71・なければ作ればいい
皆に大絶賛のカレーを美味しくいただいた後、私とジル達、そして伯爵様だけがその場に残り、今後について話し合うことになった。
ジルとシーナちゃんも環境に慣れ初めて顔色も良くなった。たった一週間かもしれないけれど、二人にとっては慣れ親しんだ同郷の仲間が居ることは心の平穏にもなったようだ。
「ここでの生活には慣れたか?」
「はい。伯爵様にはとても感謝しています。俺達だけでなく、同郷の仲間まで保護してくださって…本当にありがとうございます。それで皆とも話し合ったのですが仲間も増えたことですし、何処か落ち着ける場所へ居を移そうかと…」
ヤトーが代表してそう答える。
お屋敷の皆は優しく、よくしてくれる。けれど子供とはいえいつまでも世話になる、と言うのは居心地が悪いようだ。ジル達と再会したその日にヤトーは皆で話し合い、決めていたようだった。
「居を移すと言ってもな…」
「ご迷惑でなければ人里から少し離れた場所で構わないので移り住んでは駄目でしょうか…?」
「駄目だ。子供だけの生活は危険だ。せめて近隣の村にしないか?」
「…ですが。……それにまだこれからも合流する者達も居ると思うので、大所帯になると…その…目立つでしょうし…」
ヤトーが視線を落とす。きっと住民に受け入れてもらえないと考えているのだろう。
それに伯爵様も子供達だけの生活をとても心配している。
知らない土地の住民が差別意識を持ってないなんて誰にも断言はできない。それなら人里から離れた場所でひっそりと暮らしたいと言うのがヤトーの望みのように聞こえた。
人里から離れてて…でも伯爵様の目の届く場所…そんな都合のいい場所……─あったわ。
「はいはいはーい!!私いい場所知ってるよ!」
「ラピスはどこかいい土地を知っているのか?」
ジルが振り返り瞠目する。そんな彼ににんまりと笑い返した。
「ジル達が住む村を作れば良いんだよ!」
えっへん!ナイスなアイディアであろう!と胸を張る。
そんな私に伯爵様を始めヤトー達も「は?」と間の抜けた言葉を溢した。
「おい…ここに村を作るのか…?」
「そうだよー。ここなら広いし、伯爵様もすぐそばに住んでるし、条件ピッタリじゃない?」
皆で移動した先で私は両手を広げて土地の提案をした。更地だし、広いし、伯爵様のお屋敷だって兵舎だって近い。まぁ欠点は魔の森が近くにあるって事なんだけど、そこはどうにかなるでしょ。
「お前…」
伯爵様が深ぁ~く溜め息をついた。
なんだよぉ。どうせ何もない更地なんだからいいじゃん!何が不満なのかわからない。
「得意気に提案するからどこかと思えば…ここはお前が暴れて作った場所じゃないか!」
「失礼な!暴れてないもん!魔法が失敗しただけだもん!」
「同じだろ!」
そう、ここは例の山ハゲ地帯である。
円形脱毛症の如く真ん丸に更地になっているし、伯爵様のお屋敷だって目と鼻の先だし、何より広いし言うことないと思うんだけど。
「大体、そこまで多くないとはいえ魔物だって彷徨いているんだぞ?こんなところに子供だけ置いておけるか」
「そこは問題ないよー。円形の縁に沿って等間隔でジグザグに月桂樹を植えておけば魔物は寄ってこないもん。日当たりも良いし、月桂樹もニョキニョキ育つだろうし、何より月桂樹はお金になる!そこまでお世話が大変な木じゃないし、剪定した物を売れば多くはないけど収入源だって確保できるし言うことなしだよ!」
前世の月桂樹はお料理に使える事や薬効があることが広く伝わっている。勿論この世界にも同じ月桂樹があるんだけど、料理に使うことはあっても他で使っているのは見たことがない。なんて勿体ない。だったら有効活用するべきだ。
我ながら良い案じゃなかろうか?財源の確保も出来るしね!
むふーっ!と鼻息荒く言い切った私に伯爵様も皆も何故か唖然としている。どした?
「─ちょっと待て。月桂樹って何だ」
「あ、ローリエの事だよ」
「ローリエって…肉の臭みを消すための物よねぇ?」
「あの葉っぱを魔物が嫌がるってことか?」
料理に使うものだって事は知っているようだ。
だからなのかリムリアとヤトーは不思議そうに子首をかしげる。
私達人間にとってみればいい香りの葉っぱだもんね。
まぁ月桂樹を魔物が嫌がるって気が付いたのは偶々だ。それでも一応は検証してみたから間違いないと思う。わざと月桂樹の方へ追い込んだ魔物が避けるように迂回したからね。突っ切れば良いだけの場所なのに、だ。これはもう避けてるってことだよね。
何度も試したし、試しに頭上から葉っぱだけを振り掛けてみたらそれすらも脱兎のごとく逃げ出したりもした。
まぁ高々六歳の異世界初心者幼女が知ってることなんだし、この世界じゃ常識なんだろうな~と思っていたけれど、皆の反応を見るに案外そうでもなかったようだ。伯爵様もジル達もそんな事は聞き始めだと訝しげにしている。
確かに月桂樹だけじゃ不安になるのは仕方ないよね。
「けどまぁ月桂樹だけじゃなくて防衛に関しては他にも色々設置したりとかは考えてるよ?」
「例えば…?」
「ボーダーラインを越えたら自動で串刺しにする土魔法とか!」
「相変わらずえげつないな…お前は…」
私の答えを聞いた伯爵様が顔を引き攣らせて言った。
なんだよぅ!せっかくプレゼンしてるのにえげつないとは失礼な。防衛は大事なんだよ?オーバーキル位で丁度良いんだよ!
「防衛はさておき、ジル達も其々に得意分野があるし、協力し合えば案外良い棲家になると思うんだよね!私も協力するし、勿論伯爵様も協力してくれるんでしょ?」
「勿論だ。 俺としては別に屋敷に居てもらっても全く構わないが…お前達の意見を尊重しようと思う。さて、どうする?」
ジル達は顔を見合わせ口許を綻ばせて小さく頷き合った。
「─ここに、決めようと思います」
ヤトーの言葉に伯爵様は小さく笑みを浮かべては「そうか」と少し寂しそうに答える。多分子供達だけの生活を本当に心配してるんだろう。何だかんだ言っても伯爵様は優しい。
「よし、そうと決まれば色々と準備しないとだな」
「そんじゃお屋敷に帰って計画を立てようよ!月桂樹を外側に植えて、それから内側には果物や実をつける樹も沢山植えようよー。そしたらいつでも食べられるし!あ、家畜も飼おうね!鶏や山羊とか羊とか牛とか豚とか!お肉も卵も食べられるよ!」
「お前は食いモンのことばっかりだな」
「失敬な!ご飯は大事なんだよ!」
そんな伯爵様とのやり取りを見ていたジル達が吹き出す。
明るいおひさまの下で笑顔を浮かべる子供達は輝いて見えた。これからの生活には不安もあるだろうけど、きっとジル達なら大丈夫。私もお手伝いするし、何より伯爵様が味方だ。
「─あ!そうだ!!」
「どうした」
危ない危ない。サプライズの事を忘れていたよ。
カレーを食べたせいで脳内幸福度指数があがって度忘れしてた。
「ジル、シーナちゃん、ヤトー、リムリア。ちょっと並んで~」
ニアだけは伯爵様の所へ移動してもらう。ニアには呪紋がないからね。
「…?何をするつもりだ?」
伯爵様の目が「また何を企んでるんだ」と細くなる。そんな胡乱な視線を送らないでほしい。私が何をしたと言うんだ。
並んだ四人は視線を合わせて子首をかしげている。
ふへへへ…。遂にこの時が来た。私の計画の一歩目…題して『恩を売ってあわよくば私の専属魔道具師に取り込んでエルナたんへの貢ぎ物を作らせちゃる!』計画!!…まんまやん!けどいいんだもん!
「じゃあ始めるよー!」
昨日完成したばかりの魔法を思い浮かべる。
魔力が身体を循環してまるで織るように繋がってゆく…。
全ての構築式が完全にハマった瞬間、その魔法は目映い光と共に足元から立ち上がった。
「──『魔法の紐』!!!」
更新遅くてすみません(´д`|||)
4月はそんなに更新出来なかったので5月はがんばります!(๑و•̀ω•́)و
誤字、脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます!(*´ω`*)




