46・世界の心理
その後、大人二人の晩酌にお邪魔した私とエルナたんだが、職人さんの村へ連れていって貰える許可を無事に貰えた。
「なんだ?何か欲しいものがあるのか?新しい剣なら武器庫にいくらでもあるから好きなの選んでいいんだぞ」
さして酔った風でもない伯爵様がグラスを傾けながら言う。
何で私が欲しいものを剣だって言い切るかな。
「違いますぅー!もっと女の子らしいものだもん!」
ぶー!と頬を膨らませて拗ねた眼差しを送ってやった。
すると伯爵様は一瞬固まってグラスを落としそうになった事で我に返る。
「お前が『お女の子らしい物』…だと?熱でもあんのか…?」
「失敬な!私だって美容くらい興味ありますぅー!」
「嘘つけ!お前の頭のなかは大抵いつも肉か菓子か武器か戦闘か魔法か肉か修行か肉だろ!」
肉って三回も言った!にゃろう!
なんて女心のわからん男なんだ。
「ちがわい!私の一番はエルナたんだもん!!」
「あら嬉しい」
私と伯爵様の低レベルな攻防にエルナたんの頬が緩む。
エルナたんが一番なのは本当だもん。
「まぁ何だ、何かするなら俺にちゃんと報告しろ。お前は目を離すと何をするか解らんからな」
人をトラブルメーカーみたいに言わないでほしい。こんなに善良なパンピーなのに。
「まぁまぁ…ジョシュアもそんなに厳しくしなくても良いんじゃないかな?」
「アホか!!この二ヶ月でラピスがやらかした事をお前は何も知らないからそんなことが言えるんだよ!ついこの間なんかもうちょっとでうちの領地が消し飛ぶところだったんだぞ!?」
伯爵様はクワッと眼を見開き公爵様に詰め寄った。その剣幕に公爵様が身を退いて瞠目している。
「…えぇと。何したのかな…?ラピス」
ついっと視線だけ向けた公爵様は困惑したように水を向けてきた。やべぇ…怒られる…?
「んと…空間収納魔法か覚えたくて、でも魔導書が見当たらなかったから自力でやろうとして異空間に無理矢理穴開けちゃって…」
それが来るときに見えたあの巨大な山ハゲです…としどろもどろで答えると、公爵様が「うわぁ…あれかぁ…」と遠くを見る目で視線をさ迷わせた。
「で、でもでも!もうあの魔法は失敗しないもん!改良して極大殲滅魔法に作り替えたから!ちっさい国ならポンと消せるし、もう大丈夫だもん!!」
「は!?全然大丈夫じゃない!!お前いつそんな魔法作ったんだ!!」
えっへんと胸を張ると伯爵様は雷を落としてきた。何でぇ?
あのままじゃ危険な魔法だから色々研究して新しい魔法として生まれ変わらせたのにぃ。
「国ひとつ消すのに『ポン』なんて可愛い擬音で恐ろしいこと言うんじゃない!」
「じゃボン!で」
「音が問題なんじゃない!大体何でそんな殲滅魔法を作ったんだ…俺は聞いてないぞ」
聞かれなかったし、とか言ったら怒られそうだな。
いいじゃん別に。乱発する訳じゃないんだから。
私が頬を膨らませて拗ねていると公爵様とエルナたんがクスクスと笑い出した。
仲良しだね、と公爵様が言うと伯爵様は襟足をガシガシを掻きながら変な表情で眼を眇めるのだった。
「そもそも新しく魔法を作るって…簡単に言ってるがそいつは国が認めた特級魔術師でも難しい事なんだぞ?解ってるのか?」
難しい…?難しいかなぁ?う~ん、ただ単に難しく考えすぎてるだけだと思うけど。
だって【魔導入門】の本にだってオリジナルの魔法を使えるのが強さの証しみたいに書いてたし。
「そんなに難しいことなの?」
「ええ、そうよ。だからラピスは凄いことが出来る天才なの」
隣に座るエルナたんにナデナデされながら教えてくれた。
どの魔法も同じだけど、魔力量は使う魔法に大きく関わってくる。魔力が10の魔法を5でしか使えないものも居れば20で使う事が出来る者も居て、けれど20で使えたとしてもその魔法が二倍になるわけではなくて飽く迄もその魔法の定められた威力を越えることはない。
治癒魔法で例えると10を完治として5ならかろうじて傷を塞ぐ程度らしい。
この世界の魔法は言葉に魔力をのせて発動させるものなので、要は中二力が高い程魔力の扱いはうまく出来る。これは前世で言うところの『言霊』に通じてるんじゃないかと思う。どんなに強く念を込めた言葉で魔法を発動させても、行使する魔法が初級ならその枠をはみ出す事はないようだ。
なら魔法の威力を高めるためにはもう一段階上の魔法を使うか、或いはオリジナルを作るか…。
けれどオリジナルの魔法を作るためにはその魔法の真髄、そして世界の真理を理解しないと出来ないとかなんとか…。
なんだそりゃ。
つまり魔導書に載ってる魔法ってのは威力や効能が決められた範囲内でしか発動しないってこと?
いやでも私の使う魔法ってそんな括りなかった気が…?
そもそも私が使ってる魔法は魔導書を読んでやたらと小難しく解釈されてる文章を自分の中で分かりやすく組み換えて発動させてるから…これってほぼオリジナル魔法じゃないの?
「……まぁ希にラピスみたいに息をする様に世界の真理を身体で感じる奴も居るんだが」
「世界の真理って?」
「ん?例えば…火はどうして燃えるのか…とかだな」
って、科学かよ!!!
……思わず力一杯突っ込んじゃったじゃんか。
「…まさか風が吹くのも解らない…とか?」
「まーそう言う事だな」
おぅ…何てこった。
自然現象も何もかも、この世界の住人は全て『そんなもの』で片付けているってことだよね…。なるほど…そりゃ科学も発展せんわけだ。
無意識にすっごい深く溜め息を吐いてしまった。
いやまぁ私もそんなに詳しく覚えてる訳じゃないけどさ。小学校から理科の実験や何やらは色々習ってきたけど何となく理屈を理解してるだけで詳しく説明しろって言われたら出来ないし。
あれかな?前世じゃ全て科学で説明できる事が殆どだったから、無意識に頭で理解してる…とかかな?う~ん…。謎だ。
もしそれが世界の真理とやらなら私が使う魔法がオリジナルでも何ら不思議じゃないんだけど、どうなんだろう?
「いいじゃない、おじさま。ラピスが天才ってことで」
「そんな簡単でいいのかよ…」
エルナたんが朗らかに笑いながら言うけれど、伯爵様は眉根を寄せて溜め息をつく。
「我が娘ながら懐が深いねぇ…」
公爵様が苦笑しながらエルナたんを撫でる。それにエルナたんは可愛らしく微笑んだ。
「そう言えば…うちのアランが急に魔力量がグングン増え出してな、理由を聞けばラピスが教えてくれた方法を試してるって話なんだが…」
「そうなのかい?」
大人二人が視線を向けてきたが私は気付かない振りで用意されていた焼き菓子を頬張った。
余計な事を教えたな!って、怒られそうなんだもん。伯爵様すぐ怒るもんなー。
「むぐむぐ…」
甘いもの食べちゃったから後でしっかり歯磨きしなきゃ、とか考えていると急に胴体に手がかけられた。なんだ!?と思う暇もなく宙に浮いた身体がぽすんと何かの上に座らされる。何事かと腕の先にある顔を確認すると…。
「…!」
何と、伯爵様の膝の上だった。
「逃がさねぇぞ。さぁ答えろ」
にこりと笑った伯爵様の腕にがっちり抱き込まれて捕獲されてしまった。
卑怯だぞ!私幼女なのに!体格にモノ言わせやがって!
「ひああい」
「あ?菓子を飲み込め、ほら」
しらない、と口に出したがお菓子のせいで言葉にならなかったようだ。見かねた伯爵様が目の前のグラスに手を伸ばして私に差し出した。
チェイサーだろうか…?
クンクン………桃のにおいがする!
「あ!ちょ、ジョシュア!それは…!」
「え?…あ!!」
グラスを呷った瞬間と公爵様が手を伸ばして止めようとしたのは同時だった。
「あー!…ぁ…あぁ…!」
ぐびぐびと飲んでいると何だか公爵様の焦った様な声が聞こえてくる。公爵様も飲みたかったのかな?
「ぷはぁ~!……おいち!」
飲みきった。大変美味しかったよ、桃ジュース。
………あれ?なんだろう。公爵様とエルナたんが変な顔でこっちを見ている。
振り向いて伯爵様を仰ぎ見ると同じ困ったような顔で私を見ていたのだった。
伯爵とラピスのコンビが気に入ってます…(#'▽'#)
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