68・魔法の紐
ジルとシーナちゃんが伯爵様のお屋敷でお世話になること一週間。
ふたりはすっかりお屋敷の女性陣を味方につけていた。
と言うのもふたりの作るアクセサリーが理由だ。
伯爵様のお屋敷で働く人は殆どが平民の人達なんだけど、元々私達平民はアクセサリーをつけてお洒落するなんてのはお祝い事くらいでほぼしない。付けてもリボンくらいだ。
キラキラするアクセサリーは裕福な人が身に付ける物で私達平民には格式が高い物って言う概念があるのだ。
しかしシーナちゃんが作るアクセサリーは材料から石まで全て簡単に手に入るもので原価がお手頃。その上技術量を付け加えても超プチプラなのでお年頃のメイドさん達は目を輝かせたね。
おまけに超プチプラなのに出来は一級品と来たものだからシャーロット様までキャッキャとはしゃいでいる。
なのでここ数日の間にお屋敷の女性達の女子力がぐんと上がった。不思議な事に素敵なアクセサリーを身に付けると無意識にお淑やかになってしまうものなんだよね~。
かといってあんまりキラキラしたものをメイドさんが付けているのも外聞がよろしくなくてダメらしいので、普段は小指の先程の飾りがついたヘアピンを皆さん使っている。それでも効果はあるのでおしゃれとは偉大なものである。
シーナちゃんとは別にジルが作った彫刻のアクセサリーも人気だ。そっちはその辺の木を削って作るのだけど、親指の腹位の小さな面積にそれはもう見事な模様が彫り込まれるのだ。
遠目からはただの木のペンダントトップも近付けばその素晴らしさが良く解る。
兄弟揃って手先が器用なものだからお屋敷の人達にお手伝いを頼まれることも屡々なのだとか。
実はジルは何でも作れちゃうオールマイティー君で、鍛冶、彫金、彫刻、研磨、その他諸々、そして魔導具を作るのに必須の付与スキルまで持っていた。
それを聞いた私がこれ幸いとほくそ笑んでいたら伯爵様が「幼女にあるまじき悪どい顔してるぞ」と頬をピクピクさせていた。失敬な。
そんな私もこの一週間、無駄に時間を過ごした訳じゃない。
あのドルティア族の呪紋をどうにかするため色々と試行錯誤をしていたのだよ。
一応皆に呪紋の事を聞いたら「いらない」の一択だったので、どうにかするために色々と準備している。ニアだけ呪紋がなかったのは幸いだと年長組はほっと肩を下ろしていた。私には解らないけれど呪紋の痛みは相当なものらしい。
そんなこんなで私は今日も実験だ。
私がやらかした森の中のハゲ地にやって来て木の枝を拾う。
それを使ってガリガリと地面に魔法図式と魔方陣を書く。何で地面かと言うと紙が勿体無いからだったりする。別に高級品て訳じゃないけど、何となく勿体無い。地面なら足でザリザリしたら消えるし、纏まった事だけを紙に写して書けば無駄も省けるしね。私はノートは綺麗に書く派なのだ。
この一週間で試している魔法は魔法で作る魔法の紐─【魔法の紐】。
そう、フェンリルを捕らえるために神話の時代に作られたものだ。
グフフフ…オタクを嘗めないで欲しい。いつか私も魔法が使えるかもしれないと…!
─中略。
ゲフンゲフン…要は前世の黒歴史が役立つときが来たのだよ!ヌハハ。
ま、何でグレイプニルかと言われればあの呪紋がフェンリルっぽいと思った、ただそれだけである。
材料は【猫の足音】【女の顎髭】【山の根元】【熊の神経】【魚の吐息】【鳥の唾液】の6つ。
材料あるなら楽勝ジャーン!とはならないのが現実。
何だよ、猫の足音って…そんなのどうやって材料にすんのさ?と頭を悩ませショートしてキレた結果、もう概念で良いんじゃね?と思考と指向を思いっきりポイして思い付いた概念だけを組み込んだ魔法図式を組み立て魔方陣に興していった。
結果失敗すること数回。
ある意味あの呪紋も概念みたいなものだからその実験もしなきゃなって事で、実体のない獣を作る魔法まで副産物で出来てしまった。
「猫の足音は…今回は隠密にして…鳥の唾液…これが問題なんだよな~」
何だよ鳥の唾液って…なんも思い付かんわ。
そもそも唾液出るのか?よだれ垂らした鳥なんて見たことないんだけど。
…まぁこの6つの材料は魔法の紐を作るのに使ったせいで世界から消えたって話だけど、女性は更年期でホルモンのバランスが崩れると生えるらしい…って昔聞いた覚えが…。
それにしても地面にガリガリと思い付く限りの概念や自性を書いていくけれどどれも当てはまらない気がする。
「鳥の唾液って何だろ…親鳥がエサとかリバースする時に一緒に出てるとか…? うわ…キモ」
撹拌されたエサを想像して気持ち悪くなった。そしてなんか違う気がする。
「う~ん…」
地面に座り込んで腕組みして地面を眺めていると、スイーッと頭上を飛ぶ鳥の影が目の前を横切った。
それを見上げてふと思い出す。
「─そういや私、前世で一度も燕の巣食べたことなかったな…」
中国三大珍味と名高い燕の巣。キャビアとかフォアグラとか世界中の三大珍味は食べた事があるものもあるけど燕の巣はない。あれってガチのヨダレでできてるんだっけ…。
「燕の巣かぁ…」
どんな味がしたんだろう…?美味しかったのかなぁ?
思わずジュルっと涎が…危ない危ない。
ポケーっとそんな事を思い浮かべていた私はハッとした。
「そうだ!どーせ失敗続きだし、燕の巣で連想しよーっと!」
猫の足音、は【隠密】
女の顎髭、は【平衡】
山の根元、は【浄化】
熊の神経、は【強靭】
魚の吐息、は【不可視】
鳥の唾液、は【高級】
ヘッヘッヘ…これでどーよ!
「燕の巣と言えば高級品だよね~」
ガリガリと図式と魔方陣を並行して描いてゆく。
私の貧困な脳味噌ではこれが精々だ。
「うん、……ちゃんと噛み合ってるみたいだし、試してみよーっと!」
魔方陣は頭の中に入ってるので大丈夫。まずは実験用のなんちゃって被験体を作らなくては。
「『炎の狼』!」
ボボボッと炎で出来た三匹の狼の姿が出来上がる。
ウルフだしフレイムなんだけど偶々噛んでくっ付けて詠唱してしまったのだけど、大丈夫だったのでそのままもうウルフレイムでいっちゃってる。だって大丈夫だし、問題ないはず。
しかもこの魔法、ちゃんと私の指示通り動く優れものなのだ!私すごい!
エルナたんの護衛になったらこの炎の狼でお屋敷の回りをぐるーーっと囲むんだぁ~!超安心だよね!へへへっ!
「…とっと…それより今は新しい魔法を試さなきゃね。狼さん逃げて~!」
「わぉーん!」
炎の狼は返事をするとタタッと地を蹴った。
私が造った魔法だからなのか鳴き声がなんか犬っぽい気がするけど気にしない。ワフワフ尻尾を振ってるけど気にしない。
「よぉーし!いくよー!─『魔法の紐!!』」
あ、ヤベ。張り切りすぎて何か舌足らずな感じに…。
そう思った瞬間、私の足元からブワッ!と金色の光が溢れた。
「!!」
金色の粒子がシャラシャラと音を立ててそれはひとつの形を織り上げて行く。
その姿を見て私は口角がぐっと上がるのを感じた。
あれですよ…今回のは私の勝手な解釈でのお話なので突っ込まないで下さい…笑
誤字、脱字がありましたらお知らせください。助かります(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます!(*´ω`*)




