70・感動の再会
ホカホカと湯気をたてる炊きたてご飯。
今世では初めての白・米っ!!ひゃっはー!
「甘くていい匂いがするな~。嬢ちゃんの水加減見たときは少ないんじゃねぇかと心配したけど、上手く炊き上がったもんだ」
マリスさんが感心したようにスパチュラでご飯を混ぜる。しゃもじ、ないんだよね…ジルに作ってもらおうかな。
「へぇ~こんなにふわふわになるんだな」
スパチュラに乗ったご飯を眺めてマリスさんは感嘆の吐息を洩らした。リゾットみたいにドロッとした料理は知っていたけど、こんな風に炊くのは初めて知ったらしい。
「このご飯にカレーをかけて食べるんだよ~」
「…合うのか?」
「合う!これ以上の組み合わせは存在しないほどに!」
力強く宣言しておく。いや、カレーパンとかも美味しいけどさぁ。やっぱ日本人にはライスでしょ。
半信半疑なのか、マリスさんは小皿に一口分のご飯とカレーをよそっている。ほかほかのご飯の上にかけられたカレーを目の当たりにして思わずゴッキュンと喉をならしてしまった。早く食べたい。
スプーンに乗った一口分にしては多いカレーライスをマリスさんは男の人らしく大口でカプリと口に食む。
その瞬間、マリスさんの表情がまるで子供みたいにキラキラと輝きだした。モグモグゴックンと嚥下した途端、くしゃくしゃに顔を喜びに染めたマリスさんは「うめぇェェ!!」と地団駄踏みそうなほど喜んでくれた。
さすがカレーの威力。28歳のマリスさんも子供のような笑顔だね。
よし、これなら皆に食べてもらっても恥ずかしくない出来だろう。
で、なんで伯爵様やアー君、それにシャーロット様までスタンバってんの?
ジル達のお部屋じゃ机が小さくて皆で座れないので、従業員用の小さい食堂にジル達に集まって待っててもらったんだけど、覗きに行ったら何故か呼んでいない親子が普通に座っていた。なんでや。
怪訝な顔をする私にシーナちゃんが困惑気味に視線を寄越してくる。
「なんで伯爵様たちが居るの?」
「それが…僕達が来たときには既に…」
成る程、既に座ってたってことね。
それにしてもなんで普通に伯爵様達が座ってんの?そりゃ貴殿方のオウチだけどさぁ。
「…今日はジル達とのランチ会なんですけど」
ジト目で伯爵様に視線を送ると「アホか」と言われた。失敬な!
「俺は朝からそりゃぁもう一生懸命仕事をしていた訳だ。─なのにッ、意識を集中して執務に励んでいる俺の邪魔をするかのような香りが朝から何処からともなくふわふわふわふわと…!この香りはなんだ!けしからん!」
「僕も勉強が捗らなくて。匂いを辿ってたらここに着いただけだ」
「私も。食欲を唆る香りについ我慢できなくって…ふふふ」
何が「けしからん」だ。めっちゃ食べる気満々じゃないか!三人とも目がキラキラしてるし。
…この人たちホントに貴族なの?
呆れ混じりの視線を伯爵様に送っていると一緒に来ていたマリスさんが小声で「すまん」と謝ってきた。
何の事だか解らずに首をかしげる。
「実は…裏庭に行く途中で伯爵様に捕まってな…この匂いはなんだって聞かれたもんだから素直に嬢ちゃんが料理してるって言っちまった。わり☆」
お前か!お前がホイホイしちゃったのか!
28歳成人男性の「てへぺろ☆」なんて可愛くないぞ。その謝り方やめろ!
「そう言う訳だから、旨い物は皆で食べようじゃないか」
伯爵様が腕を組んだままドヤ顔で何か言ってる。
この家族、以前の唐揚げの件で私に対する料理の腕への信頼度が異様に高いのだ。たった一度の唐揚げでここまで信じるってどうなの?
「このカレー…だったっけか?結構香りが広がるもんだから演習場の方まで匂っててな。兵士の兄ちゃん達も何かソワソワしてたぞ。何の匂いだって聞かれたからこれまた嬢ちゃんが料理してるって言ったらザワついてて面白かったわ~」
そんなに匂いが漂ってたのかぁ。てか兵士の皆さんのザワついてって何なの。そこは幼女の辿々しいお料理風景を想像してキュンするところじゃないのか?
「まぁこの香りじゃ皆集まって来んのも仕方無くね?」
前世じゃカレーなんてそんなに珍しいものでもなかったから気にしてなかったけど、大の大人がホイホイされちゃうなんて、カレーの香りって凄いんだなぁ。
「まぁたくさん作ったし、いっか」
皆座っちゃってるし、仕方ないか…と小さく息を吐く。
どっちにしてもジル達に「おいしい」って言ってもらえたなら遅かれ早かれ伯爵様達に振る舞う予定だったのだから。それがちょっと前倒しになってしまったけど、まぁいっかな。
その後、さすがに大人ふたりに子供7人だとこの部屋のテーブルじゃ狭いよね、って事でいつものダイニングルームへと移動することになった。
「ふおぉぉ……!」
そして今、私の前には数年ぶりのカレーが……!!
福神漬けがないのは残念だけど、数年ぶりの感動の再会の前には些末な事さ!会えて嬉しいよ、カレー様!
「この白いのは何だ?」
お皿を持ち上げていろんな角度から見ている伯爵様が白米を見て首を捻る。
「米ですね。半年くらい前にルビニカ公爵様が土産にって持ち込まれてものです」
「あぁ!あの白い麦みたいなヤツか。─ほぅ、こんな風にして食べるものだったとは…」
「確か…東の島国ではこの米が主食だって言ってましたね」
給仕をしながらマリスさんが伯爵様の問いに答える。ニィナさんもお手伝いしてくれているので、あっという間に皆の前にカレーが並んだ。
私は平民だからこんな風にワンプレートのご飯には慣れてるけど、伯爵様達は貴族だし、戸惑うんじゃないだろうか?とチラリと様子を窺ってみたら全然杞憂だった。三人ともワクワクとお皿のカレーライスを見詰めている。
「よし、では皆でいただこう」
伯爵様の声で皆がスプーンに手を取る。そして伯爵様達親子は何の躊躇いもなくパクリとカレーを口に含んだ。同時に躊躇いながらもジル達が意を決する様にスプーンを口に食む。私はその様子をドキドキしながら見ていた。だってお口に合うか気になるんだもん。ちなみにマリスさんも壁際でその様子を固唾を飲んで見守っている。
しかし何故か全員スプーンを口に含んだまま時が止まったかのように動きを止めた。
その中でひとり、伯爵様だけがスプーンを置き真剣な顔で私を見てきた。
え、なに?不味かった?マリスさんには大好評だったんだけど。
「…なんだこれは。ラピス…お前、とんでもない物を作ったな」
えー!そんなにお口に合わなかったの!?あばばばば!
「こんな物が世に出回ったら大変なことになるぞ」
「そ!そんなに!?」
そんなに壊滅的に口に合わなかったのだろうか、と狼狽していると次の瞬間再びスプーンを持った伯爵様は掻き込む勢いでカレーを食べ始めた。ん?んん?
「これは─食の革命だ!!」
あっという間にカレーを平らげた伯爵様がおかわりをマリスさんに要求している。
ん?あれ?私の緊迫感、処理の仕方がわからないぞ。どうしてくれる伯爵様。
「ラピスはやはり天才だな!」
「美味しいわぁ~!ラピスちゃんは本当に凄いのね!これなら食欲の落ちる夏でも食べられそう!」
唖然としているとアー君とシャーロット様が目映い笑顔で称賛の雨を浴びせかけてきた。
ふとジル達に視線を寄越せばこっちはこっちで無言でカレーを掻き込んでいた。ヤトーに至っては最早獣のようだ。
…取り敢えず喜んでくれたってことで良いのだろうか?
「ええと…おいしい?」
おずおずと尋ねると、バッ!と全員が私を振り向き答えてくれた。私が欲しかった言葉を。
美味しい!!と。
その答えで私が今から食べるカレーも格段に美味しくなる予感がした。
更新に一週間もかかってしまった…忘れられていないだろうか_:(´ཀ`」 ∠):_
誤字、脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます!(*^ω^*)




