれる。さすが技の一族。
「うん。単純な作りだけど面白そう。兄さんとふたりなら2日あれば出来るかな」
シーナちゃんが楽しそうに頷く。ジルも口角を上げて楽しそうに紙に何かを書き込んでいる。多分頭の中じゃもう完成図が浮かんでるんだろうな。
「よーし!私はマリスさんにお手伝い頼んでくるね!」
道具の方は二人に任せて私はお屋敷に戻ることにした。マリスさんにお手伝いしてもらわにゃ…ふへへ。
安定の危険思考主人公です…笑
誤字、脱字がありましたらお知らせください(*´ω`*)
ブクマ&評価ありがとうございます(///ω///)




