60・初めてのお給料
「父上だけラピスと出掛けるなんてズルイです!」
ぷーっと頬を膨らませたアー君が恨めしそうに伯爵様を見上げる。
ちなみに私はまだ荷物のように担がれたままだ。
「って言われてもな…。流石に子供とはいえ三人で乗るのは危ないだろう」
パパ大好きっ子のアー君はどうやら一緒にお出掛けしたいみたいだ。伯爵様は困惑した様子でどうしたものかと空いた手で宥めるようにアー君を撫でる。
「ラピスはひとりじゃ馬に乗れないんだ。 だろ?」
「…ムリっすね」
馬から転がり落ちるのをリアルに想像できて素直に頷いた。一回もひとりで乗ったことがないので多分無理だと思う。
「お前もまだひとりじゃ馬に乗れないだろ?」
「それは…」
伯爵様に窘められるも納得がいかないのかアー君はブーッと頬を膨らませて俯いた。
それを見た伯爵様は一瞬だけ閃いたような顔をしたあとニヤリと口角を上げる。悪い顔だ。
「ならお前が馬を操れるようになってラピスを乗せてやれば良いんじゃないか?」
「─!」
ハッと顔を上げたアー君の目がキラキラと煌めきだす。何故か伯爵様はニヤニヤと笑っているけれど。
あれか?上手に馬に乗れるようになれば一緒に行こうぜ!的な感じなのかな?私はダシに使われたってことなのか?
…ま、いいか。それでアー君がヤル気になったならさ。
フッ、私も大人だ。伯爵様に乗ってあげようじゃないか。
「アー君、アー君、お馬さんに乗れるようになったら遊びに連れていってね!」
「~~!!まっ、任せてくれ!」
にこりと笑顔でお願いするとアー君は力強く頷いた。どうやらヤル気に火が点いたみたいだ。
うんうん、頑張れアー君。パパンは君を待っているぞ。
と、出掛けになんやかんやあったけれど、私達は職人の村へ出発した。あ、そういや名前あったんだっけ…?忘れちゃった。
今は伯爵様の前に跨がり馬に揺られている。
「伯爵様ひとりでお出掛けして危なくないの?護衛さんはつけないの?」
「俺はそこそこ強いからいいんだよ。伊達に辺境伯なんてやってないからな」
それもそうか。弱いと話になんないもんね。魔の森もあるし。
「それはそうと、お前。今日は敬語禁止。で、俺を『伯爵様』なんて呼ぶなよ?」
「じゃあ何て呼べば?ジョシュたん?」
「なんでそうなる」
何故かげんなりした顔で呆れられた。
身分が割れると色々と面倒だとぼやいた伯爵様は、エルナたんと同じ様に自分を『おじさま』と呼べと言ってきた。
いやいや…そんなラフにしてるのにおじさまは変じゃない?と言い返せば何故かニヤニヤと笑いながら「ならパパでも良いぞ?」とハードルを上げてきた。パパは嫌だ。
「何故にパパ…援交みたい」
「エンコー…って何だ」
聞きなれない単語に伯爵様は小首を傾げる。
この世界に援交はないのか。じゃパパ活かな?
「援交…正式名称は援助交際。若い女の子に金銭的な援助をする見返りに─」
「もういい、言わんでよろしい」
その先を瞬時に理解した伯爵様に止められた。
「別名、パパ活」
「やめんか」
「あべし!」
ズビシ、と背後からチョップされた。痛くないけどつい叫んじゃうぜ。
「お前は本当に六歳なのか?何でそんな事知ってるんだ」
「風の噂で」
けしからん風だな…と伯爵様は後ろでぶつぶつと小言を言う。
まぁ精神年齢は軽くアラサーに近いんだけど。精神年齢だけなら伯爵様より年上だぜ?ふへ。
「それより、とにかく俺の事はおじさんとでも呼んどけ」
「はーい」
あ、そう言えばお金を借りることをすっかり忘れていた。
伯爵様、現金持ってるよね?私は500ルアしか持ってないぞ。
ちなみにこの世界のお金は1ルア1円で硬貨だ。10、50、100、500、1000、5000、10000ルアと分けられていて、1000ルアからは銀貨になる。それ以下は銅貨だ。
…まさかノーマネーじゃねぇだろな伯爵様。
「伯…おじさん、お金持ってる?」
いつもの癖で伯爵様って言いかけてしまった。
「ん?あぁ持ってるぞ。どうした?」
「私、今日伯…おじさんにお金借りようと思ってて…」
「…………あぁ、そうか!そう言えば言ってなかったな」
借金を申し込むのって何か心が引けるんだよな~とモゴモゴと口にすると伯爵様は思い出したように懐から一枚の金属の板の様なものを私に差し出した。
よく見ると中心に私の名前が箔押しされている。後変な番号も。
「なんじゃこりゃ」
「それは商業組合のタグだ」
「商業組合?」
初めて聞く名前だ。
商業って事だから何か品物を卸したりする…みたいな感じかな?
けど私は何かを売った覚えなんてないんだけど。
「本来なら傭兵派遣組合に属して貰いたいところだが、年齢に引っ掛かるからな。で、年齢に制限がない商業組合って事だ」
この世界にはファンタジー小説や漫画みたいに当然のようにある冒険者ギルドと言う物はない。要するにこの世界には冒険者と言う職業は存在しないのだ。
その代わりにそれぞれの街には【傭兵派遣組合】なるものが存在する。普段は普通の生活をしていて、有事の際には傭兵として働く、と言うものだ。
「それで、このカードがなにか?」
「お前知らないのか?報酬は全てこのタグに記録されてるから、組合がある所ならいつでも現金を引き出せるんだよ」
なるほど、キャッシュカードみたいなもんか。
しかしこんなタグを渡させたところで私自身の現金は500ルアしかないんだが。
「中身空っぽのタグを渡されても…」
「違う違う! 言っただろ。兵士の訓練でちゃんと報酬は渡すって。今までの分、ちゃんとそのタグに記録されてんだよ。うちからの依頼って事で報酬を支払ってるからな」
なぬ?!つまりお給料って事か!
「お前、エルディアナと王立魔法学園に入学するんだろ?まぁその費用にと思って積み立てしてたんだ。感謝しろよ?」
決まり悪そうにぶっきらぼうに口にした伯爵様がそっぽを向く。
私は初めてのお給料と伯爵様の厚意に面映ゆい気持ちで胸がいっぱいになった。
「えへへ~初めてお給料貰っちゃった~」
日に翳して眺めていると背後からタグをひょいと抜かれる。そしてそのまま伯爵様はそれを懐へと仕舞った。
何故に?
「これは俺が預かっておく。落とすと大変だからな。いや、お前なら確実に落としそうだ」
「信用がない…」
ぶーっと頬を膨らませ頭を反らせて伯爵様を恨めしそうに見上げると、伯爵様は首元から何かを引っ張りあげてそれを私の前にちらつかせた。ドッグタグみたいな小さなプレートの首飾りのようだ。
「お前がもう少しでかくなったらさっきのタグをこんな風に加工してやるから、それまで俺に預けとけ」
「さっきのってこんな風に出来るの?」
「そうだ。プレート状のまま持つ奴も居るが、こうして持つ方が楽だからな。ある意味身分証みたいなものだから、俺みたいに魔物討伐に出るやつは大抵こうして持ってるぞ。─死んでも俺だって解るだろ?」
死んでも─そこだけなんだか寂しそうに聞こえた。
…魔物討伐って命懸けだもんね。だからそうやって死んでも良い準備してるの?─そんなこと聞けるはずもない。
「……死なないよ」
─エルナたんのついでだけど、伯爵様もシャーロット様もアー君も私が守ってあげる。
「今何か言ったか?」
「にゃんにも!」
ぎゃ!馬に揺られて噛んだじゃん!ハズカヒ!
この二人、脳筋同士なので書きやすいです!笑
誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます(*´ω`*)




