6・私刑
※暴力描写有り。下品につき注意。
「良かった、成功した!」
後まだ100m位距離があったけど何だか危険そうだったので結界を張った。離れた場所に結界を張るのって難しいから今までは50m位までが限界だったんだけど、成功しちゃったよ。やっぱ愛の力だね!
それよりも…。
「私のお姫様に何さらしとんじゃーーー!!!」
とうっ!と崖上から飛び降りそのまま一番前で護衛の人に対峙していたオッサンの頭に飛び蹴りを食らわせる。
「へぶっ!」と豚のような鳴き声と共におっさんが吹っ飛んで岩にめり込んだ。
「お、お頭ぁぁぁ!!!」
「何だこのガキ!?」
あ、今の盗賊の頭目だったんだ。ラッキー。
私は岩にめり込んだままのおっさんに近付き、足を掴んで岩から引っこ抜く。
呼び掛けたけど白目を剥いて返事がない。どうやら屍のようだ。
あ、ピクピクしてるから生きてるか。
「おいクソガキ!お頭から離れろ!ぶっ殺すぞ!」
「おとなしくこっち来いや!」
振り返ると敵意をむき出しにしたおじさん達が私を睨み付けている。
いやいや、おとなしくそっち行ったら殺す気じゃん?ヤだよ。
「おじさん達さぁ、狙いはエル…御嬢様だよね?身代金目的?それとも何処かの誰かに頼まれたのかなぁ?ねぇ、どっち?ねえぇ~え?」
無表情で首を傾げてみれば、数人がジリッと後退る。
「何だこのがガキ…!気味がワリィ…」
「構うこたぁねぇ、さっさと殺して公爵のガキをかっ拐うぞ!」
─あぁ?今何つった?
ビキッっと私の中の何かが軋む音がした。コイツら私刑確定。
盗賊は全部で18人。一人は白目で気絶してるから残りは17人だね。
私は腰に差した短剣を抜く。それを見て破落戸共は馬鹿にしたようにニタニタと顔を歪めて笑いだした。恐らく私みたいな子供に剣で負ける筈がないと思ってるんだろう。
だが残念。日々の修行で私の力はちょっとした大岩を素手で粉砕できるまでに強化されてる。なので張り切って戦うと相手がミンチになりかねない。かなり力を押さえて優しぃ~く戦わなくては。
だから─。
スピードで勝負だ!
ぐっと踏み込んだ脚に神経を集中させて一気に飛び出す。一年間山で鍛え続けた私のスピードは自慢じゃないけど誰にも負ける気はしない。
一瞬で間合に入られた男達は何が起こったのか分からないまま、私の短剣で膝裏を切り裂かれ地に倒れ込む。スピードを落とさないまま全員の膝裏を切り裂いたのはほんの数秒の事だった。
「ぐあぁぁッ!!何だ?!何しやがった!このガキィ!」
「いてぇぇ!クソ!何でだ!?立てねぇ!」
踞り苦痛に顔を歪める男と目が合ったのでにっこりと笑ってあげた。
「ひっ!ひぃぃぃ!!何なんだこのガキ…!」
這いずりながら逃げようとする何人かを横目に、私は地面をタン!と靴裏で叩き、呪文を口にする。
「『根よ、悪しき者共を拘束する鎖となれ』」
その言葉通り、ボコッと地中から植物の根が飛び出し、見る間に男たちを拘束して行く。全員這いつくばって居たから地面にちょうど張り付けにされた状態だ。勿論、白目のお頭も一緒に。
「動けねぇ!クソッ!クソォォッ!」
殆どの男共はその根の拘束から逃れようと暴れている。けれど残念なことに動かせるのは精々指先か首から上くらいのものだろう。
私は一人の男の頭元にしゃがみ、笑顔でその顔を覗き込んだ。
「ねぇおじさん、知ってる?。遠~い国じゃ、小さい子供に手を出す人の事を『変態ロリペドクソ野郎』って言うんだよぉ?知ってた?ねぇ、知ってるよね?」
私は片手で短剣を弄びながらチラチラと視線を寄越した。
「あとねぇ、女の子に悪いことをする男の人は『去勢』しなきゃなんだよ? ねぇ、『去勢』知ってる?」
「きょ、きょせ…い…?」
次第に顔色が青くなる男に私は殊更笑顔で問いかけた。
「そ。知らない? キョ・セ・イ」
「……」
男は分からないと言うように首を振った。
回りの男共もそんな私達の会話に耳を欹てている。
「そっかぁ、知らないんだ。じゃぁ教えてあげるね!」
私は背負っていたバッグの中からおやつ用に持ってきたひとつの枝に二つの実が付いた果物を男に見せた。立ち上がっていたので他の男共にも見えるだろう。
「つまりは…こう言う事だよ」
語尾にハートが付きそうなくらいの笑顔で、私は持っていた果物を枝からスパッと切り落とした。
てん、てん、と転がったレモン大の果物を私は「えい!」と踏み潰す。
「「「……………」」」
一瞬意味が分からなかったのか数秒ポカンとした後、男共は目に見えて真っ青になりガクガクと震えだした。
「だぁいじょうぶだよ!やったこと無いけど、上手に出来ると思うから!」
にこーーっと笑顔で男を見下ろす。男の顔色は青を通り越して真っ白に。
「たっ、たたたたの、たのむ!や、止めてくれ!頼むぅぅぅッ!!」
「痛いのは最初だけだよ!きっと大丈夫!おじさんがおばさんになっちゃうけど…う~ん…きっと新しい扉が開くと思うよ!」
「ちょ、まっ、やっ、いい!新しい扉なんて開かなくていい!!」
周りからも声になら無い悲鳴と息を飲む音が聞こえる。誰かが私の事を「悪魔だ」って震えながら呟いてた。
立ち上がって男の下肢へと場所を移動する。
「ん~と…この辺かなぁ?もうちょっと上かな?う~ん」
そんなことを言いながら両手で持った短剣を頭上でユラユラと構える。
その頃にはもう男の顔は涙と鼻水と涎でどろどろだった。叫び声も「やめろ」から「やめてください!お願いします!」に変わっている。
「よーし、じゃあいくよ!せーの!」
掛け声と共に男の下肢に剣先を下ろす。
ザクッと剣先が地面に刺さる音が聞こえたと同時に、男は声になら無い叫び声をあげて白目を剥いて気を失った。
「あれ?おじさん。おじさーん?……寝ちゃったの?」
無邪気な振りしてニコニコと顔を覗き込めば周りから「ひぃ!」と息を飲む声が聞こえる。
「もうっ。仕方ないなぁ。じゃぁ次はぁ~…」
ターゲットを変えるぞとばかりにぐるりと見渡せば全員が慌てて私から視線をそらした。そこそこガタイの良い男達がガクブルで私に怯える姿に意図せずニヤニヤとしてしまう。そんな趣味はないんだけどなぁ。
突き刺した短剣を抜き、剣先に付いた血を振り払う。
実は内股の付根ギリギリをうすーく切ってるだけなんだよね。
バカじゃないの?そんな汚いもの本当に切るわけ無いじゃん。
「んとね~じゃあね~…次はおじさんね!よっこいしょ!」
「ヒィィィ!やめてくださいお願いしますお願いしますぅぅぅ!!」
「いっくよ~!せーの!」
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
「じゃ次ね!そいやぁ!」
「い゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「どっせい!」
「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!」
「ふンぬばぁ!!」
「ギャヒィィい!!!」
「ちぇすとぉ!!」
「ぎやぁぁぁ!!ママぁーッ!!」
男達の悲鳴が上がる度に鳥達がバサバサと大群で飛び去る。驚かせてごめんね、鳥さん。
…………。
暫くするとドドドッと馬の走る音が遠くから聞こえてきたので私刑は止めることにした。
駆け付けるとき救援用の魔法弾が打ち上がってたので、恐らく辺境迫様の所の兵士さんだろう。
私は結界を振り返りぱちん、と指を鳴らす。シャリン─と軽やかな音を立てて結界はパラパラと小さく砕けて散ってゆく。その様子は青い蝶が空気に溶けていくように見えた。
完全に結界が消えると馬車から降りてこっちを心配そうに見ていたエルナたんが現れ、目が合うと驚いた顔をして次には何だか怒ってるような顔になってゆく。公爵様も護衛さん達も唖然とこちらを見ていた。
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ブクマ&評価ありがとうございます!完全な自己満小説なのでとても嬉しいです(*´ェ`*)
日曜日は更新お休みです。次は11/9の更新になります(>_<)