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7・嫌いにならないで

 

「ラピス!」

「エルナたん!」


 走り寄ってきたエルナたんは何だかお怒りのようで。

 逆にへらっと笑っていた私は目の前で眦をつり上げ激オコのエルナたんに狼狽えるばかりで。


「…!」


 突然ぱちーん!と両頬を挟むように叩かれて私は目を瞬かせた。


「どうしてこんな危ない場所にいるのッ!?」


 エルナたんは怒りの表情なのに、綺麗なストロベリーアイからはぽろぽろと涙を溢していた。


 その時思い出した。

 彼女はとても優しくて、大事に思う人が危険にさらされる事を非常に悲しむ慈しみ深い人物だという事に。

 気付いてしまった。

 私は彼女を心配させ、悲しませてしまったという事に。

 泣かせないのに、とあんなに思っていたのに…。


「ごっ、ごえんなしゃ…」


 両頬を挟まれているのでうまく喋れない。


「もうッ!もうッ!どうして危ないことをするの!!」


 怒っているのに泣いているエルナたんを見ているととんでもない罪悪感が込み上げてきて、どうしようどうしよう!と考えがまとまらなくなってきて、最終的には「ごめんなしゃぁい!嫌いにならないでぇぇ!」と雄叫びのように泣き叫んだのだった。




 そこから後は私は泣き叫んでいたのでよく覚えてないけれど、駆け付けた救援の兵士さんに盗賊達が「助けてくれぇ!!悪魔が!!悪魔がぁぁ!!」と男泣きで助けを求めたせいでその場は主旨がつかめない状態になり、取り敢えず分かる範疇でと公爵様が説明したらしい。


 そして捕らえた盗賊達を引き連れ、そのまま辺境伯様のお屋敷に向かう事になった。

 寝落ちする前に公爵様に「ラピスにも事情が聞きたいから」と言われ鼻水垂らしたまま頷いた私も一緒に。

 ちなみに今私は泣き疲れてエルナたんのお膝ですぴょすぴょ寝ていた。狸寝入りではない。断じて無い。








「おい、起きろ。おいったら!」

「むにゃむにゃ…」


 何と言う耳障りな…。エルナたんのエンジェルヴォイスなら飛び起きるのに…。と私は体を丸めて毛布にくるまった。

 …何だこの毛布!めっちゃ肌触り良いな!とスリスリと頬擦りして感触を堪能していると突然身体が何処からか落ちた。


「……いたい」


 ちょっとだけお尻を打ち、私は顔を顰めながら仕方無く起きた。

 視線の先には小さな足が。私と同じくらいかちょっと大きいくらいの足だったので子供だと直ぐに分かって顔を上げる。するとそこにはエルナたんと同じくらいの身長の赤い髪の男の子が腕組みをして私を見下ろしていた。その手には毛布が握られている。


 キョロキョロと辺りを確認するとどうやら私はソファーの上で寝かされていたようでそこから落ちたようだった。…このクソガキ様が毛布を引っ張ったせいで。


「…なにするの」


 私が不満の声を漏らすとショタボーイはふん!と鼻を鳴らし毛布を投げ捨てる。


「ここは僕の家だぞ。勝手に寝てたお前が悪い。それにそこは僕のお気に入りの場所だ」


 僕の家、という事は伯爵子息か。ちゃんと教育しろよ伯爵様。このまま成長したらこのクソガキ様手に負えなくなるぞ、何て頭の片隅で考えていた。

 そんなことよりエルナたんだ。この部屋には私とクソガキ様しか居ない。と言うことはエルナたんは別の場所に居るのかな?


「エルナた…─エルディアナ御嬢様は何処にいるんですか?」


 取り敢えずお貴族様なので敬語で話しておく。後々面倒そうだから。


「そんなことより僕に謝るのが先だろう」


 立ち上がったらやっぱりエルナたんと同じくらいの身長で私より拳ひとつ分大きかった。

 それよりも、そんなこと、だと?エルナたんより他に優先すべきものはないと言うのに。


「チッ…サーセンシター」


 あ、ヤバイ。舌打ちしちゃった。

 舌打ちが聞こえたからなのか、返した言葉が気に入らなかったのかクソガキ様が顔を真っ赤にして抗議してきた。


「何だその態度は!僕は伯爵子息だぞ!」

「あーハイハイ、そうでしたね。すみませんでしたー」

「誠意がこもってない!」

「はぁ…面倒臭いなぁ…」


 横でギャンギャン喚いているクソガキ様を無視しつつ、私は探知魔法でお屋敷をスキャンする。するとここより3つ離れた部屋にエルナたんの反応を確認できた。


「おい!聞いているのか!」

「はいはい聞いてますよー。あ、私忙しいので失礼しますね」


 部屋の扉に手をかけようしたところであることに気が付いた。

 ─若干手が届かない。


 後ろを振り返るとクソガキ様がニヤニヤと私を見ている。その場の主導権が自分に戻ったと勘違いしているようだ。

 そんなクソガキ様に私も、にちゃぁ…と笑い返してあげた。


「『風よ』」

「─!」


 ─カチャ


 扉が開くのを見たクソガキ様は瞠目し次いで私に駆け寄る。


「今のは魔法か!?どうしてお前みたいな子供に…ましてや平民が魔法を使えるんだ!?」


 アホなのかお前。そう口許まで出そうになって頑張って引っ込めた。平民だって魔法くらい使えるっつの。ただ魔力を持つ人がすくないし魔力量も少ないから使わないだけで、訓練すれば魔力が少なくても明かりを灯すくらいの魔法なら誰でも使えるんだよ。…って本に載ってた。


 廊下に出るとクソガキ様も私を追い掛けてきて仔犬みたいに私の回りで「どうしてだ?」「どうやったんだ?」とくるくる回る。そのままバターになってしまえ。



「─ラピス!」


 私の回りでチョロチョロするクソガキ様に気をとられていると廊下の向こうからエルナたんの声が聞こえた。


「エルナたん!」


 思わず駆け寄りそうになって立ち止まる。眠ってしまう前の事を思い出したからだ。

 いつもみたいに駆け寄りたいのに、泣かせてしまった事実がチクチクと私の胸を刺す。そんな私の狼狽える姿に苦笑しエルナたんが両手を広げて「おいで」してくれた。

 泣かせちゃったのに良いの?そう思うとじわぁ…と鼻の奥が痛くなって視界がぼやける。


「──!エルナたぁーーっ!」


 聖母のような微笑みに胸がきゅーっとなり、私は一目散にエルナたんに抱きついた。


「うぁーーん!エルナたぁっ!嫌いにならないでぇぇ!」


 またしてもおんおん泣く私の頭をエルナたんは優しく撫でハンカチで顔を拭ってくれる。


「私が貴女を嫌いになるはず無いでしょう?もう…」

「ごえんなひゃい…」


 鼻が詰まってグスグス言ってるとエルナたんの背後からさっきのクソガキ様がひょっこり覗き込んできた。あンだこの野郎。


「…レディの泣き顔を覗くなんて良いご趣味ね、アラン様」


 一瞬エルナたんの眉間に皺が寄ったかと思うとまるで抱き込むように彼女の胸の中に顔を隠された。…隠してくれてよかった…もう少しでメンチ切るところだったから。

 と言うかクソガキ様はアランて名前なのか。


「ち、違う!僕はただ…」

「何が違うんです?殿方ならハンカチを差し出すくらいの甲斐性くらいお見せになったらいかが?」


 ……あれ?何かエルナたんトゲトゲしてる?


「エルナたん、エルナたん、もう大丈夫だよ?」


 涙が引っ込んだのでそう伝えるとゆっくりと腕をほどいてくれた。顔を見せると頬を撫でられそして瞼を撫でられる。


「少し瞼が腫れてるわ…泣きすぎたのね…」

「腫れてる?私ブスになってる?」

「ラピスがブスな訳ないじゃない。ラピスは世界で一番可愛いわよ?」

「世界一はエルナたんだよ!」


 ない。私が世界で一番可愛いとかないわー。それを言うならマイスイートエンジェルな君だよ!世界一は!


 二人の世界にきゃっきゃうふふしてるのを、クソガキ様改めアラン様はまるでスナギツネの様な顔で傍観していたのだった。






ブクマ&評価ありがとうございます!

かなり逝っちゃってるお話なのに…笑


誤字脱字がありましたらお知らせください(*´ω`*)

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