62・僕っ娘!
「すまん、お前を笑ったんじゃないんだ」
そう言うと少年は私の手のひらに乗るアクセサリーを見て「そうか…」と小さく口元に笑みを浮かべた。
「それにしてもどうして此処が─」
「──兄さん?」
わかったのか、と続けようとしただろう台詞はもう一人の声に止まる。
そう広くもない家屋の奥の部屋からひょこっと顔だけを覗かせたのは、少年と同じ様に左顔面を隠すように包帯を巻いた美少女だった。褐色の肌に銀の髪。少年と同じ深紅の瞳が一瞬私の姿を捉えると驚いたように瞳を大きく開き慌てて奥の部屋に引っ込む。
兄さんと呼んだからもしかして兄妹なのかな。
一人じゃなかった。二人いたよ伯爵様。
「悪いな。あいつは人見知りなんだ。─シーナ、お前の客だぞ」
ほう、シーナちゃんと言うのか。
後ろを振り返って引っ込んだ女の子に呼び掛ける。けれど扉の縁にかかった手は見えるけれど顔は出てこない。相当な照れ屋さんなのかな。
それに少年は「お前の客だぞ」って言ったって事は、あの子がこれを作った本人って事だろうか。
「…それにしても昨日とは随分と印象が違うな。貴族じゃないのか?」
「昨日はおめかししてたんだ~。もう一人の女の子は貴族だけど私は違うよ」
「同じ作りの服を着ていたから姉妹かと思ったんだが…」
昨日の服装と今とじゃ全然違うからか、そんな風に思われていたとは。姉妹か…へへへ。
「………」
私達の世間話が気になるのか扉の縁からシーナちゃんの髪の毛がチラチラと見える。私の背後でも物陰から伯爵様がチラチラ見てる。美少女のチラチラは可愛いけど良い大人の伯爵様は…ねぇ。
「何も出せる物はないが…」
ずっと入り口で喋るのも何だからと少年が身体をずらして家に迎え入れようとしてくれる。
え、お家入れてくれるの?どうしよう…と思ったけど伯爵様の方を見ることはできない。さっき事前に報告しろって言われたばっかりなんだけどなぁ。
ま、いいか、
「おじゃまします!」
元気よく答え一歩踏み出す刹那、背後の伯爵様の手が「待て!」と動いた気がしたけど、見えてませーん。
─ギッ
軋む音と共に静かに扉は閉じた。
お邪魔させてもらった家の中はお世辞も言えないほど狭く、衛生的とは言えないもので正直驚いた。入ってすぐ5畳ほどの部屋と奥に3畳程の一部屋だけ。屋根と壁はあるけれど本当にあるだけの物で、その役目を果たしているかと問われれば否だ。
こんな場所で子供だけ…?
入って直ぐの部屋には小さなテーブルと椅子が2脚。水瓶と小さな戸棚だけの質素なものだ。奥の部屋は見えないけれど多分寝台かあるんだろう。床は古く歩く度にミシミシと音を立てた。
「シーナ、いい加減に出てこい」
「……」
困惑したような表情のシーナちゃんが顔を半分だけちらりと覗かせる。なんだろうか、私は猛獣にでも見えているのだろうか。
少年がシーナちゃんの方に椅子を向けて置き、私に背を向ける形で隣の部屋の入り口で「大丈夫だ」とか「喜んでたから」とかよく解らないことをヒソヒソと声を潜めて話し出した。
「………兄さんが、そう言うなら…」
どこか怯えを含んだ小さな声が聞こえて、漸く扉からシーナちゃんが顔を覗かせる。困惑したような怯えているような表情で。
それと同時にカツンと何かが床に当たる音が聞こえて視線を下に移す。
扉から先に現れたのは松葉杖だった。
「──足…」
私の視線の先…シーナちゃんの右足は、脛から下が無かった。
少し汚れた包帯が欠損部位を隠すように巻かれている。痛みを感じているような素振りは無いけれど、歩き慣れていない様子を見るにごく最近のものだと解る。
「ご、ごめんね。気持ちの良いものじゃないよね…」
じっと見ていたからか、シーナちゃんが恐縮したように顔を俯かせる。
「ち、違うよ。……痛くないのかなって…」
初めて身体の一部を失った人を目の前にしたから、何て言えば良いのか言葉も、感情もぐるぐるして纏まらない。
「…時々思い出して痛むことはあるけど、今は大丈夫」
「そっか…」
少年に支えられながらシーナちゃんは用意されていた椅子に腰を下ろす。痛くはないって言ってたけど、動作の節々で表情を強張らせている様な気がする。まるで我慢してるみたいに。
少年はシーナちゃんを座らせてあげると今度はもうひとつの椅子を引き、私に座るように促した。
よじ登っていると少年が手を貸してくれる。
「えっと…それで、オーダーのお話なんだけど。ごめんね…今は材料がなくて…」
「持ってた資材も底をついたからな…調達するにしてもこの村じゃ難しい」
ごめんね、と再度口にされては無理は言えない。
「…材料があったら作れる?」
「それはもちろん。─けど…」
一瞬嬉しそうに顔を上げたシーナちゃんは包帯に覆われた左顔面にそっと指を這わせて悲しそうに眉尻を下げた。
「僕達は…ドルティア族だって事、わかってる?」
「うん、知ってるよ」
ほう、シーナちゃんは僕っ娘か!滾るな!
軽く瞠目したシーナちゃんが私を見詰めてくる。
内心僕っ娘に若干テンションが上がっていた私は間髪入れず頷く。いやホントに私にとっては何族とかそんなのどうでも良いと言うか、要はエルナたんに捧げる可愛いものを作って貰えるかどうかの方が最優先事項だ。
欲望のままに生きて何が悪い。
「─な?彼奴等は嘘はつかない」
少年がシーナちゃんに微笑みかけると、シーナちゃんも小さく笑みを浮かべて頷いた。
てか彼奴等って誰の事だろう?
意味が解らなくて首を傾げると少年が私の持つふたつのアクセサリーを指差した。
「こいつらが、お前の事が大好きだって言ってる」
「この子達が?」
んん?益々解らんのだが。
「大抵の奴は物を手にしてこの子なんて呼ばない。こいつらは個として認められ初めて意思を持つんだ」
なんかそう言うの日本の昔話にもあった気がする。要するに大切にすると命が宿る的な事なんだろうか。
「…お兄さんは、この子たちの言葉が解るの?」
「解る…と言うか、感じるって方が妥当だな」
「すごい!すごい!他には?何か言ってる?」
ほえー、この世界にはそんなチート能力を持ってる人も居るなんて驚きだ。ドルティア族の人なら皆解るのかな?けどシーナちゃんは解らないみたいだし、もしかしたらこの少年だけの能力なんだろうか?
初めての不思議能力保持者に私もワクワクと食い付く。
「ブローチの方はお前の側に居たいって言ってる。─て事だから、そいつ等はお前が貰ってやってくれないか?」
「─はえ?」
膝を着いた少年にハンカチごとアクセサリーを押し付けられてしまった。
人生初、男の子にアクセサリーを貰ってしまった…じゃなくて!
「いや、でも、けど、─そ、そだ!お金!お金払うね!」
貰えるのは嬉しいけど、タダって訳にはいかない。等価交換これ大事!
そして思い出す。今の持ち金が500ルアだと。ダメじゃん!
「ちょ、ちょっと待ってて!大蔵大臣に借りてくるから!」
「え?は?オーク…ダイジ…?」
私は慌てて外で待機する大蔵大臣に駆け寄る。
「お金ください!」
両手を差し出した私の脳天に再び伯爵様のチョップが振り下ろされた。
伯爵様オコです笑
そろそろ登場人物表を作ろうかな…。
誤字、脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます(*´ω`*)




