50・歴史を勉強しよう
「お前、折角可愛い格好してるんだから、兎を見かけても追い掛けるなよ」
「しないもん!」
伯爵様の呆れ半分な言い様にブーを頬を膨らませて抗議する。
それだといつも私がお肉の事ばっかり考えてるみたいじゃないか。失敬な。
「まぁアーチェスが一緒なら大丈夫だろう。くれぐれもこいつが余計なことをしないように見張っててくれ、頼むっ」
公爵様にお願いする伯爵様の顔は真顔だった。なんと言う失礼な。私はいいこなのに。
「アー君!またね~!ばいばーい!」
「ぅ、うん、またな!」
馬車から顔を出して見送りに来てくれた伯爵様親子に手を振る。なんか最近のアー君てば私と話すとき吃り気味なんだけど、大丈夫かな?
ともあれ私達は職人さんの村に向かったのだった。
職人さんの村は私の住むマルチスより少し南西側で山を五つ跨いだ場所にあるそうだ。山五つなら直線で突っ走れば我が家はすぐそこなので現地解散と提案したのだけど、公爵様もエルナたんも納得してくれなくて、気の毒なことにマルチスまで遠回りになるのに送ってくれる事になった。二人とも心配性だなぁ。
ガタゴトと馬車に揺られ、伯爵様の領地を通り過ぎる。
途中の私のやらかした禿げ山を見るたびにスン…とするのだけど、もう時効だからそろそろ許してほしいと思う。いいじゃん、更地になったんだから建造も楽チンでしょ?
「あ、そうだ」
忘れるところだった。本日の先生は公爵様なんだっけ。
空間収納魔法に手を突っ込みアー君から借りた歴史書を取り出す。因みに私が元々着ていた衣類一式も空間収納魔法の中だ。
「ジョシュアからラピスが空間収納魔法を覚えたとは聞いていたけど、さすがラピスだね」
公爵様に誉められるとすかさずエルナたんもイイコイイコと頭を撫でてくれる。誉められるのって何歳になっても嬉しいものだ。
左手に公爵様、右手にエルナたん、と私は間に挟まれて分厚い歴史書を開いた。
歴史書は俗に言う神話の時代から始まるのだけど、ぶっちゃけ神話の方はあんまり興味ない。と言うか女神様よいしょが酷すぎて思想がカルトじみてて怖いのだ。例えるならアイドルに群がる末期のドルオタのような感じだ。
ペラペラとページを捲って神話時代をすっ飛ばす。公爵様が「神代は良いの?」と聞いてきたけど、興味ないっすわーとは言えず「教会で聞いた」と言っておいた。あながち嘘と言う訳でもないしね。
「じゃぁ何処から勉強しようか?」
「えーと…取り敢えず私が暮らす国の事が知りたいです」
そう、なんと私、自分が住んでる街の名前は知ってるけど国の名前は知らない。と言うかその事実につい最近気が付いた。いや、ネット小説読んでた時にはちゃんと覚えてたんだよ?けど年がら年中エルナたんの事ばっかり考えていたら綺麗に忘れちゃったんだよね~。
なんだっけ?国の名前、みたいな感じで。確かマングースみたいな名前だっような…?
「私達が暮らすこの国の名前は【マードラニエ】。マードラニエ王国と言うことになるね」
マングースじゃなかった!
うん。私の記憶力あてにならないな…。
「ではマードラニエ建国の話からしようか」
「お願いします」
多分エルナたんはもう勉強済みで知ってるだろうけど、私に付き合ってくれる形で隣に座ってくれている。エルナたんのそう言う優しいところが私は大好きだ。
本に顔を向けたままこっそりとエルナたんを横目で見ると、目が合ってにこりと笑ってくれた。
エルナたんが隣にいてくれると苦手な勉強も頑張れるよー。
「建国の話から、となるとほんの少しだけ神代の話も絡んでくるから、まずはそこから話すよ」
むかーし昔から始まった建国のお話は神代の終わりから始まった。
この世界には大陸が三つあって、その一つ一つが女神の子供なのだそう。
その昔、女神は他の世界の男神との間に三人の子供を授かった。けれど神の力を持つのは女神だけで、三人の子供は天界で暮らす事ができず地に降りた。それがこの世界の三つの大陸、と言う訳だ。
中央大陸【ガルガナ】。ここが私の暮らす国がある大陸だ。
ガルガナには四つの国がある。
中央の【マードラニエ】
北の【クレイハイト】
西の【ルーディリカ】
南の【レナマルテ】
そして私が住むマルチスがあるのが中央のマードラニエ王国。
公爵様が治める領地は王都から西側で、さらにその西側に伯爵様の領地がある。
伯爵様はルーディリカを牽制する意味でも軍隊を持つことを許されているそうだ。今は国政も落ち着いているので、まぁそのほとんどの仕事が魔の森の魔物討伐らしいけど。
一番ちょっかいをかけてくる国は北のクレイハイトで、肥沃な大地が広がる我が国を虎視眈々と狙っているそう。
けれど北の辺境伯がアホほど強い軍隊を持っているので全く歯が立たず、毎度毎度泣きを見ているようだ。
アホほど強い軍隊ってどんなだよ…。戦車でもあるのかな。戦車…戦車かぁ…ちょっと欲しいかも。
南のレナマルテは地続きだけれど間に海があるので行くなら西から迂回する形で回らなくてはいけない。
レナマルテは大陸の中では一番小さな国だけど、独特の民族性があって、争い事には一切介入はしない。公爵様が言うには王族、国民共に「毎日楽しけりゃいいじゃん!困ったことがあってもどうにかなるって!」という要はケ・セラ・セラ精神のようだ。何となくだけど気が合いそうな気がする。
国の位置が解ったところで建国のお話に戻った。
「初代国王は実は貴族ではなかったんだ。と言うよりも、その時代には貴族というものは存在しなかった。 真偽は定かではないけれど、ガルガナ大陸の四つの国の初代国王は皆兄弟だったそうだよ」
国王達の親は何と女神の子供のそのまた子供達だった。まぁもう何千年以上前の昔話だけどね。と公爵様は眉唾物だと小さく吐息を溢した。
そしてその国王が血脈を広げ生まれたのが【貴族】と言う事だった。つまりは貴族は皆少なからず全ての者と血が繋がった血族と言うことかな。
「と言う昔話なんだけど、私は余り信じてはいないかな。うちもまぁ古くから続く家系だけど、古参の貴族の中には自分が神の末裔だと馬鹿な思想を盲信している頭のおかしい者も少なくないからね。そんなのとは一緒にされたくないなぁ」
ん?あれ?何気に貴族をディスってませんか?公爵様。
にっこりと微笑んだ公爵様の口からとんでもない言葉が飛び出して驚きで固まってしまった。
「だって考えてもごらんよ。見たことも話したこともない、存在すらあやふやな先祖だよ?女神の子供だって言うのも、後世の誰かがそれに肖りたいがために吐いた妄言じゃないなんて、誰が言えるんだい?」
「確かに…」
前世でも「これは神様が作った」って謂れのあるものだって元を辿ればそれはただの人間が作ったものだったって話も少なくない。
公爵様が言う通り、神話だって人が作った物だと言えなくもないのだ。
意外にもリアリストな公爵様に驚いたけど、私も概ねその考えに同意できる。
考古学はロマンの塊だと思うけどその時代を生きていた人間は本当にただの人間でしかない。どんな呼び名が付こうと均しく只の人間だ。呼び名なんて格付けをしたい者が作り出したモノにすぎない。
「なので、初代国王は人間だったと思っておくと良いよ。─と、貴族貶しは置いといて、話を続けようか。えーと…」
にこりと笑った公爵様が手を伸ばしてページをめくる。
自分で貶してるって言うんだ…。
公爵様みたいな貴族は少数だって知ってはいるけど、明け透け過ぎて驚くんですけど…。
馬車に揺られながら思った。公爵様の黒い部分を初めて見た気がした、と。
沢山の国の名前が出てきましたが舞台はほぼマードラニエなので、他国の事はチラッチラッとしか出てこないと思われます笑
誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます(*´ω`*)




