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61・再、職人の村

 


 道中なんやかんや言いながらも私達は無事にあの村へ到着した。


 途中伯爵様に色々と聞いたけれど、この村はただ単に職人が多いってだけの村じゃないのそうだ。

 最初は純粋に職人としての腕を磨くものが徐々に増えて村になったのだけれど、職人が増えるのと同時にこの村に子供を捨てる人も増えていったそうだ。それ故に多民族や他部族への偏見が偏っているってことかな?

 子供をお金に変えるのは嫌。かといって何もない荒野に捨てるくらいならこの村に捨てた方が下働きとして雇ってもらえるだろうし、いつかは手に職を付けて独り立ちすることもあるかもしれない。そんな親心でこの村に子供を捨てる者が未だに居るらしい。

 親心…ねぇ…。

 どんな事情があっても子供を捨てるなんて親としてあり得ない。まぁそんなのは私が子供を持ったことがないから言える事だから、本当に子供を持つ人なら私には解らない事情があるのかもしれない。


「それで、その子は何処に居たんだ?」

「えーと…」


 村に入った私達は取り敢えず店が立ち並ぶ通りを歩いていた。

 昨日も思ったけど、本当に密集して店や住居があるので村って言うより小さな町って感じだ。


 キョロキョロと辺りを見回して記憶を辿る。まぁ辿ったところで上ばかり見てたもんで道なんてのは覚えてないんだけど。

 気が付いたら迷子だったからね。


「ちょっとまってて、伯…おじさん」


 アカン。なかなかおじさん呼びに慣れない。

 そんなことは置いといて、私はそこまで広くない路地の壁を左右交互に蹴って店の屋根まで登った。このお店は天辺に時を知らせる鐘が吊るされていて、この辺じゃ一番高さがあるから見下ろせばあの通りも見付かるだろう。

 下で伯爵様がアワアワして周辺をキョロキョロと確認している。大丈夫、誰も見てなかったから安心していいよ。


「んーと…あ、あった。多分あそこだ」


 見下ろした先に見覚えのある武器屋さんがあった。あそこはエルナたんと覗いたお店だ。そこから下がった場所にあの子が居たはずだ。

 よし、位置は確認できた。

 下に伯爵様しかいないのを確認して飛び降りる。


「見つけたよー。あっち!」


 方向を指さすと無言で伯爵様のチョップが頭に落ちてきた。


「せめて事前に何するかくらい教えろ。突然飛んでいったから焦っただろうが。お前の思考回路がブッ飛んでるのは俺もよく解ってるが…」

「失敬な」


 ちょっと高いところに登っただけじゃん。そんな呆れなくても。


「で、向こうの通りで合ってるのか?」

「うん。あそこの花壇を曲がった先だよ」


 眼前に見える小さな花壇を指差す。そして歩き出した伯爵様の後にくっついて私も進む。

 歩いていると伯爵様の服に付いている飾り紐がヒラヒラと目の前を舞うのでそれを掴んだ。よし、これで迷子にはなるまい。


「どうした」


 服の紐を引っ張られた伯爵様が立ち止まり振り返る。私が握っている紐を見て首を傾げた。


「迷子防止に!」

「…待て、これだと俺の方が紐を付けられてるみたいじゃないか」


 困惑した顔で言われて私も首を傾げた。考えてみると一瞬大型犬を散歩させる図が頭に浮かんだ。赤毛の大きな犬だ。決して伯爵様を犬化させた訳じゃない。

 そう考えるともう伯爵様がわんこにしか見えなくなってくる。


「わんわん!」

「ヤメロ!」


 思わず口にした言葉に伯爵様が非難を被せてきた。

 そんなに怒らなくても。可愛い幼女の冗談じゃないか。


「全く…」


 嘆息を漏らした伯爵様が私を抱き上げて片腕に座らせる。


「これで迷子には絶対ならないだろう」


 ふふん、としてやったりな顔で私を見る。そりゃ抱え上げられてたら迷子には絶対ならないだろうけどさ、腕疲れないのかな?


「よし、行くぞ」

「おー!はいよー!シルバー!」

「おい!俺を馬代わりにするな!」


 ちなみにシルバーとは伯爵様の黒い愛馬の名前だ。黒馬なのにシルバーとはこれ如何に。







 伯爵様の腕に乗ったまま昨日の通りに出た私達は、道の向こうまで並ぶ露店や屋台などを見て回った。

 けれど昨日の場所にもあの子は見当たらず、かといって人に聞くのも何か嫌だったので仕方無く村の広場へ向かった。そこでも沢山の人がタープを張って野菜や果物を売買している。お昼が近いからか混雑していた。


「どうする、俺達も何か食うか?もう昼だしな」


 ふわふわと漂う食べ物の匂いにお腹の虫がグルルルと悲鳴をあげた。なんと言う可愛くない虫の声だ。女の子なんだからそこはキュルルルだろ。ほら、伯爵様も何か哀れなものを見る眼で私を見てる。


「少し前に定食屋があったな。そこで良いか?」


 頷くと伯爵様は踵を返す。身体がくるりと向きを変えた瞬間、視界の端に見覚えのある外套が映った気がして慌ててそちらに眼を向けた。

 果物を売るタープの下に薄汚れた外套を纏う痩せ気味の子供が見えた。店の女性は嫌な顔をしつつも品物を渡し金銭を受け取っている。


「─伯…!おじさん!いた!見つけた!」


 あぁもう!おじさん呼び慣れない!

 耳元で小さく叫ぶと伯爵様は足を止め、振り返ると私が見つめる先に視線を向けた。


「…あの子か?」

「うん。間違いないよ」

「そうか」


 小さく「よし」と呟いた伯爵様は自然な素振りで広場を去ってゆく少年の後を追い掛ける。

 適度な距離を保ちつつ怪しまれないように後を着けること数分。私達は村の外れにある所謂貧民区に辿り着いた。

 吹けば飛ぶような家屋がぎゅうぎゅうに建ち並んでいる。その中のひとつに少年が入って行った。


 こんなこと言っては何だけど、屋根がある場所で寝泊まりは出来てたんだと思うと少しだけホッとした。


「…さて、どうする?いきなり声をかけても警戒されるだろうし─って、おい!」


 神妙な顔でブツブツ呟く伯爵様の腕からスルリと抜け、私は制止の声を無視して少年が消えた家の扉をノックした。物陰から眺めてたら余計に怪しいよ。不審者だよ。


「こんにちはー」


 声を掛けて数秒後、軋む音を立てながら扉が開いた。開いた扉の先にさっきの少年が立っている。

 最初は視線を上に向けていた少年は一瞬首を傾げた後、視線よりも下にいた私に気が付き眼を瞬かせた。


「…お前は…昨日の…?」


 少し驚いた様子の少年が私と視線を合わすように膝をつく。


「えっとねー、これを返しに来たんだけど…」


 私はハンカチに大事に包んでいたアクセサリーをそのまま差し出した。


「こっちのブローチはね、壊れてたんだけど、通りすがりの魔法使いさんが直してくれたんだぁ」


 あの時壊されてしまったはずのブローチが直っていることに驚いたのか、少年の眼は私の掌を凝視したまま固まっている。


「…どうしたの?」

「…いや、何でもない。わざわざこれを返しに来てくれたのか?」

「うん。後ね、お揃いのペンダントトップが欲しいからオーダーしに来たの」


 そう告げると少年は今度こそ驚愕に固まってしまった。


「……お前、解っているのか。俺は─」

「知ってるよ。けどそれは私の貴方に対しての評価じゃないもん。私ね、あの時バラバラに飛ばされたアクセサリーをすごく大事そうに拾ってたお兄さんの、物を大切に思いやってる姿を見てこの子達は幸せだろうなって思ったんだ」


 手のひらに乗るふたつのアクセサリーに視線を落とすと、目の前の少年がフッと小さく笑った。

 何で笑うんだろう?私変なこと言ったかな。




ラピスのお腹の虫は猛獣です(o ̄ω ̄o)


不定期更新にも関わらず読んでくださってありがとうございます!✧



誤脱字がありましたらお知らせください(*^^*)

ブクマ&評価ありがとうございます(*´ω`*)

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