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58・自覚のあるストーカー

 

 隠しておきたかった苦手なことをガッツリ見られたので最早私に見られて恥ずかしいことなどない。…ヤケクソじゃない。決して。


 みんな微笑ましそうにスッ転んだ私を見ていたけれど、私自身は全然微笑ましくなんかないんだが。だが!

 エルナたんに恥ずかしいところ見られた!埋まりたい!今すぐマントルまで沈みたい!


「恥ずかしがる事なんてないわ。だってラピスには沢山素敵なところがあるもの。私、何でも出来るラピスに置いていかれそうで怖かったのだけど…なんだか安心したと言うかなんと言うか…ごめんなさい、上手く言葉が見付からないわ…」

「…?」


 はにかみながらそう告げたエルナたんが私に手を差し伸べる。

 私がエルナたんを置いてく…?なんで?置いていくどころか寧ろ私はストーカーの類いなんですけど。どっちかと言えば付きまとう側なんですけど。


「私はエルナたんを置いていったりしないよ…?逆に私が頑張ってエルナたんを追いかけてるんだけど…カーテシーも出来ないし…」


 エルナたんが言ってる事はよく解らないけど、とにかく私はエルナたんの側を離れるつもりは一切ないので安心してほしい。寧ろカーテシーさえ出来ないし私の方が見捨てられないか心配だ。

 そう口にした途端に不安になって来た。


「そんなに不安そうな顔しないで?大丈夫、カーテシーなんてすぐに出来るようになるから」

「そうかなぁ…?」

「後でコツを教えてあげるわ」

「ほんとぉ!?」

「もちろんよ」


 ふおぉ!エルナたんが先生になってくれるのぉ!?ウレスィ~!

 飛び上がらんばかりに喜ぶ私にエルナたんは笑顔で頷く。

 エルナたんが教えてくれるならハスハスしてる場合ではない!頑張ってコツを掴まなきゃ!


「さぁ、朝食をいただきましょう?」

「うん!」


 エルナたんに促され椅子に座ったあとは皆で和やかに朝食を取る。向かいの席にはエルナたんが居て、目が合う度ににこりと微笑んでくれるので今日の朝ごはんはいつもと違って胸いっぱいになった。はぁ…幸せ。






「そう…頭を下げるのではなくて、腰を軽く落とすのよ…」

「こう?」

「そうそう。重心が頭にいかないようにね」


 朝食後、一時間足らずではあったけどエルナたんが先生になってくれた。さすがエルナたん、淑女の鑑!教え方も丁寧で優しい。


「…………できた!」

「すごいわ!ラピス!」


 初めて上手にできたカーテシーに思わずドヤ顔でムフーッ!と胸を張るとエルナたんと兄がパチパチと拍手を送ってくれた。


「ありがとうエルナたん!出来たよぉー!」

「さすが僕の可愛い天使だ!!」


 空かさず兄が歓喜の声をあげて誉めてくれるけど、私が誉められたいのは兄じゃないんだ。しゃらっぷ兄。


「ラピスは元々何でも器用に出来るタイプだもの。すぐに出来るようになるって解ってたわ」

「でへへ~」

「よくできました」


 よしよしとエルナたんが頭をなでなでしてくれる反対側から兄も私の頭を撫でる。身内だからかそこはかとなくムズムズしちゃうよ。


「あぁ~ぁ…エルナたんもうすぐ帰っちゃうのかぁ…」

「またすぐに会えるわよ。そんなに肩を落とさないで?」

「うん…。はぁ…いつでも連絡できる魔導具とかあればいいのに。そしたらエルナたんといつでもお喋りできるのになぁ」


 この世界には現代日本にあった電話なんてない。なのでお手紙しか連絡手段がないのだけど、到着するまで時間がかかる上に手紙が迷子になったりで、差し出し日から到着まで季節を跨ぐ事もある。

 貴族の手紙のやり取りには早馬を走らせるのが普通らしいけど、多分料金はアホ程高いに違いない。

 そんな訳で手紙での連絡手段しかないんだよね…。


「ふふ…そんな素敵な魔導具があれば、私毎日持ち歩いてしまうわ」

「毎日?」

「そう。だっていつラピスから連絡が来るか解らないじゃない?すぐにお喋り出来るように持ち歩くの」

「エルナたん……!」


 私の荒唐無稽な話にエルナたんは嬉しそうに答えてくれた。きゅーんとしちゃうよぉぉ!

 あー…でもこれ絶対に欲しいし作りたくなっちゃった。流石に通話は無理でもメッセージのやり取りができてスマホサイズでいつでも持ち歩けるの、誰か作ってくれないかなぁ~。


「私も毎日持ち歩く!寝るときも隣に置いておくよ!」

「まぁ、嬉しい。本当にそんな夢のような魔導具がいつか出来るかもしれないわね」


 可愛らしく微笑むエルナたんの横から兄が「僕も欲しいな」とぼやいたので「お兄ちゃんとは毎日会ってるじゃん」と切り捨ててやる。何で壁一枚隣の部屋の兄とメッセージのやり取りせにゃならんのだ。口で言ってくれ。

 塩対応の私と砂糖対応の兄をエルナたんは微笑ましく見ていた。

 エルナたんは完全にこの話を夢の話だと思っているようだけど、私の愛を甘く見ているようだ…ふふ…。絶対に作るぜ!通信魔導具!おはようからおやすみまで…きゃー!夢のようじゃんか!


「お嬢様、出発の準備が整いました」

「ありがとう、ロートベル」


 私の妄想がムクムクと膨らむ頃にエルナたんの出発時間が来てしまった。ロートベルさんが軽く頭を下げて部屋を出て行く。


 さっきまでの高揚とした気分がどん底まで落ちて物悲しさにがっくりと肩が落ちる。

 また2ヶ月会えないのか…。会えない間に思いは募るけど寂しさだけはどうしようもない。


「エルナたん…」

「そんなに悲しそうな顔しないで…?」


 ふぐぐ…と涙を堪えているとエルナたんが頬に優しく頬を撫でる。エルナたんのちょっぴりひんやりした両手が私のほっぺを包む。

 そして─…。


「─…寂しくならないおまじないよ」


 おでこにちゅっ…とエルナたんの唇が触れた。





 気が付くと私は兄と共に広場で馬車に揺られるエルナたんに手を振っていた。

 テオとギヴソンさんも振り返り手を振っている。



 ─…ハッ!私今まで何してたの!?え?なんでエルナたんもう帰ってんのーー!?


 人間あまりにも許容をオーバーする驚きに遭遇するとどうやら記憶が飛ぶらしい。

 デコチューのあまりの衝撃に私の精神体が昇天しかけていたようだ。あっぶねー!

 いやそれよりもエルナたんが…エルナたんが私にデコチューを…!!!ふおぉぉ!唇の柔らかさしか思い出せないー!!けどうれすぃぃー!!


「えへ…えへへへ…」


 アカン…ほっぺが溶けてゆきそうだ。嬉しすぎて頬に力が入らない。


 ニマニマと笑う私に兄は首をかしげている。こんな気持ち悪い笑い方をしてても兄の目にはどうやら私はとても可愛く映っているみたいで、呑気に「二ヶ月後が楽しみだな」とニコニコと笑顔で頭を撫でてきた。


 うへ、うへへ~。

 今ならエルナたんのために世界征服も出来そうな気がするぅー♪


「ラピス、ご機嫌だな。いつもエルナちゃんが帰るときは泣きべそなのに」

「んふふ~」


 兄と手を繋いで家路につく。

 いつも土砂崩れ並に泣く私がご機嫌な事に当惑しつつも、泣かないことにホッとしているのか兄は笑顔で私を見ていた。


 さて、家に帰ったら伯爵様のところに寄って職人の村にあの子を探しに行かなくては。








ストーキング能力に磨きをかけてゆくラピスでした笑


誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)

ブクマ&評価ありがとうございます(*´ω`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最推しからのデコチューで記憶が飛ぶラピスも可愛いですね! 魔道具携帯電話の開発も楽しみです。
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