69・野望の鍋
「ぐーるぐーる」
「………」
「うえっへっへっ…おいしくなぁれ、おいしくなぁれ~」
本日の私は寸胴鍋番長である。
私の身長に合わせて積まれた木箱の上でお玉を両手で握り締めぐるぐると鍋底からかき混ぜて行く。
立ち昇る薫りは懐かしの、そう!カレーである!!
お昼ごはんにこの懐かしのカレーを皆にご馳走した後、サプライズでジル達の呪紋の解呪をするのだ!ふはは。
食べ物で懐柔してあわよくば魔導具を作って貰うんだぜ!下心てんこ盛りで何が悪いんだ。
「端から見るとヤベェ幼女にしか見えんからその笑いかたやめれ」
「えぇ~?」
私の横では現場監督兼見張りのマリスさんが腕組みして頬をひきつらせ私を見ている。
「それより、もう良いんじゃね?」
「まだダメー!…と言いたいところだけど、味見ならいいよ」
にんまりと笑ったマリスさんがサッと小皿を差し出す。持ってたんかい。
私からお玉を受け取り小皿にカレーを注ぐ。そしてまた私にお玉が返ってきた。生粋の料理人だからかマリスさんの顔はワクワクと輝いている。
さぁ、度肝を抜いたれ!我が華麗なるカレーよ!
「!!!」
カレーを口にしたマリスさんの眼がカッ!と見開かれる。そしてプルプルと体を震わせると今度は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「…今、俺の中で何かが爆発した…っ!」
なんじゃそら。
ばっと立ち上がったマリスさんは目をキラキラさせて私が調合したカレー粉の小瓶をつまみ上げ眺める。
「これ、他にもつかえるんじゃないのか?」
「う、うん。使えるけど」
「やっぱりか!」
やだ、興奮して鼻息荒いよマリスさん。
「お肉に軽くまぶしたり、ジャガイモを油で揚げてまぶしたりとか、ソーセージにも合うよ。後はオーブン焼きとか、かな?あ、唐揚げの下味の時に使うと香ばしくなるよ!」
「ほうほう!」
さすが料理人。お料理の事には貪欲だ。けどそのお陰で私も美味しい物にありつけるのでどんどん覚えて欲しい。私のために。
私の説明を聞いたマリスさんがジャガイモを二個片手に戻ってきたので、洗ってくし切りにしたそれを隣で油で揚げてもらった。
最初は私の言うレシピに戸惑いがあったマリスさんだけど、最近はそんな事もなく逆にワクワクとしている気がする。新しいレシピに料理人魂が騒ぐのだろうか?
シュワシュワと油のなかでじゃがいもが踊る。
油で何かを揚げると言う料理法を知らなかったマリスさんは最初はそれはもう怪訝な顔をしていたものだ。あの頃が懐かしい…。
揚げ上がったジャガイモに早速カレー粉を振り掛けようとしたマリスさんを止めて、塩を振っただけの物を取り分けてもらう。私は塩派だ。余計なフレーバーなど要らぬ。
ちょい前にフライドポテトを初体験したマリスさんは新しい味を試したいのか早速カレー粉を振り掛けボウルを振って混ぜている。鼻歌混じりだ。
出来上がったカレーフレーバーのフライドポテトを食べたマリスさんは「酒が飲みたくなるな」と噛み締めながら溢す。わかる。まぁこの年じゃ飲めないんだけど…。一回やらかしてるし。
マリスさんと並んで揚げたてフライドポテトをつまんでいると背後に誰かが近寄って来た。
「─あっ、ラピスちゃん。ここにいたのね」
「ニィナお姉ちゃん!どうしたの?」
近付いてきたのはニィナさんだった。相変わらず癒し系だなぁ。
「アラン様がラピスちゃんは今日は来ているのか?ってお聞きになってね」
アー君と何か約束してたっけ?何の用だろう。歴史書はこの間返したし。
「約束してないけど、何か用かなぁ?今日はカレーで忙しいんだけど」
今日は色々と立て込んでいるのだ。すまんがアー君の相手をしている暇はない。
「アラン様はきっとラピスちゃんと会いたいだけだと思うわよ?」
ニィナさんはにこりと笑って微笑ましそうに私を見つめてきた。何だろう、このポワポワした笑顔は。
「ふぅん。けど今日は忙しいから用があるならまた明日ねって伝えておいてくれる?」
別に急用じゃなきゃわざわざ会わなくたっていいと思うんだけど。それに同じお屋敷内に居るわけだし、いつだって会えるんだしさ。
「……哀れ、坊っちゃん…」
「ァ、アハハハ…」
何かわかんないけど、マリスさんとニィナお姉ちゃんが同じような表情で苦笑いしている。意味不明なんだけど?
「それにしても…ラピスちゃんとマリスさんが並んでお料理している姿を見ていると、何だか二人が父娘みたい」
そう言ってニィナさんはクスクスと控え目に笑う。どうやら厨房にいた他の人達にもそう見えていたのか、生暖かい視線で微笑みかけられた。
「うちのお父さん、マリスさんみたいにチャラくないよ?」
「はぁ…?!おまっ、俺は一途な性格だ!全然チャラくねぇよ!」
滲み出るチャラ男オーラに説得力を全く感じない。あ、でもお料理に対してはとっても一途だよね。そこはチャラくないよ。後はチャラいけど。
「うちのお父さんはお母さん一筋だよ。よその女の子に声掛けまくる人は一途じゃないってお父さんが言ってた」
生暖かい視線がマリスさんに集中する。マリスさん可哀想に…皆の思いは同じだったのね。
「あとねぇ、髪の長い男の人は遊び人が多いから気を付けなさいってお兄ちゃんが言ってた」
全員の視線がマリスさんのうなじに注がれる。そこには結わえられた短い尻尾がぴょこんと主張していた。
「これは…っ、仕方ねぇんだよ。見ての通り俺は癖毛だからな。短いと跳ねるし、だから伸ばして結わえるようにしてるんだよ!それが一番髪の毛が落ち着くんだから仕方ねぇだろ!?お前らみたいな直毛に癖毛の苦労なんてわかってたまるか!お前ら全員髪が縮れてしまえ!!」
どうやらマリスさん天パを大変気にしていたようだ。最後には呪詛をお見舞いされた。やめて、縮れたくない。
天パには天パの苦労があるんだね…。まぁ解らなくもないけど。
確かにマリスさんの髪の毛軽くウェーブしてるけど、チリチリじゃないんだからそこまで気にすることないと思うんだけど。
マリスさんはイジイジと不満げに自分の髪を摘まんでいる。
どうせアレだろう?天パだと女の子にモテないからとかそんな理由なんじゃなかろうか。
「私も癖っ毛ですよ?ホラ」
けれどイジイジしているマリスさんにも天使の声が。
なんとニィナさんである。彼女は左右に結んだおさげを摘まんでマリスさんに見せた。
「……前にラピスちゃんの髪を梳いているとき教えてもらったんですけど、きちんと髪を乾かすことが大事なんだそうです。髪を乾かさずに寝てしまうとうねりが酷くなるみたいですよ?」
もしかして濡れたまま寝てません?とニィナさんが首を傾げてたずねるとマリスさんが気まずそうに視線を逸らした。図星のようだ。
この世界にはドライヤーなんてないから自然乾燥で乾かすのが普通だもんね。おまけに男の人は面倒臭がりで濡れたまま寝てしまう人が多いからか寝癖が酷い人とか結構多い。マリスさんのそっち側の人みたいだ。
これはドライヤー制作を本格的に考えなくては。
と、その前にこのカレーでジルを堕とすのだ!みんな大好きカレー!これで堕ちなきゃチルドレン失格だぜ!そしてあわよくば魔導具制作をお願いする!!ぐふふふ…!
ニヤニヤとカレーを混ぜる私をほっといて、マリスさんがニィナさんに髪のお手入れについて聞いている。そんな二人を横目に私は野望に燃えるのだった。
天パには天パにしかわからない悩みがあるのさ…ってお話?でした笑
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