51・聖女と魔女。─そして魔王誕生
ガタゴトとゆったり進む馬車の中でエルナたんと一緒にお勉強をしている訳だけど、王様が何々したとかこういう政策をしたとか…まぁその辺は総理大臣みたいなものだと思いながら耳に入れていた。
その王様のお話も最近のものになって、漸く今の王様にたどり着いて終わり。
うん、王様については特にどうという事はなかったし思わなかった。
けれどめっちゃ気になることがいくつか。
それは時々現れる【聖女】と言う存在だ。そしてそれに連なるように現れる【魔女】。
その二つはまるでワンセットだと言わんばかりにどちらかが現れれば必ず片方も現れる、と言うものだった。
聖女は…まぁわかる。小説の中では出てこなかったけれど単語は出てきた。特定の人物を指したものじゃなかったけどあのクソビッチ偽善者がそうじゃないか?と噂されていたし。
けれど魔女は解らない。小説の中にもそんな存在は出てこなかった。魔女ってなんだ?魔女っ子?魔法を使える女の人ってことだよね?だったら該当する人山ほど居るんじゃ…。
ちなみに前世のように歴史の時々に居た【希代の悪女】のような女性は今のところ公爵様の口からは出てこない。
それもおかしい。絶対に居るでしょ、悪妻とか悪妃とかさぁ。
まぁ悪女が居たか居なかったかは置いといても、小説の中で悪女として名を馳せていたのはなんにも悪くないエルナたんだった。
私からすればエルナたんが聖女で、クソビッチが悪女だと思うんだけど…。小説じゃそんな描写はなかったんだよね…。う~ん…。
そしてその件の聖女だけど、必ず聖星教が背後に金魚のフンの如くくっついてる。取り込まれているのか、はたまた聖女が教会側を操っているのか…。
聖星教についても、世界の歴史が記され始めた頃には既にあった…とか、やっぱ胡散臭いカルト宗教なんかな?
「どうしたの?ラピス。難しい顔して」
「え?あ、えと、…魔女ってなにかな~って…」
「魔女? そうね…私もよく知らないのだけど…お父様は魔女の事をご存知?」
「ん?あぁ、魔女、ね。私も文章の上でしか知らないけれど、突然現れて人々に災いと呪いを振り撒くそうだ。魔女に呪われた土地は疫病が流行り、大地と水が腐り人が暮らすことの出来ない汚染された場所になる、と」
公爵様の言葉にエルナたんが眉根を寄せて悲痛に息を飲む。
エルナたんに悲しい顔をさせるとは…魔女、許さん。
「そこで聖女の登場だね。その汚染された土地を聖女の力で癒す。そうすれば土地は清められ元の様になる、という訳だ」
「まぁ…良かった…」
ほっとエルナたんが肩を落とした。見も知らぬ土地の人にまで心を砕けるなんてなんて優しいんだろう。やっぱエルナたんが聖女なんじゃないの?
「公爵様、魔女は人なんですか?」
「残念だけど、人ではないようだ。─いや、人として認められない、と言った方が正しいかな? 国が認定するんだ。【人ならざるもの】として」
それってつまり人間の枠をはみ出した元人間て事なんじゃないの?人としての道徳や理念を踏み外した人を『人でなし』と言うのと同じで。
「魔女は聖女の聖なる光でその存在を消されるそうだよ。そして世界は平和になりました、おわり…ってね。ラピスはこれが出来すぎたお話だと思わないかい?」
公爵様が言う意味を私は何となくだけど理解できた。
はっきり言って『なんか気持ち悪い』のだ。
何がどうとかじゃなくて、その話が気に入らない。
人は不利益や不幸を他人のせいにする。
疫病にしても天変地異にしても、誰か一人を生け贄にして責め立てる。例えその人物に非がなくても。
─つまりこの話は恐らく前世で言う所の【魔女狩り】だ。
「人間が人間を人間ではないと決めるなんて…神様にでもなったつもりなんですかね?」
冷めた気持ちが言葉になって滑り出た。
いや、この場合は神様じゃなくて悪魔かな?あ、でも私もエルナたんに手出ししようとする奴は全員もれなく生ゴミだと思ってるから、私も悪魔?
「そうだね。人間は人間以上にはどうしたってなり得ない。肩書きがどうあれ、ね…」
公爵様の言葉は正しい。
私だってそう思ってる。どんなに凄い地位や名誉、名声を手に入れても、人間と言う存在以上には決して誰もなれない。神様になるなんて、物語の中でしかないんだ。
「…それにしてもその魔女というのが凄い力を持ってるなら、どうして聖女が一人で立ち向かうんですか?普通は聖女と共に勇者が旅立ちました~って言う方が物語としてはあり得ると思うんだけど…」
「ふふ…ラピス。ラピス、勇者と言うのは物語の中にしか存在しないのよ?」
私の疑問にエルナたんがくすりと笑った。
「え!そうなの?」
「ええ」
エルナたんがクスクスと笑いながら私の顔を覗く。その眼差しが何だか慈愛を感じるもので、不思議に思って公爵様を見上げるとやっぱり微妙な温度を感じる。
─ん?もしや私、特撮ヒーローが現実に居ると思ってる子っぽく思われてる!?だから公爵様も生温かい目で私を見てるのか!ひええぇぇ!恥ずかしい…!
「うんうん、やっぱりラピスも子供だね」
可愛い可愛い、と公爵様が私の頭を撫でた。
うぐぅ…はぢかしぃ…。
「じゃぁ勇者がいないってことは、魔王もいないってことなのかなぁ…」
恥ずかしさに身悶えながらふとそんな疑問が口を吐いた。だって勇者がいないなら魔王は必要ないって事だよね。この世界の最たる悪が魔女なら、の話だけど。
「ラピス、マオウ…とはなんなの?」
聞いたことがないわ、とエルナたんが首をかしげた。公爵様も同じで小首をかしげている。
「ぇ…」
何とこの世界、剣と魔法の世界だって言うのに魔王が存在しないどころかその概念すらなかった。ファンタジー世界なのにマジか!
そう言や小説にも一文字も出てこなかったな、魔王。
「魔王、は、…ん~と…『魔を率いる王様』…『魔を掌る者達の頂点』、『魔導を極めた者』とかかなぁ…」
私としてはこんなイメージなんだけど…魔王、格好いいよねぇ。
前世だとゲームや物語の終盤に出てきて『フハハハ!よく来たな勇者!』みたいな陳腐なものもあったけど、よくよく思い出してみると学生の頃は魔王視点のラノベや漫画も多かった。
魔王には魔王の信念みたいなのがあって云々かんぬん…。うん、色々とハマったな、あの頃は!
だからか近年は魔王の存在もリアライズされてたと言うか…悪いイメージがない。
「………」
ん?あれ?なんでエルナたんはオメメをキラキラさせて私を見てるの?
「どうしたの?エルナた─」
「素敵ね!魔王!ラピスみたいだわ!」
「はえ!?」
両手を合わせてズイッと顔を寄せたエルナたんがとんでもない事を言い出した。
なんで!?あの説明でどうしてそうなるの!?と困惑した顔で公爵様を見上げると、この人も笑顔でとんでもないことを言い出した。
「魔王…魔王か……うん、良いね、魔王。ラピスにぴったりじゃないか」
「魔王ラピス…うん、とっても素敵だわ!」
「え、えぇぇぇ…」
口を挟むまもなく私の恥ずかしい二つ名が誕生してしまった。
やっぱ父娘なんだね…!あぅ…。
魔王が爆誕しました!!笑
誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます(*´ω`*)




