52・職人の村
私の恥ずかしい二つ名が誕生し、羞恥に身悶えながら「やめてー!」と抗議する事一時間ちょい。
結局二人とも聞き入れてくれなかった…。
そして私達を乗せた馬車は職人さんの村に到着した。
村と聞いていたけれどそれほど小さくもなく、どちらかと言えば小さな町だった。アトリエのような作業場のような…住居なのかな?犇き合うように建ち並んでいる。狭い路地も沢山って迷路の様な場所だ。そんな狭い通路なのに割りと沢山の人が行ったり来たりと忙しなく動いている。荷物を持って移動しているから職人さんなのかも知れない。
なんでそんなによく見ているかと言うと…。
「oh…迷子なう…」
私はひとり、ポツンとその狭い路地で佇んでいるからでした。
迷子になったのは私が悪いからなんだけどね…。
だってマルチスと辺境伯領を行ったり来たりしているだけで、その他の場所には行ったことがない上に初のエルナたんとのお買い物。おまけに見たことのない物が沢山あって目移りしてはしゃいでたらこのザマさ…フッ。
「ここどこなんだろう…?」
行き交う人は私を見て心配そうにしているけれど、忙しいからなのか誰も足を止めてくれない。
仕方なくポテポテと歩いていると少しだけ広い道に出た。そこは道の両端に沢山の露店が広がる場所で、厳ついおじさんが武器を売っていたり、他にもアクセサリーや食べ物、織物や服なんか色々な品を並べて商売をしている。
ふおぉぉ!スゲー!外国のバザーみたいだ!とウハウハで通りに足を踏み入れた。
見るもの全てが手作りの品で、既製品とは違う暖かみを感じる。職人さんって凄いなー。
─って、ちっっがう!!私迷子!エルナたんと合流しなくては!
思わずときめいてフラフラと露店を覗こうとして我に返る。ふぅ…危ない危ない…。
気を取り直してエルナたんを探そうと顔をあげた瞬間、視界の端にキラリと何かが煌めいた気がした。
「?」
光を感じた方に顔を向けると、そこには一枚の布を広げ品物を売る露店が。直接地面に座り込んでいる人は店番の人なのかな?目深にフードを被り、怪我をしているのか顔の半分を包帯が覆っている。年は解らないけれどまだ子供だ。肌の色は褐色で、服装も平民にしては酷い。浮浪者ギリギリの格好だった。
その人物の足元には宝石やアクセサリーが並んでいるけれど、遠目でも解る。それが凄く手の込んだ細工だと。
けれど誰もその露店には近付こうとしない。
不思議に思って近付こうとした瞬間、背後から誰かに手を捕まれた。
振り替えると知らないおじさんで、耳元でこっそりと話しかけられる。
「お嬢ちゃん、やめときな。あいつはドルティア族だ」
ドルティア?なんだそれ。
聞いたことがあるような…。
首をかしげているとおじさんは「とにかくやめときな」と去っていった。
ドルティア…ドルティア………あ!思い出した。公爵様の歴史のお話で出てきた部族だ。
確か300年ほど前の戦争で魔剣を沢山作って国を勝利に導いたけれど、戦争が終わると沢山の人を斬った剣を人々は嫌厭して、同時にそれを作ったドルティア族をも嫌悪し出した…だっけ?
何百人も斬ったのに刃こぼれひとつしない事から【呪いの剣】と言われて、今は発見されると直ぐに国に押収されてしまうみたいだけど…。
逆になんでそれが呪いの剣になるのか不思議で仕方がない。だって何百人も斬ったのに刃こぼれしないんだよ?最高じゃん!一生研ぎ要らずなんて経済的だと私は思うけどなぁ。
おじさんはやめとけって言ったけど、別にこの人が何か悪い事した訳じゃないんだし、関係なくない?
なので私はその人の前まで歩いて行き、品物が並んだ布の前にしゃがみこんだ。
「………」
一瞬何かを口にしようと唇が動いたようだけど、その人は口を開く事はなかった。
私はじ~っと並んだアクセサリーを眺める。手に取りたいけれど、こんな子供じゃ「買えもしないのにベタベタ触んじゃねーよ!」って思われそうだしね。
それにしても…凄い精巧だ。彫金は見事だし磨き抜かれてピカピカだ。宝石も手に入りやすい細石みたいだけど、カットがうまくて安っぽさを感じない。何よりセンスがいい。
「ほぇ~…凄い…」
「………」
うっとりと息を吐くとフードの人物が少しだけ顔を上げた。綺麗な顔立ちだけど左側は包帯が巻かれている。目の部分は隙間が空いているので怪我している訳じゃなさそう。そして真っ赤な綺麗な双眸と目が合った。エルナたんより赤味の濃い、ワインレッドの瞳だ。
「オメメ綺麗だねー」
いいなぁ~エルナたんとちょっぴりお揃いで。
「………お前、さっき俺がドルティア族だと聴いただろう…?恐ろしくないのか」
あ、お兄さんだったか。綺麗な顔だからお姉さんて呼ぶところだったわ…セーフセーフ。
無表情で問われた内容に私は首をかしげる。
「…なんで?」
「なんでって…親から聞かされてないのか。ドルティア族は呪われてると…」
「全然。そんなことよりこれお兄さんが作ったの?凄いねー!これに魔法を付与できないかなぁ?」
フッ、俺に触れると火傷するぜ…、的な事を言い出したのでスルーした。いいよそう言う中二アピは。前世で沢山ごちそうになりましたからね。
あ、これとかエルナたんに似合いそうだなぁ。お揃いで欲しいなぁ~。
「…………」
ん?なんだ?
品物から視線を上げると何故か困惑したような顔の男の子にジーッと見詰められていた。
「ねぇ、触っても良い?」
「ぁ、あぁ…」
私はひとつのペンダントトップを手に取り陽に透かしたり裏返したして心ゆくまで眺める。うん、綺麗だね~。
「ねぇ、このペンダントトップいくら──」
いくらするの?と声をかけた瞬間、私と男の子の間にあったアクセサリー達が布ごと宙に舞った。
それらが重力でカチャカチャと音を立てて地面に転がるのを見て一瞬何が起こったのかわからなくて固まってしまう。
ふと横を見ると私の隣には何故か怒ったような顔の中年の男性が。
つまりこのおっさんが布ごとアクセサリーを蹴り払ったのだ。
「このクソガキがぁ!いつまでこの村に居やがる気だ!テメー等みたいなクソ部族が居座ると村の評判が悪くなっだろーが!!」
あろうことかこのおっさん、落ちたアクセサリーを踏み潰し体重をかけて砕いた。
「なっ!」
驚く私とは対照的に、男の子は無反応だった。そして散らばった品物を大切そうに一つ一つ拾い上げて行く。
すぐに解った。これが日常的に行われている行為だと。
「クソッ!クソがぁ!!」
何がそこまでこのおっさんを怒らせるのかは知らないけれど、まるで親の敵のように未だに壊れたアクセサリーを踏み潰していた。
それを見て足元からブワッと怒りが沸き上がる。
「──やめろッ!!」
私が叫んだ瞬間、おっさん本人もその愚行を黙って見ていた傍観者も通行人も、アクセサリーを大切に持っていた男の子も時が止まったように動きを止めた。
「…あぁ?!なんだ、ここはガキが遊びに来るような所じゃねぇぞ!さっさと帰んな!」
ハッと我に返ったおっさんだけがすぐに私に噛み付いてくる。
「─ならおじさんは帰らなきゃダメだよ。お店の物をお金も払わず壊しちゃいけないって、私でも知ってるもん。知らないってことは──ココ…私より子供ってことだよね?」
ツンツンと自分の頭を指しながら言うと、静まり返ったその場で誰かが吹き出す声が聞こえた。それを皮切りに今まで傍観していただけの人達がクスクスと笑い出す。
嘲笑に顔を怒りに染めたおっさんが振り返り「見せ物じゃねぇぞ!」と怒鳴り散らすと、今度は眉を顰めてヒソヒソと囁きだした。
迷子なう!笑
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