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56・憎しみの残滓

 


「………そうか、そんなことが…」


 脱迷子してすぐ私達は村を出ることにした。特に用もなくなったからだ。

 今はエルナたんの隣で馬車に揺られている。


「エルナたんがカッコ良かったです!」


 興奮気味に答えた私に真っ赤になったエルナたんが顔を両手で覆いながら「やめて」と悶えていた。かわゆいなぁ。

 それを公爵様は微笑ましげに眺めている。


「う~ん…それにしてもドルティア族の子供かぁ…。彼等が暮らす集落は北のノーザン公とうちの領地の境目の山奥だった筈だ。それが子供ひとりでこんな場所に居るなんて…」


 指先を顎に添えて公爵様は窓から流れる景色に目をやる。そして小さな聞き取れないくらいの声で「何かあったのか…?」と呟いた。


「ともかく、彼等の居住区から遠く離れた土地に子供が一人なのは危ない。それでなくともドルティア族と言うだけで迫害の対象になるからね。保護した方が良いかもしれない」


 確かにあの過剰なまでの酷い扱いを日常で受けているなら助けてあげたい。もしも迷子なら送り届けてあげたり公爵様ならどうにか出来る可能性があるだろうし。


「じゃあ私があの子を見つけます!ちょうど返すものもあるので」


 私に出来るのはあの子を見つける事ぐらいだよね。


「頼んでも良いかい?それで、もし発見したならジョシュアの所へその子を案内してほしいんだ」

「伯爵様のところへ…?」

「そう。ジョシュアの先祖はドルティア族に助けられたそうだから、今でも恩義を感じている。彼奴になら任せて大丈夫だよ」

「了解です!」


 とりあえず明日は伯爵様の所へ行ってから職人の村へ行こう。

 一応伯爵様にも報告しなきゃだし。しないと後で叱られる未来しか見えないもんね…。


 それにしても流石エルナたんのパパだよね~。

 人を生まれや見た目で判断しない、ってのは言うのは簡単だけど難しい。エルナたんが偏見や色眼鏡で人を判断しないのはきっと公爵様の愛ある教育の賜物なのだ。

 素晴らしい女神に育ててくれてありがとう公爵様!


「あ、そう言えば…」


 ドルティア族って名前だけで迫害されるなんてどうしてなのか解らないんだよね…。

 だってエルナたんはちゃんとあの子の、ドルティア族の事を解ってた。多分公爵様もドルティア族に対して偏見はないと思う。

 …って事は少なくとも真実を知ってる人が居るって事だよね…?それなのにどうして悪い尾ひれの付いた噂を信じる人が多いんだろう…?


「エルナたんの言ってた事は多数派の意見なの?」

「私が言っていたこと…?」

「うん。魔剣は呪われてなんかないって…」

「あぁ、その事ね。貴族なら誰もが知っていることよ」


 誰もが?それって変じゃない?誰もが知ってるならどうして平民には伝わってないんだろう。


「けど平民は知らないよね?昔の王様はあんな噂が出たとき訂正しなかったの?」


 見て見ぬふりしてるなんて為政者として失格だぞ。


「勿論、当時の王はその心無い風評に心を痛めて直ぐに布令をだしたよ。そして一度はその噂も払拭された様に見えた。けれど人間と言う生物は良い噂より悪い噂の方を強く信じてしまう傾向にある」


 なんだ、一応布令は出したんだ。

 あの胸糞正義マン(アホ)王子の先祖だから録な奴じゃないって思っちゃった。偏見はイカンね!


「我が領地では当時からその謂れの無い噂について何度も訂正してきたお陰で他領程彼等への偏見は強くないはずなんだけどね…。あそこは流民や旅人が集まったりして出来た村だから…」


 なるほど。だから独自の考えが根付いてる…ってことかな?酷い染みは何度洗濯しても落ちないのと同じで、一度染み付いた考えは変わらない…と。

 だからあの村の人達は其々違う反応をしてたんだ。あのおっさんみたいにキレて暴れる人や傍観する人、いつもの事とただその場を横目で通りすぎる人、我関せずな人、反応は様々だった。

 一貫して言えることは誰もあの子に味方する者は居なかったって事だ。


 それともうひとつ気になる事が。公爵様が領民に対してドルティア族の事を訂正しているにも関わらず…。


「それにしても悪い噂が消えないって事は…まるで誰かが後から後から悪い噂を触れ回ってるみたい…」


 流石に300年も経てばそんな昔の悪い噂なんて風化してしまうはずだもの。それなのに未だ色濃くドルティア族への偏見が残っているってことは誰かが意図的に裏から糸を引いてるとしか思えない。


「流石ラピス。ご明察だ。この国には悪を悪として据え置きたい者が居るってことだよ。不満や憎しみの矛先を向ける対象者を定める事で、自分達への不満を和らげたいって考えだね」

「それってつまりはドルティア族への悪い噂をばら蒔いてるのは貴族って事ですか?」

「そう言うこと」


 う~ん。それってイジメじゃん。子供か。


「元々大戦の切っ掛けを作ったのはその時の王弟だったようでね。それが理由で臣籍降下され爵位を伯爵にまで落とされた事を恨んだ王弟が、憂さ晴らしにドルティア族の評判を落としたのが始まりだそうだよ。結局領地運営も上手く行かず、取潰しになって一族郎党自害したって話だけど…。その王弟の憎しみの残滓を利用している貴族が少なからず居るって事が現状だ」


 王弟超メイワク!アカンよ、大人がそんな事しちゃ。しかも最後は責任も取らずトンズラなんて、アカン大人の代名詞じゃないか。


「ともかくあの子を保護して、故郷に帰してあげなきゃ。あのままじゃいつか怪我させられちゃう」


 貴族の思惑云々は置いといて、私は早くあの子を保護しなければ、と気合いを入れる。



 この後、馬の休憩時に公爵様が伯爵様宛に手紙を書いてくれて、私はその手紙を預かった。

 何を書いてるのかは解らなかったけれど、ドルティア族の子供の保護の事やその後の事を書いたと公爵様が教えてくれる。公爵様は公爵様で、どうしてあの村に子供がひとりで居たのかを調べてくれるそうだ。


 そうして再び馬車に揺られながら私達はマルチスへ向かった。

 遠回りになったので時間が掛かってしまい、到着する頃には辺りは夕陽に照らされ街がオレンジ色に染まって見えていた。今夜は前回もお泊まりした豪商の主人のお屋敷にお世話になるそうだ。て事は明日の朝お見送り出来るってことだよね!


 我が家の前に馬車が止まると両親と兄が慌てて飛び出してきた。馬に撥ねられるよ…?

 馬車から降りた私を見た兄と父は目を輝かせてしきりに誉めちぎる。今日はお嬢様仕様ラピスだからね。存分に誉めるがよい。

 エルナたんと並んで双子コーデを見た兄が天に向かって祈りだした時は引いたけど…。

 そこで兄がポツリと「絵師に二人の姿を描かせたい」と溢したことで私はハッとした。


 ─そうだよ!写真!この世界には写真がないんだよ!と。


 貴族は絵を描いて貰って記録するけれど、私達はそんなお金のかかることはそうそう出来ない。

 だったら作ってしまえば良いのでは?

 うん、よし、作ろう!

 そしてエルナたんを激写するんだ!

 兄よ、新しい目標をありがとう!


「お兄ちゃん、ありがとう!大好き!」

「──!!うちのラピスが可愛すぎてツラい!」


 取り敢えずネタ提供にお礼を言うと兄が感極まった感じでギュゥゥっと抱き締めてきた。苦しくはないけど暑苦しいぜアニキ。


 そんな私達を公爵様父娘は微笑ましく眺めた後、お泊まりするお屋敷へ向かって行った。明日は兄とお見送りする約束をして、私は帰宅したのだった。


 因みにお土産の兎肉に母は狂喜乱舞してた。








次回、『ラピス、変態カメラマンになる』


………嘘です冗談です(;°;ω;°;)

いや、いずれそうなるかもだけど…笑



誤字、脱字がありましたらお知らせください(*^^*)

ブクマ&評価ありがとうございます(*´ω`*)


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