57・カーテシー
明日は忙しいぞー。
朝はエルナたんをお見送りして、それから伯爵様のところへ。お手紙を渡してから職人の村にあの子を探しに行くのだ。
ドルティア族少年保護計画!!……なんつって。
それにしても…ここ最近知らない事や物がどんどん増えていくなぁ~…。
前世でネット小説として読んでた時には聖女や魔女、ドルティア族なんて出てこなかったし。
まぁネット小説の方はいつも始まりが学園入学時八歳のロリエルナたんからだもんね。んで16歳で処刑でループする…。
それ以前の生活や出来事はいつも箇条書きみたいな感じでサーッと書かれてただけで詳しく描写されてた訳じゃなかったからなぁ。
伯爵様の事も『二ヶ月に一度、お父様の視察に同行していた時に話をしていた』で終わり。当然アー君の登場もなかった。
私が知ってる出来事は学園入学後からだから、それ以降に起こる事でエルナたんをバッドエンドに導くフラグは事前に全てへし折っておきたい。
一番はエルナたんを狙ってる組織を壊滅させられれば最善なんだけど、残念ながら情報は一握りだ。
まずは目の前の事を片付けて、公爵様との約束である【隠蔽】の魔法を覚えよう。
一応貴族のお勉強もアー君に交ざってさせてもらってるけど、淑女教育とは違うからなぁ…。未だにカーテシーが苦手でふらつく。
その度にアー君が支えてくれるけど。
良いなぁ、男の人の挨拶は簡単で。右手を心臓に当てて片足下げて頭下げるだけなんてさ…ヨユーじゃん!とっかえてよアー君!
「…ぶふっ!」
そして今またカーテシーの練習で失敗して頭からベッドに突っ込んだ。
せめて転ばないようになりたい…。
「カーテシーきらい…」
よじよじとベッドに登り寝る準備をする。今日もお布団はフカフカだった。兄が干してくれてたようだ。ありがとうお兄ちゃん。
「挨拶の練習は置いといて…さてと、今日も夢の中で特訓だー」
学園入学は数え年の八歳から。だから後一年半しか時間はない。その間にやれる事ややらなきゃいけない事を全部片付けて、万全の体制で学園に乗り込まなくては!
その為には絶対に解決しなくてはいけない案件がひとつある。
「………すぴー…」
──。
───。
─────…。
『じゃん!今日も成功だぜーぃ!!』
ふわふわの雲のような綿毛のような物体の上に私はふわりと降り立った。
ここは私の【夢の中】だ。
完全に意識が保たれた状態のまま、私は夢の中に存在できる魔法を作り出した。
夢って無意識に見るものだから意識的に見ようとしても見れるものじゃない。ただ単に夢を見るだけの魔法はあるけど、それじゃ意味がないからその魔法をちょっとこしょこしょっと弄って夢の中でも意識を保てるように作り替えた。夢の世界、つまりは精神世界を往き来できる魔法だ。
と言っても最近やっと完全に意識を保てるようにコツをつかんだばっかりだけど。
これも前世の知識でレムだかノンレムだとかの知識があったから出来た事で、完全に私だけの力って訳じゃない。
『ふんふんふ~ん♪』
鼻唄を歌いながら無重力のようにふわふわとスキップしながら夢の中を歩く。途中覚えてるアニソンを熱唱したりしながら私は精神の海を游ぐのだった。
翌日、エルナたんが私と兄を朝食に誘ってくれた。執事のロートベルさんが迎えに来てくれたので着替えて兄と一緒に家を出る。
兄は公爵様と会うのは二回目だけど、あまり緊張した様子はなさそうだ。
うちの朝食が早いことを知っているエルナたんは朝早くにロートベルさんを寄越してくれたのだ。
案内されたのは昨夜お泊まりした豪商のお屋敷ではなくて、広場近くのカフェだった。奥に個室があるのは知っているけど入るのは初めてだ。
フロアの方はナチュラルな感じの素朴な造りだけど、個室はフロアで使われている物よりも木目の詰まった固そうでツルツルした素人目にもちょっぴりお高そうな内装みたいだ。母が「あの個室は結婚する相手の家族と仲良くなるためのお部屋なのよ」と言ってたけど、要はお見合い部屋なんだろうなぁ。
「やあ、おはよう、二人とも。よく来てくれたね」
「おはよう、ラピス、お義兄様」
「エルナたん、公爵様、おはようございます!」
「おはようございます、公爵様、お嬢様。お招きありがとうございます」
兄は流石に公爵様の前だからなのか『エルナちゃん』呼びはしないようだ。しかも兄!何気にちゃんと貴族の挨拶してる!ちゃんと出来てる!ズルい!
「なんでお兄ちゃん貴族の挨拶できるの?ズルい!」
「そりゃ僕はあちこちで手伝いに駆り出されてるからね」
そう、兄、私の前じゃシスコン全開の愛が重い人だけど実は大変優秀なんだよね。顔が良いのもあって街のあちこちでお手伝いを頼まれるから、商会にもちょくちょくバイトをしに行ってる。確か稀に貴族の人も来るって言ってたっけ。
だから必然的に覚えたってことかな?
にしてもズルい!エルナたんの前でカッコつけてー!私まだカーテシーちゃんと出来ないのに!
「むぅ…」
「ほら、むくれない。お嬢様が見てるよ」
宥める様に頭を撫でられる。その様子をエルナたんは何だがうっとり見てる気が…んん?兄に撫でられたいのかな。
「ラピスもアラン様に挨拶の練習をお手伝いしていただいてるのよね?ラピスのカーテシー見てみたいわ」
ひょわっ!?エルナたん何ワクワクした顔で言ってるのですか!?
思わぬお願いに無意識に一歩後退ってしまった。
「へぇ。それは是非見てみたいね!」
公爵様が笑顔で楽しそうに言うものだから、エルナたんもウンウンとオメメをキラキラさせながら頷いている。兄に至ってはエルナたんと同じ反応していた。
「ぁ、あぅぅ…」
あ、これもうやんなきゃダメな空気だ。
エルナたんのお願いは出来る限り叶えてあげたい。でも出来ないものはできないんだよぉぉぉ…。
目の前には3対の眼がワクワクと輝いている。背後には執事のロートベルさんと数名の護衛の人達が。
この空気、耐えられそうにない…。
もう絶対に失敗すると解ってることをするのって笑いを取りに行く様なものじゃんか。
ちくそー!笑いたければ笑うがいいさ!!
最早ヤケクソ気味に私はスカートを摘まみ左足を後ろに下げる。そのまま背筋を伸ばしたまま頭を下げて起こせば華麗なカーテシーの完成じゃい!
………とはならなかった。
べしゃ、とある意味華麗に顔から絨毯の上に突っ込む。
やはりバランスが上手く取れずに顔から突っ伏してしまった。
ごきげんようの「ご」も発することなく。
「………………」
「………………」
「………………」
しん…と静まり返る室内。
だから嫌だったんだよぉぉ。
羞恥に身悶えそうになるのを冷静な振りして起き上がれば、公爵様は瞠目したままで、エルナたんは両手で頬を包み何だか恍惚とした表情で私を見ていた。
兄に至っては苦しそうに胸を押さえ、部屋の壁に手を着いている。動悸息切れか…?
「これはまた…ラピスにも苦手なことがあるんだねぇ」
公爵様は何故か失敗した私に対して嬉しそうに笑った。
「気にすることないわっ。ラピスならそのうち上手に出来るようになるはずよ」
「そうだぞ、にぃにが練習に付き合ってあげるからな!」
エルナたんの可愛いエールと、やたらむつこい兄の愛に挟まれて私はぎこちなく頷いたのだった。
ぐぬぅ…幼児体だから頭が重いせいなんだよー。もう少し背が高くなればきっとバランスだって取りやすくなるはずだもん!
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