74・浄化
シャラシャラと光で織られてた紐がジル達を囲んでゆく。
ジル達は驚きながらも何処か懐かしそうな眼差しで魔法の紐を見詰めて、そして全員がそっと瞼を下ろした。
沢山の細いリボンみたいな金色の魔法の糸がジル達一人一人にくるくると絡まってまるで網みたいになってゆく。
そしてすり抜けるようにして紐がジル達の身体から離れ私の元へと帰ってきた。紐は小さく毬のようにクルクルと丸くなりちょうど私の両手に乗るくらいの大きさになる。
ジル達の顔にはまだ包帯が巻かれていて呪紋の有無は確認できないけど、確信はある。だって今手の中に戻ってきた球体の中にいるんだもん。
「はい!取れたよ~!」
私の声に皆がぱちくりと目を瞬かせた。
「え…何が?」
シーナちゃんが困惑して私を見返す。
他の三人も不思議そうにお互いの顔を見ている。
「何がって…ほっぺの呪紋だよ? 皆が要らないって言ったから剥がしたんだけど…」
その言葉を皮切りに慌てた様子で4人全員が毟り取るように顔を覆う包帯を取った。
4人の頬から綺麗に呪紋がなくなっているのを見て安心する。ある意味ぶっつけ本番だったからなぁ~。
ジル達は互いの顔を確認し合うと瞠目し、自分の頬には手を添えた。
「嘘…だろ…?」
「本当よぉ…!ヤトーの顔に紋様は無いわ!私は!?私の頬にはまだあるの?」
「ない…!リムリアにも、シーナにもジルにもない…っ!」
泣き笑いの表情でヤトーが三人を抱き締める。ヤトーは皆より大きいから三人はすっぽりと腕に絡めとられ、いつもなら「暑苦しいわよ!」と怒るリムリアも大人しく腕の中だ。
「凄い!死ぬまで消えないと思ってたあの紋様が…!ありがとう、ラピス!」
「うわぁ!?」
駆け寄ったヤトーが私を抱き上げてクルクルと回る。抱き上げられて驚いたけど、ヤトーは誰かさん(伯爵様)みたいに空中にポーン!とは投げなかった。
私は忘れていない。シャーロット様ご懐妊の時にテンション爆上がりで私をクルクルポーン!と投げたことを。あの時ビックリして落としたクッキーの恨みは忘れていない。
お菓子の恨みはさておき。
ヤトーもリムリアもジルもシーナちゃんも、涙は溢さなかったものの、その眼にはうっすらと水の膜が張っていた。
4人に揉みくちゃにされながら賛辞の言葉を受けているけれど、皆見えてるよね?忘れてないよね?私がまだソレを手に持ってること。
「お前達、ちょーっと落ち着けー!」
何だろう。伯爵様がやや棒読みで声をあげる。
私はヤトーの手から伯爵様の手に移り、そして向い合わせで地に下ろされた。目の前の伯爵様が屈んでいるので視線が合う。
「…?」
なんだ?何か怒られるようなことしたっけ?
「………はぁ~~…」
じ~っと私を見ていた伯爵様が盛大なため息を溢した。人の顔見てため息とは失礼な。
そしておもむろに私のほっぺに手を伸ばす。
「報告」
「にゅ!」
「連絡」
「むぅ!」
「相談」
「みぁ!」
一言発する度にほっぺをもちもち伸ばしたり押されたりする。その度に私も変な声が出てしまった。
「どうしてお前は約束を守れないんだ」
「やくひょく?」
そんな約束したっけ?
…………あ、職人の村で屋根に登った時にしたかもしんない。
「あうらいころひれらいお?」
「あ?」
ほっぺをもちもちされたままだったから聞き取れなかったようで、伯爵様がほっぺから手を離した。
むぅ~ほっぺが伸びたらどうしてくれんの?
「危ないことしてないよ?」
「そう言う事を言ってるんじゃない」
「う?」
じゃなに?
首をかしげると伯爵様はなんだか残念なものを見る目で私を見てきた。なにその顔。
「……ちなみに、さっきの魔法は何だ?あんな魔法は見たことないぞ」
「えっとね~【概念】を捕まえる魔法!」
うん、概ね合っているはず。だって呪いって概念みたいなものだし、形がないから捕まえることはできないし、だったらもう概念だと思うんだよね。
「概念…だと?」
あれ?伯爵様の口角がヒクヒクしている。
そしてまた深ぁくため息を吐いてげんなりと俯いてしまった。
「…なんでコイツは次から次へとんでもない魔法を作るんだ…概念を捕らえるなんて大賢者でも出来ないぞ…」
何かブツブツ言ってるけどよく聞こえない。
それはともかくとして、後始末だ。
さて、コレをどうしたものか…。
「ねぇ、お姉ちゃん。さっきからなに持ってるの?」
伯爵様の傍らに居たニアが私の手元を指差しこてん、と首をかしげた。
「ジル達の呪紋だよ」
「「「「え!?」」」」
背後のジル達が声を揃えてギョッとしたように後退る。
「大丈夫だよ。もう閉じ込めちゃってるから。後は後始末なんだけど…」
「あ…そうなんだ…」
ほっとした様に皆の肩から力が抜ける。
しかし呪いの消去ってどうやるんだっけ?
軽い呪いなら解呪と同時に霧散するんだけど、多分コレはそうはならないと思うんだよなぁ…。確実に宿主を求めて取り付きそう。
「伯爵様は知ってる?呪いを消滅させる方法」
「いや…俺も詳しくは知らないが…。─そう言えば、過去の記述に歌で呪いを浄化するってあったような…。けどそれは何代か前の聖女の偉業だったはずだ」
「それってどんな歌なんだろう…?」
「今はもう失われた歌らしいから俺も知らん」
まぁ聞いたところで私は聖女じゃないから歌で浄化なんて無理っぽいけど。
「歌かぁ…」
この世界には流行りの歌なんてない。
たまに吟遊詩人が歌った物が口伝えで残っているくらいだ。
私は歌なんて前世のアニソンと当時流行った物しか覚えてない。JとかKとかのポップな物はほぼ分からないんだよね~…。
聖女の歌ってくらいだから讃美歌的なアレだろうか?解らん。
「あ、私ひとつだけ知ってるよ!」
そう言えばこの世界で私がひとつだけ知っている歌がある。
今でも時々両親や兄が歌って聞かせてくれる歌。
「タイトルは知らないけど家族が歌ってくれる子守唄なら歌えるよ~!」
「いや…ただ歌うだけじゃダメだろ…」
「まぁモノは試しってことで!」
まだ何か言いたそうな伯爵様は「しょうがない。まぁ試してみろ」と溜め息混じりにそう言った。
けど確かに伯爵様が言うようにただ歌うってだけじゃ駄目なのかも知れない。だったら歌の歌詞に魔力を込めるのはどうだろう?
浄化が目的なら聖魔法かな?よし、いっちょやってみよう。
スゥ…と息を吸い込む。
「『─…星の囁きが聞こえ出す
月の光が淡く揺らめく
夜空のショールはゆっくりと
宝物を迎えに 降り注ぐ
妖精の女王が 頭上を舞って
幸せな夢へと誘う─…』」
おぉう…歌に魔力を乗せるのって結構難しい。
けど、そんな私の拙い子守唄にも効果があるのか、光の毬の中の呪いが苦しみ出したのが伝わってくる。
むぐぐぐ…イケる感じなのかな?
よし、このまま消えちゃえ!
ミチ…ミチ…と力を込めて光の毬を握り締めて居ると回りから何かボソボソと聞こえてきた。
「おい、アレ歌で浄化ってよりも力で圧してないか…?」
「ちょ、笑顔でミチミチやってるわよぉ…?」
「圧がスゲェな…」
そんなジル達の言葉は耳には届かず、私はラストスパートで最大の魔力を歌に乗せた。
「『健やかに 可愛い宝物
光があなたを迎えに来るまで─…』」
歌い切る直前、まるで風船が割れるようにパァン!と小さな破裂音が響いた。
そして毬になって呪いをくるんでいた魔法の紐がキラキラとラメを撒いた様に降り注いだ。
「ありゃ…消えちゃった」
なんだ。根性のない呪いだなぁ。もっと粘られるのかと思ったら割りとあっさりと消滅?浄化?されてしまった。
浄化とは名ばかりの力業でした…笑
誤字、脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます(*´ω`*)




