64・証
「その…ごめんなさい…」
とりあえず素直に謝っておこう。
いやだって顔!めっちゃ可愛いんだよ!?女の子だと思うじゃん!そりゃ半分は包帯で隠れてるけど、その顔面半分ですら勝てる要素のない私の顔より可愛いって、女の子だと思わない方がおかしいって話よ。
いや、待てよ…?男の娘って可能性もあるんじゃなかろうか。
「………うん、アリだな」
やっぱあれだね、可愛いは正義だね。
ひとり脳内会議の結果、私の脳内ではシーナちゃん男の娘の位置付けになった。いつかメイド服を着てもらおう。
「お前、また何か企んでるな?」
「失礼な」
シーナちゃんを抱き上げてそっとクッションに座らせてあげてる伯爵様が疑惑に満ちた視線を私に寄越す。
ちょっとメイド服着てもらおうとか考えてただけなのに。
「シーナちゃんじゃなくてシーナくん、なのか…」
ちゃん付けの方がしっくり来るんだけどなぁ。
最初からずっとシーナちゃんって呼んでたから間違えそうだ。
「どっちでも良いよ。君が呼びたいように」
「本当?」
「うん」
悶々と考えていたのが顔に出ていたんだろうか。シーナちゃんはそう言ってにこりと笑った。
「じゃあシーナちゃんで!─あ、私まだ自己紹介してなかった!」
お許しも出たところで私はシーナちゃん呼びにすることに決める。そこで自分の名前も何も伝えていないことに気が付いてしまった。
「私ラピス!6歳!」
「僕はシーナ。11歳だよ」
「俺はジルヴェスタ。ジルって呼んでくれ。年は12だ」
おぉ、お兄さんの名前はジルヴェスタって言うのか。何かカッコイイ響きだなぁ。シーナちゃんはうちの兄と同い年でジルはテオのひとつ下なのか。
「そう言えば伯…おじさんは何歳なの?」
「俺か?俺は25だ」
特に興味はなかったけど一応。伯爵様の年齢も聞いてあげないと仲間はずれになっちゃうと思って聞いた。
「おじさんだね」
素直感想がポロリと出ると伯爵様が笑顔で固まる。そしてうっすらと青筋を浮かべた伯爵様にほっぺたムチムチの刑にされてしまった。俺はまだお兄さんだ、とか何とか若さアピール付きで。
「俺はジョアンだ。一応こいつの保護者って事で」
さすがに本名を言うわけにいかず、伯爵様は偽名を名乗る。スルッと偽名が口を吐くってことは何度も使ってるってことだよね。
さては偽名を使ってお忍びで遊んでますな?ぐふふ…シャーロット様に言っちゃうぞ。
伯爵様が自己紹介してる間に私はささっと空間収納に入れていた食べ物を並べる。串焼きもスープも出来立て熱々だ。パンも焼きたてなので香ばしい香りがふんわり漂う。
ただパンは前世の日本のパンのようにふんわりしているわけじゃなくてハード系の物だ。スープに浸して柔らかくして食べるのが普通だからか、前世のふんわりパンが恋しい。
飲み物は果実水で、竹のような木で作ったコップに入って売られていたのを四人分購入した。スープの入った器だけは後で返しに行かなくちゃ駄目だけど…それは伯爵様に任せよう。
「うわ~…凄い…」
シーナちゃんが並んだ食べ物に目を輝かせている。ジルもクールに見えて食べ物に釘付けになっていた。
「じゃぁ皆で食べよう!」
皆で食べ物を囲む形で座り其々に手を付けてゆく。シーナちゃんの両隣にジルと伯爵様が座ってあれこれと世話を焼いている。伯爵様は子供好きだって公爵様が言ってたけど嘘じゃなかったんだなぁ。
串焼きにかぶり付いて咀嚼しているとパチリとシーナちゃんと目があった。シーナちゃんは目を真ん丸にしたかと思うとクスクスと笑いだす。なんだろう?と思っていると振り向いた伯爵様が「またお前は…」と口許を拭ってくれた。ソースでベタベタだったようだ。
「ジルとシーナちゃんはこの村にずっと住んでるの?」
ご飯が殆どなくなる頃、私はふたりに聞いた。
するとふたりは気まずそうに視線を落とす。
「…実は俺達は目的の場所に向かう途中だったんだ」
向かう途中ってことは子供ふたりで旅をしていたってこと?
「その途中、馬車の事故に巻き込まれて…シーナが馬車の下敷きになったんだ。幸い馬車に同乗していた者の中に少しだけ治癒魔法を使える爺さんがいて、止血は出来たものの…」
そこまで口にしたジルはシーナちゃんの今はない右足に痛ましげに視線を寄越した。
シーナちゃんの足の怪我が心配で目的地に向かうことをやめた…て事だろうか。
「ちなみに目的の場所って何処?」
「ハーマン辺境泊を訪ねるつもりだったんだ」
ちらりと伯爵様が視線だけで私を見た。これはもっと聞けってことかな?
「なんで?」
「……」
少しの沈黙の後、ジルはゆっくりと話してくれた。
深い山奥、俗世とは隔絶された様なドルティア族の郷でふたりは両親と祖父母と暮らしていたそうだ。
排他的な一族だと言われてはいても、一族間の仲は悪いものではなく、それなりに幸せな日々を送っていた。
両親も祖父母も、知りうる限りの大人達は何かしらの職人だった。当然、ジルもシーナちゃんも幼い頃から大人達に混ざってあれこれと手解きを受けてきたそうだ。
そんな一族には昔から伝えられていた事があった。
それは『もしも何かが起きて、誰にも頼れず、もうどうしようもなくなったのなら、西の辺境泊様を頼りなさい。きっと道を示して下さるでしょう』と言うものだ。
祖父母の昔話で自分達の先祖が伯爵様を助けたことがあり、とても恩を感じていて『困ったことがあればいつでも頼ってほしい』と約束してくれたのだそうだ。
決して約束は違えない、と家訓にするとまで言ったようだった。
一体何を助けられてそんな大恩を感じてるのか気になるけど、それはまた追々聞くとしよう。
ジルもシーナちゃんも毎日が平穏で、幸せに暮らしていたようだ。
しかし一族を束ねる立場の族長一家は何処か歪んでいた。それは幼い頃からふたりも解っていたようで、一族の殆どの人間は敢えて族長一家からは距離を置いていたようだ。
それでも郷で産まれたものは必ず族長と対面しなくてはならないという一族の掟があるので完全に関係を絶つ事は出来ず、幼い頃ジルも一度だけ族長と対面した。
初めて会ったその人物は年老いた老人なのに、眼だけが別の生き物の様に血走りギョロギョロと不気味に蠢いていた。見詰められると足元から見えない何かが這い上がってきて身体中を撫で上げた。余りの恐怖と不快感に声を上げることも泣くことも出来ず、身体はまるで石になったかのように固まった。
気が付くと両親に手を繋がれ家路についていたそうだ。
あの不快感は消えていたけれど、あの不気味な眼だけは忘れられなかった。
その日の夜、鏡を見て気が付いた。両親や郷の大人達と同じ紋様が左頬にあることに。
それは一族として認められた証だと親は教えてくれた。その頃はまだ幼く、ただ嬉しかった。
そして弟のシーナもその紋様が頬に浮かんだ。兄弟で喜び合った。まだその紋様の意味を知らなかった故に。
それから数年後…いや、今から一年ほど前。
突然正体不明の一団に郷が強襲をかけられ、成す術もなく一族が皆殺しにされた。
恐らく盗賊の類いだろう。ドルティア族は技を持つ一族だ。その者達に作られたものには価値がある。それも莫大な。
それに目を付けた者達によって一族も、家族も皆殺しにされた。
ジルとシーナちゃんは両親によって逸早く一族の隠し通路に押し込まれ、難を逃れたそうだ。
隠し通路は決まった手順で動かさなくてはならない仕掛けがあり、一見ただの壁に見える入り口は見付かることがなかった。
両親に言われた通り、三度眠り外に出ると、そこは地獄が広がっていた。
火を放たれたのか未だ燻っている家屋。見渡す限りに広がる血飛沫に転がる死体。聞こえるのは風の音だけだった。
暫く呆然とした。漸く我に返ったのは弟のシーナちゃんが強く腕を引いたから。
いつまでも茫然としていてはいけない。いつまた奴等が帰って来るかもしれない。弟を守るためにも早くこの場を離れなければ、と。
そう思い、崩れそうになった自宅に駆け込み逃げる準備をした。動かぬ屍と化した家族の隣で─。
その後はシーナちゃんを連れて急いで郷を出た。二度と戻らない覚悟と共に。
その時、左頬に焼けるような激痛が走った。それはシーナちゃんも同じで、ふたりはその場に踞ったそうだ。
そして頭の中に誰かの声が響いた。
いや『誰か』の声ではない。ソレは一度だけ聞いたことのある声だった。─族長であったあの老人のモノだ。
『逃げることは許さない。裏切りは許さない。お前達は崇高なるドルティアの者達なのだから』
呪いのような禍々しさが左頬から身体中を覆う気がして、恐ろしかった。それでも弟を連れて必死に逃げた。
逃げる途中、祖父母が寝物語に聞かせてくれた話を思い出して西に向かうと決めた。
時折火傷をしたように痛む頬と共に。
シーナちゃんの事故はその途中に起こったのだそうだ。
「──コレが、その紋様だ」
ジルは戸惑い気味に顔の包帯を取った。スルリと包帯がジルの膝に落ちる。
ジルの左頬には黒い狼のような獣の紋様があった。
切るところが見付からなくてちょっと長めです~(;・∀・)
いよいよ恋愛要素がゼロに近付いていってる様な…
ジャンル変えるのマジで考えます笑
誤字、脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます!(*´ω`*)




