54・旅の魔法使い
「あーおかしっ」
テオは未だにケタケタと笑っていた。
なんで笑うのか良くわからないから首をかしげてたらエルナたんと目が合う。目が合うとエルナたんは小さく苦笑を溢した。
何故に苦笑?
「いやぁ…相変わらずラピスの考えはえげつないね!皆凄く引いてて見てて面白かったよ」
「テオドール、ラピスをからからわないの」
「う?」
えげつない?どこら辺が?
こてんと首を反対側に傾げるとエルナたんが空いてる手で「気にしなくても良いのよ」と頭を撫でてくれた。
「さぁ、お父様の所へ行きましょう。皆心配しているわ」
「あ!ちょっと待ってエルナたん」
「?どうしたの?」
エルナたんの手を引いて数歩先の地面にしゃがみ込む。
そこには無惨に破壊されたアクセサリーがバラバラになり物悲しげに地面にめり込んでいた。
エルナたんの手を離すのは惜しいけど、私は繋いだ手を離してその欠片をひとつづつ拾い上げ手のひらに乗せてゆく。
物に意思はない。
けれど日本で育った記憶が「物を大事にしなさい」と脳裏をかすめて、どうしても捨て置くことが出来なかった。
こんな風に踏みつけられるために生まれた訳じゃないのにね。
「…私に直せるかなぁ…?」
ポツリと溢せば向かい側にエルナたんもしゃがみ込んで欠片を拾うのを手伝ってくれた。
きれいな手が泥にまみれた欠片を拾い上げる。その仕草に胸がきゅーーんとした。
普通の貴族は落ちたものを拾うなんてことしないから、エルナたんの優しさに胸が温かくなってキュンキュンする。
「…エルナたん、あのねぇ…私エルナたんのこういう優しいところ大好き」
思わず口から滑り出た言葉にエルナたんは瞠目したあと、ふんわりと笑みを浮かべた。
「優しいのは私じゃなくて、ラピスだわ。─きっとラピスの優しさが移っちゃったのね。 知ってる?優しさって伝染するのよ?」
「違うよぉ。移っちゃったのは私の方だもん」
お互い顔を見合わせてクスクスと笑う。
そんな私達にスッと影がかかる。何だろう?と顔を上げるとすぐ脇に黒紫のローブを目深に被った人物が静かに立っていた。その手には鹿の角みたいに枝分かれした樹の杖を握っていて、まるで魔法使いのコスプレに見える。
エルナたんに近付いても吹っ飛ばされない所を見るに危ない人じゃないみたいだけど…。誰だ?と不思議に思って居ると、なんとその人もしゃがみ込んで欠片を拾い集めてくれたのだった。
バラバラになったアクセサリーの最後の欠片が私の手のひらに乗ると、無言で手伝ってくれていたローブの人がフードを少しだけ上げて顔を覗かせる。フードの隙間からさらりと滑り出た髪は雪のように真っ白で、瞳は深いエメラルドグリーンが宝石のように輝いていた。
エルナたんと言う超絶美少女を見慣れている私でさえ、瞬きを忘れてしまいそうなほどの容姿だ。
そして目が合うと優しく笑みを浮かべたその人は壊れたアクセサリーが乗る私の手のひらにそっと触れた。
「『時よ、逆巻け』」
パァァと淡い光が手と手の間から溢れ出る。
それは一瞬の事で、気が付くと私の手の中の壊れていたアクセサリーは元の形に…ブローチの状態に綺麗に直っていた。
「わぁ…!すごい…もとに戻った!」
もとに戻ったブローチは花をモチーフにした銀細工で、所々に細石を埋め込んだとても手の込んだ可愛らしい物だった。これはあの子を見付けて絶対に返さなくては。
あ、そうだ、お礼を言わないと!
「ありがとう、お兄さん」
「どういたしまして」
見上げると優しく微笑まれる。最初は女の人かと思ったけれど、呪文を唱えた声が男の人のものだったのでどうやらお兄さんのようだとすぐに解った。
「お兄さんは魔法使いなの?」
「そうだよ。旅の魔法使いさ」
「どうして直してくれたの?」
「う~ん、そうだね…君達の優しさに手を貸したくなった…からかな?」
考える素振りが理由はそれだけじゃないと物語っているけど、まぁいいか。今は直してくれた行為に感謝感謝だ。
柔和な笑みを浮かべたまま彼は立ち上がると「じゃあね」と身を翻した。
「あ、待って!」
まだ聞きたいことが!と声をあげたけど、その後ろ姿は人混みに紛れて離れていってしまった。…残念。
「不思議な方だったわね」
「うん…。あーあ、さっきの魔法、教えてもらいたかったのに…」
物体を修復する魔法なんてめっちゃ便利じゃん!知りたかったなぁ。
余程名残惜しそうな顔をしていたのか、エルナたんがよしよしと頭を撫でて気を紛らわそうとしてくれる。
ポケットからハンカチを出して直ったブローチともうひとつ、おっさんに蹴り上げられたとき手に持っていたペンダントトップを丁寧に包んで再びポケットにしまった。
ネコババじゃないよ。ちゃんと返すもんね。
そしてエルナたんと再び手を繋ぎ歩き出す。後ろでは未だにクスクスと笑っているテオが肩を震わせながら着いてきていた。
暫く歩いていると店の前に武器を乱雑に並べた武器屋さんが見えてくる。酒樽のようなものに何本も剣が入っていた。まるでセール品の扱いだ。
「剣がいっぱいだ~」
「けどラピスにはちょっと大きいわね」
確かに、店の前に立て掛けられた物や酒樽に入っている剣は両手持ちの大剣やロングソードが殆どだ。私の身長とそんなに変わらない。
「ラピスの武器はダガーだったかしら?」
「そうだよ。ちょっと前に折れちゃったから伯爵様が新しいのをくれたの。でも一本だからもうひとつ欲しいんだぁ。二刀流なら動きも無駄がなくなるし」
「ニトウリュウ…?」
エルナたんは初めて聞く単語なのか首をかしげた。
テオもエルナたんと同じ様に不思議そうな顔をしている。
こっちの世界には剣二本で戦うと言う戦闘スタイルはどうやら無いみたいだ。
「えっとねぇ…両手で一本づつ持って戦うってことだよ。攻守のバランスがとりやすいスタイルなんだけど」
伯爵様の所で訓練している兵士の皆は大剣を持つ人が多かったけど、中にはロングソードと盾と言う人もいた。まぁそれは人ぞれぞれ自分に合ったスタイルを選んでいるんだろうけれど。
私は背が低くて大きくて長い剣は却って邪魔になるので短剣の方が扱いやすい。それにスピード特化型だから大剣のように叩き切る武器より切り裂く武器の方が私には合っているのだ。
そう説明するとテオは瞠目して「なるほどね…」と感心した様子で私を見た。
エルナたんは何か思うことがあるのか、私の話を聞いたあと指先を顎に添えて宙をている。そして顔を上げると真剣な顔で私を見つめてゆっくりと口を開いた。
「………本当はもう少しラピスには秘密にしておきたかったんだけど…」
「?」
「あのね、実は私……けっ、剣、の稽古をしているの」
な、なん…だと…?!
瞬時に剣を構える美少女エルナたんがバラを背景にカッコよく構えるシーンがぶわっと思い浮かぶ。
「そ、それでね…今は子供用のロングソードで練習してるんだけど、何だかしっくり来なくて…」
ちょ!まっ!美少女エルナたんの帯剣モードカッコ可愛くない!?これはアカンレベルの可愛さだよ!
「だからラピスに教えてほしくて…」
ただでさえ今美幼女なのにもっと可愛くカッコよくなるの!?私耐えられるのか!?もうこれ私の鼻が赤い滝を作る未来しか見えないじゃないか!
じゃ見たくないのかって言われたら、それはない!!見たい!帯剣エルナたんモード!!
「~~っ!エルナたんカッコイイ!!!」
きゃー!と歓喜の悲鳴をあげる私を見てエルナたんがビックリしている。その後ろでテオが「ほらね」とエルナたんに苦笑しながら告げていた。なんの事だろう?
ラブ度が底辺なのでジャンル変えた方が良いのか迷い中です…(・・;)
誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます(*´ω`*)




