47・酒は飲んでも飲まれるな
※ラピスの飲酒有り。
未成年の飲酒を誘発する目的はありません。
ラピスの中身は成人済み女性です…(・・;)
※途中からテオsideになります
「おいち!もも!もっとぉ~!うへ、うへへへへ~」
んん?何だ何だ?急に面白くもないのに笑いたくて仕方なくなってきたぞ?
と、楽しい気分になったのに、皆顔色を変えて私を見詰めて騒ぎだした。
「きゃぁー!ラピス!しっかり!」
「ジョシュア!水だ!!」
「ラピス!しっかりしろ!」
何をそんなに慌てているんだろう?こんなに楽しいのに。
「駄目だ…完全に酔っ払ってる」
「よっれらいもん!」
「酔っ払いは皆そう言うんだよ!」
何をいってるんだね君は。私はもう成人済みなんだからお酒くらい何度も呑んだことあるし、こんなちょっぴりで酔うはずないじゃん。
伯爵家の執事さんが慌てて水の入ったグラスを用意したけれど、公爵様がグラスより吸呑みの方が良いと言うと直ぐに移しかえてた。執事さんは吸呑みを伯爵様に渡すとそれを私の口に近付けてくる。
「ほら飲め」
「や!ももがいい!」
プイッとそっぽを向くと視線の先にはエルナたんが心配そうにこっちを見ていた。
相変わらずきゃわいいなぁ。眉毛がへにょん…てしてる。
「ふんぬ!」
「あ!こら!ラピス!」
伯爵様の腕を取っ払いエルナたんの横にぴったりとくっついて腰かけた。
「えりゅなたん!しゅき!しゅき!らいしゅきぃ~!」
「あ、あら、私も大好きよ?だからお水を飲みましょう?ね?ラピス」
「おみじゅ~?」
「そうよ、お水」
エルナたんがそこまで言うなら喜んで飲むよ。伯爵様の手からエルナたんに吸呑みが渡されたのでパカッと口を開ける。
「いいこねラピス」
「えへへ~」
グビグビと水を飲むとさっきまでの楽しい気分がほんのちょっとだけ落ち着いたような気がした。
「えうなたん、えうなたん、あのねぇ~わらしね、えうなたんのこと、らいしゅきぃなの」
「ありがとう、私もラピスが大好き」
「えへへ~」
エルナたんが頭をナデナデしてくれるので気持ちよくて眼を閉じる。すると少しだけ横にずれたエルナたんが太股をポンポンと叩いた。
「少し横になりましょう?」
なん…だと…?!
ひ…ひひひひ膝まくら…!?
いつもなら理性が働いて直ぐ様飛び込んだりはしないのに、何故か私は本能の赴くままエルナたんにしがみついた。
「あぁ、ほら、ぎゅーじゃなくてこっちよ」
エルナたんは優しく私の頭を太股に乗せてくれた。
なるほど…楽園はこんなにも近くにあったのか…!
柔らかくてふわふわしてていい匂いがして、見上げると天使のような可愛い子が私の顔を覗き込んでくる。天国や…!
微笑んでいるエルナたんの表情は年相応の筈なのに、私には少し大人に見える。その笑顔のなかにほんの少しだけ影が射している事に一体何人の人が気が付くんだろう。
そうだよね。これから先まだまだ色々あるもんね…。
「…えうなたん、あのね、らぴすはね、えうなたんにであうためにうまれたの」
「…ラピス?」
「わらひね、ずーっと、ずーっと、えうなたんのこと、みてたんらよ?にかいめも、さんかいめも、よんかいめも…」
「──!?…ラピ…ス?」
ありゃ…だんだん眠くなってきた…。
瞼を開けていられなくなって目を閉じる。
「もう…らいじょーぶ…らよ?わらひが…あいちゅらから…えうなたんをまもりゅ、から…」
「え?え?ラピス?どういう事なの!?」
肩をゆさゆさ揺すられて少しだけ目を開く。私を見下ろすエルナたんの表情は困惑している。
「私を見てたって…一体何処から──」
何処から…?うーんネット小説だからスマホの外から…って、事になるのかな?だったら…。
「…!」
私が指差したのは空の上。真上を指した。世界の外から見てたんだからこれであってるはず。
それを見たエルナたんが息を詰まらせる。
「あっち…ずぅっっと、とおくから…みてたんらぁ。えへへ、わらひね、えうなたんをおいかけてきたのぉ…」
あぁ…もう駄目だ…眠くて瞼が開かない。
突然パタパタと雨が振りだした。
私の顔の上に温かい雨の滴がパタパタと降ってくる。
よく比喩表現で『優しい雨』って言うけど、きっとそれだね─。
優しい雨に打たれながら私の意識は少しずつ薄れていった。
◆◆◆
誰もが声を発することが出来ずに、すぴすぴと寝息をたてるラピスに視線を向けた。
ラピスの言っていたことがただの酔っ払いの与太話だとは到底思えないからだ。
その証拠に、誰一人ラピスの話を理解できないなかエルディアナお嬢様だけが顔を両手で覆って泣き顔を隠している。けれどその涙が悲しみのせいで溢れた訳ではないと俺には解った。何故って…お嬢様はクスクスと笑っているし。
さっきまで普通に扉の前で控えていただけなのに突然部屋の中が騒がしくなってバタバタと足音が聞こえた。で、ノックもせずにもう一人の護衛と部屋に入ったらラピスはべろべろに酔っ払ってるし、もう何か大変なことになってるなぁーって少し呆然としてしまった。
伯爵様が「テオ!どうにかしてくれ!」って視線を寄越してくるけど俺にどうしろと…。
そして酔っ払いラピスは謎の言葉をエルディアナお嬢様に伝えるとぱったりと動きを止めてすぴー…っと気持ち良さげに寝息を立て始めたのだった。
「エルディアナ…」
公爵様がハンカチを差し出しお嬢様の涙を拭う。お嬢様はそれを受け取り自分で涙を拭くと、自身の膝で眠るラピスの顔に落ちた涙を優しく拭き取った。
そしてまるで花が綻ぶようにふわりと微笑み、大事なものを確かめるようにラピスの顔にかかる髪を指先でそっと梳く。
「…さっきのはどういう意味だ…?」
伯爵様が誰もが思う一言を口にする。
それに答えられる人物は夢の中だけど。いや、もう一人…。
お嬢様はその言葉に表情を曇らせた。
「エルディアナは、今ラピスの言った意味…もしかしてわかるのかい?」
「………」
お嬢様は答えない。
けれどそれは拒否の沈黙ではなく、ただ話すことに戸惑っているようで…。
「…お父様、おじさま…今ラピスが言ったことは心の中に仕舞っておいては下さいませんか?」
顔を上げてそう告げたお嬢様は年相応ではなく、年上の俺でさえハッとさせられる程大人びて見える。
「……それはいつか話してくれる、と言う事で良いのかな?」
「はい」
頷いたお嬢様は、女の子に対して誉め言葉になるのか解らないけど、凛々しく、そして気高い薔薇のように俺の目に映った。
そしてそれは今まで曖昧に感じていた違和感をはっきりと認識した瞬間でもある。その同じ違和感を感じる子を俺はもう一人知っていた。
その後、伯爵様に頼まれ酔っ払いラピスをお嬢様を伴い寝室に運んだ。
腕の中にはすぴょー…すぴょー…と幼い子供特有の寝息を立てるラピスが。
そのあまりにも気持ち良さそうな寝顔が可笑しくて、片手でほっぺたを摘まんだ。
「んぅ~…ぉにく…」
「…っ!」
ラピスらしい寝言に思わず吹き出しそうになった。それを見ていたお嬢様に窘められる。悪戯はやめなさい、と。
部屋に入りラピスをベッドにゆっくりと下ろす。ムニムニと動く口は夢の中で何かを食べているようで、自然と頬が緩んだ。
「ありがとう、テオドール」
吐息のような小声で礼を告げられ、俺は頭を下げることでそれを受ける。
そして静かに扉を閉めて退室すると交代の護衛がやって来たので、そのまま与えられた部屋へと戻ることにした。
灯りの落とされた廊下の窓から夜空が見えて足を止める。長年過ごしたこの土地は夜になると満天の星空が拝める事を俺は知っていた。今夜も変わらず星空は綺麗だ。
「…そう言えば…」
異国には流れ星に願いを込めるという風習があると聞いたことがあったっけ。
さっきお嬢様に何処から見ていたのかと問われたラピスは空を指差していた。
「…案外、お嬢様のお願い事を叶えるために空から降ってきたのかも…?」
なんて、柄にもなくロマンチストな事を考えてしまう。
そんな事はお伽噺の中だけだ。現実には起こり得ない。
解っていてもラピスなら有り得るな、と心の何処かで思ってしまうほど彼女は破天荒なので、もしかすると…なんて思ってしまうのだ。
俺はつい最近のお嬢様しか知らないけれど、公爵家の使用人が言うにはこの一年でお嬢様は驚くほど明るくなったらしい。
元々大人しい性格ではあったようだがラピスと出会う少し前、お嬢様はまるで感情の抜け落ちた人形のようになっていた時期があったそうだ。
俺はその頃のお嬢様は知らないし、今ではその話を聞いても冗談でしょ?と笑い流すほどお嬢様は溌剌として見える。
それが全部ラピスのお陰なのだとしたら、ラピスは神様がお嬢様に届けてくれた奇跡なのかもしれない。
近い未来、ラピスは公爵家の護衛として雇い入れられる。
その日が楽しみだと思っている自分に少しだけ驚きながら、俺の今日の業務は終了した。
酔っ払いラピスのせいで今回はちょっぴり長めの文章になりました笑
お酒は二十歳をすぎてから!ですよ~(>_<)
ちなみにこの小説の世界ではお酒は16歳からOKです(ФωФ)
誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます(*´ω`*)




