75・野望への一歩
「普通じゃないとは思ってたが…こうも斜め上をブチ抜かれると流石にもうどうして良いのか解らん」
ふっ…と黄昏ながら空を見る伯爵様。どうしたんだ?
「お姉ちゃん、お歌上手だねー!」
「でへへ…そ、そう?」
ニアが小さい手でパチパチと拍手を送ってくれた。照れるぜ。
見よ、これが幼女が歌った場合の正常な者の反応だ。何で誰も癒されてないんだ。
「歌云々より呪紋を握り潰してた方が衝撃的だったわよねぇ…?」
「俺、呪紋が握り潰せるって知らなかったぜ…」
リムリアとヤトーがヒソヒソと何かを囁き合っている。ジルとシーナはそんな二人を見て苦笑していた。
そんなに私の子守唄がヘタだったんだろうか。そこはお世辞でも誉めてほしいんだが。
何はともあれ、新しい村の場所も決まったし、呪紋も取れたし、めでたしめでたしだよね。
私達はお屋敷に戻ることにした。
新しい村の計画を頭の中で練りながら。
お屋敷に戻った私たちはひとつの部屋に集められ、あれこれと意見を出し合う。
私の提案通り村を月桂樹で囲む所から始まり、季節毎に実のなる木や家畜を飼うための場所の建設、貯水池等々、思い付く限りを紙に書き出し、それを新しい紙に絵にして書き込んでゆく。
一から村を作るなんて初めての経験なので楽しい。私が設計図を描く横でニアが村を囲む月桂樹の周りに花を落書きしている。特に問題ないので私が「ここにも描いて」とお願いすると嬉しそうに頷きお花を描いてくれた。皆が話し合うなかニアだけ仲間外れみたいにはしたくない。
「ニアは新しいおうちに何がほしい?」
「んとね~お兄ちゃんと一緒に寝るベッド!」
可愛い答えを返すニアを微笑ましく思いながら見ていると、その背後でヤトーがキュンとしていた。「ぐっ…妹が可愛い!」とか胸を押さえてる。
フッ…今のうちにときめいとけ。後数年で「お兄ちゃんのパンツと一緒に洗濯しないで!不潔!」とか言い出すんだぜ…?今しかない純真無垢なニアを堪能しておくといいさ。
その日は遅くまで子供達はわいわいと案を出し合い、夜は更けて行ったのだった。
余談だが、あの後伯爵様に呼び出された私は今現在使える魔法を全て聞き出された。
初歩的なものから自作のものまで…。その度に伯爵様は眉間をモミモミしていた。オマケにいくつかの自作の魔法は緊急時以外は使うな、と禁止までされてしまった。解せぬ。使うなら事前に連絡するようにって。え、メンド。
そんなこんなで早一週間。
村の建設が始まった。
村を囲うように植えられている月桂樹は私が森で引っこ抜いてきたのでタダだ。経済的ぃ。
実の成る木も何本かは森の中で見付けた。他にも欲しいなぁとマルチスで植木屋さんを覗いてみたらアホみたいに高かったので泣く泣く諦めた。木って何であんなに高いの?お子ちゃまのおこづかいじゃ買えないわ。こりゃ伯爵様に要相談だ。
更に一週間経った。
トンテンカンカンと金槌を打つ音、ギコギコと鋸が木を伐る音がそこかしこから聞こえる。
その音を響かせているのは伯爵様が手配してくれた職人さん達だけど、辺りを忙しなく行き交う人達は伯爵様の所の兵士の皆さん。なんと、防災も兼ねて兵舎も建てられることになったのだ。そのせいか建設スピードが格段に上がった。この分なら村が出来るのも直ぐじゃないだろうか。
お屋敷まで続く道へと繋がる脇道と、直接お屋敷に繋がる道の二本も開通し、行き来もしやすくなり作業は滞りなく進んだ。
7月に入る頃には村らしくなりジル達が暮らせる一軒家も出来上がり彼等はお引っ越しした。
その間にも村の建築は続いていて、なんとアトリエと鍛冶工房まで作られることになったとジルとヤトーが喜んでいた。それを見た私も思わずニンマリ。ふふっ…魔道具が作れるような環境になるのももうすぐだ。
まずはドライヤーでしょー?そんでスマホみたいな通信装置!エルナたんと毎日連絡するんだぁ~うへへ。それと忘れちゃならないエルナたんのかわゆい姿を盗さ…コホン、撮影するカメラが欲しい。
はぁ~…エルナたん元気かなぁ~…。
青く澄みわたる空を見上げてエルナたんのかわゆい微笑みを思い出す。
すると村の外をバッサバッサと飛ぶデカイ鳥が見えた。
思わず地面に転がった大人の拳大の石を拾い思い切り振りかぶる。
「てい!」
ビュオ!と飛んでいった石は鳥の頭に命中したのかギャッと遠くから鳴き声が聞こえ地面に落下していった。
「お肉ゲット~!」
早速森の中へ拾いに行かなくちゃ、と思っていると鳥が落下するのを見ていた兵士の人が声をかけてくる。
「隊長、俺が拾ってくるよ」
そう言って森へと駆けて行く。
彼は以前のウサギ狩りに参加した人のひとりだ。
あのウサギ狩りを経て、何故か私は参加した兵士さんたちに『ウサギ隊長』と呼ばれているのだった。何故?
まぁきっとあだ名みたいなもんだよね。気にしないでおこう。
その日は焼き鳥パーティーで幕を閉じたのだった。
「ラピス」
「にゃに?」
ある日のランチ中。ジルが真剣な表情で何か言いたそうに私に向き合った。
え、今じゃなきゃダメなの?
私は頬をパンパンに膨らませてサンドイッチを頬張っていた。マリスさんからの差し入れだ。んまい。
冷めるとカチカチになるパンも焼きたてはふわふわしている。流石お金持ちの家のパン。
もっもっ…と食べているとリムリアがボソッと「食べるのはやめないのね…」と苦笑を溢す。
なんだか皆がお話したそーな顔をしてるので取り敢えず口の中のものを飲み込んだ。
「どしたの?」
「その…ラピスは何か欲しいものはあるか?」
ん?欲しいもの?そりゃ沢山あるけど、どうした?
「僕達、ラピスに沢山助けられてるのにまだお礼もちゃんと出来てないから…だから僕達に出来ることなら何でもするよ」
「勿論、俺もだ。俺はジルやシーナほど手先は器用じゃないが、出来ることなら何でもするぜ?」
シーナちゃんとヤトーも任せてくれ、と胸を張る。
ヤトーの隣に座っていたニアも意味は解ってないみたいだけど兄の真似をしてムン!と胸を張っていた。
「あら、私だけ仲間はずれにしないでよぅ!私にもちゃんとお礼をさせてちょうだい?ラピスは私達の恩人なんですもの」
リムリアが笑いながら私のソースでベチョベチョの口許をナプキンで拭ってくれる。
「何でも言ってくれ」
呪紋がなくなって、素顔の五人が私を見て頷いてくれた。
「なんでも?」
「そうだ。なんでも」
本当に何でも良いんだよね?だったらお願いなんてひとつしかない。
私の欲望を満たすために是非とも協力してもらおうじゃないか!
「じゃぁ魔道具作るの手伝って!」
魔道具魔道具!エルナたんにプレゼントするんだぜ!ひゃっほー!
無意識に鼻息が荒くなった私に全員が吹き出し、笑いながら頷いてくれたのだった。
お話の中の季節にリアルが追い付いてきた…笑
ラピスは夏好きそうだなぁ~…私は苦手ですが(;・∀・)
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