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78・悪徳商人ラピス

 


「たっだいまぁ~」


「おぅ、おかえり。早かったな」


 戻った私とリムリアを迎えてくれたのはヤトーだった。

 どうやら心配して月桂樹の近くで待っていてくれたらしい。さすがお兄ちゃん、優しい。


「魔晶石は見つかったか?」

「うん!見付かったよ~。でもいっぱいとるとダメってリムリアが言うからひとつだけ持って帰ってきたんだぁ」


 どっこいしょ、と布に包んで背中に背負っていた魔晶石を下ろす。


「デカッ!」


 それを見たヤトーの口許が引き攣る。リムリアも大きいって言ってたけど、やっぱり大きいらしい。


「育つ度に踏まれて地中に潜ってたみたいよぉ?他にもこれくらいの大きさの魔晶石がゴロゴロ転がって…じゃなくて埋まってたわ~」


 きっと魔物や野性動物が徘徊する地域だから今まで誰にも見付からなかったのね、とリムリアが得意気に笑った。


「良い採取場所が見付かって良かったわぁ。この分なら暫く魔晶石の在庫に困ることはないはずよ」

「そりゃ良かったな。ジルも安心だろ」

「私のドライヤーもこれで作れるわ!」

「結局それが目的かよ…」


 ムフー!と胸を張るリムリアをヤトーは苦笑しながら見ている。そんで何気に魔晶石の包みを持って歩き出すヤトー。お兄ちゃんだねぇ。









「で、()()は何だ?」


 あ、めっちゃ信用の無い目だ、アレ。


 リムリアと帰ってきた後、ジルと一緒に伯爵様へドライヤーの完成をお知らせに来ていた私。

 伯爵様のお仕事が一段落したのを見計らったつもりで来たんだけど、伯爵様はまだ執務机に向かったままだ。

 嬉々として差し出したドライヤーを見るなり伯爵様は胡乱な目で私を見遣った。


 ………そんな目を向けられるとイタズラしたくなっちゃうじゃないか。思わずニンマリとし、伯爵様の前でドライヤーの吹き出し口を向ける。


「えっとね~…ここから火炎放射が出るの」

「アホか!!」


 ガタガタッ!と音を立てて椅子から飛び退く早さに笑いそうになる。


「─と言うのは冗談で」

「アホか!!」


 二回目のアホをいただいてしまった。


「むぅ~…そんなに怒らなくても…」


 ぶぅぶぅと口を尖らせて文句を言う私の横で一緒に説明に来ていたジルがそっと私の手からドライヤーを取り上げた。


「イタズラは駄目だ」

「ごめんちゃい…」


 ジルに優しくメッと窘められて素直に謝る。それを見ていた伯爵様が「何故ジルには素直に謝って俺には…」とかなんとかブツブツ言ってる。


「取り敢えずまぁ座って話そう」


 伯爵様が目配せすると執事さんが執務室から出ていき、そのすぐ後にティーワゴンと一緒に登場した。相変わらず準備が早い。これが出来る侍従って奴なのか…。


 ふかふかのソファーに腰掛け、用意されたお茶とお茶請けを間に伯爵様と向かい合う。

 今日のおやつも美味しそうだ。クッキーの真ん中にジャムが乗ってる。これなんて名前だっけ?まぁいいか。


「で、これは何をするものなんだ?」

「これはドライヤーと言って、髪を乾かす為の魔道具です」


 クッキーに釘付けになっているとジルが伯爵様に説明し出した。

 伯爵様が紅茶に口を付けたので私もお茶を飲んでからクッキーに手を伸ばす。…おぉ、サクホロでジャムが甘酸っぱくて爽やか~。うまうま。


「髪なんて勝手に乾くだろう」


 向かいからそんな言葉が聞こえて私は手を止めた。今なんと?

 心底不思議だと言わんばかりに伯爵様は顎に指を添える。

 そりゃまぁこの世界の人はほぼ100%自然乾燥でしょうよ。だがしかし!慣れているからそれで良い、と言うのは思考の停滞だ。いや、怠惰だ。そんなことじゃエルナたんを幸せには出来ないのだよ!



「フッ…わかってないなぁ…伯爵様は」


 どうやら理解が追い付かないようだから私が直々に教えて差し上げようじゃないか。


「髪は濡れたままだと風邪を引いたりすることだってあるし、それに自然乾燥だと髪の毛が犬の尻尾みたいにバッサバサになったりするんですぅー。シャーロット様の御髪が綺麗になるんだよ?シャーロット様も喜ぶよ?」


 にちゃぁ…と悪徳商人みたいな笑みを浮かべた私。我ながら悪どい表情だ。

 今が買い時ですぜ、旦那ぁ…うへへへ。


「幼女らしからぬ顔で笑うんじゃない」


 シャーロット様が喜ぶ、という言葉に目を輝かせた伯爵様だが、今の私の笑みを見て頬を引き攣らせる。

 そしてわざとらしい咳払いをした後、ちらちらとドライヤーを見て「そこまで言うならひとつ作ってくれ」と溢した。


 それを聞いて私はにんまりとほくそ笑む。


「まいど!」

「金をとるのか!?」

「当たり前です。確かにジル達の安住の場を提供してくれたのはとっても感謝してるけど、それはそれ、これはこれ、です。きっちりジル達にお金払ってくださいね!」


 ジル達はこれから自分達で生活費を稼がなくちゃいけない。生産できるものでお金になるものは貴重なのだ。それには勿論ジル達ドルティア族の技術も含まれる。技術はただじゃないのだ。然るべき金銭を要求してもそれは当然の権利だと思う。

 そう伝えると伯爵様は「それもそうだな」と頷いたのだった。

 しかしそこで待ったがかかった。ジルだ。


「ちょっと待て、ラピス。確かに作ったのは俺達だが発案はラピスだ。その言い方だとラピスの損じゃないか」


 損?─あぁそっか。ジルは著作権ぽいことが言いたいんだね。


「そうでもないよ?これからもまだまだ作ってほしいものがあるから、ジル達には協力してもらいたいし…あ、勿論材料はちゃんと用意するから。なので私には値引きしてね!」


 対価はお支払しますよ、ちゃんとね。ノーぼったくり!

 私の欲しいものはこの世界にはまだ無いものだから、ジル達子供の柔軟な発想がなくちゃきっと行き詰まる。大人ってこうだ!って凝り固まった考えをなかなか変えることが出来ないからね。


 作れる作れない、は…まぁ置いといて、ジル達には私の野望のために協力してもらわなくてはいけないのだ。



「…そんなことで良いのか?」


 困惑したようにジルは私をじっと見つめる。


「いいのいいの!ジル達が大変じゃない程度に作って売ればそれだけお金も儲かるし、私は皆が魔道具作りに協力してくれるだけで嬉しいから!後から作ったものをジル達がどうしようと私は気にしないよ。売れないものは仕方ないけど、売れるものなら売ってお金にしちゃえば良いんだよ」

「……わかった。ラピスの願いなら聞かないわけにいかない」


 少し逡巡する素振りをしたジルは稍あって頷いてくれた。

 そうそう。それで良いんだよ。子供は大人の好意を素直に受けていれば良いのさ!


 むふー!と笑うとジルも釣られて笑ってくれた。

 ジルも納得してくれたし、次なるお品は…。


「よーし!それじゃ次はエルナたんの剣を作ろー!!」

「は?」

「え?」


 エルナたんに合う軽くてよく切れる剣の構想を思い浮かべながらクッキーを食べるのに忙しくて、ふたりのとぼけたような声は聞こえない私だった。




ねっちょり笑う幼女…笑



来週は忙しくてちょっと執筆に時間がとれなさそうなので、更新は再来週になります(´□`川)

ごめんなさい…



誤字、脱字がありましたらお知らせください(*´ω`*)

ブクマ&評価ありがとうございます(///ω///)

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