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44・唐揚げ時変?

 


 マリスさんに指示を出して漬け込み液を作るのを手伝ってもらった。終始変な顔で困惑しながら手伝ってくれた液体のなかにフォークでブスブス刺しまくった兎肉を投入。手を突っ込んでモミモミして今は保冷庫の中でおやすみ中だ。


「いや…アレ何になんの?マジで…」

「まぁ待ちたまえよ…ふへへ」


 お前の度肝を抜いてやるぜ…、と悪い顔でニヤニヤする私にマリスさんは首を傾げて見下ろした。


「と、これな。これくらいの大きさでよかったか?」


 マリスさんがコトリとジャム瓶より少し小さい物を置く。さっき頼んでおいた小瓶だ。

 その小瓶のなかに確認したスパイスをスプーンで計りながら入れてゆく。その様子をマリスさんは困惑したように黙って見ていた。


 クミンがあるんだから他にもカレーに必要なものもあるはず、と思って全てのスパイスを嗅いでみたらほぼ前世で使ったことがあるものばかりだった。

 中には知らないものもあったけど、南の小国って所はスパイスの名産地らしい。けど私の暮らす国じゃ馴染みがないので流通はそんなにしてないそうだ。

 そんな伯爵家のスパイスさん達はどうやら王都にお仕事に出掛けたエルナたんパパがお土産でどっさりと買い込んでは伯爵様の所へ持ち込むのだとか。

 使い方の分からないものや珍しいものをどんどん持ってくるのでマリスさんは頭を悩ませながら日々お料理の研究をしているみたい。


「おいおい…何かすっげー黄色くね?それ何に使うんだ?」


 小瓶一杯に入れられた自家製のカレー粉をマリスさんは頬を引き攣らせながら指差す。

 蓋をして中身をフリフリしてラベルを貼る。


「はい、これ。スパイス棚の端っこで良いから置いといて」

「ん?お、おぉ…良いけど…何だこの【ラピスのカレー粉】って…」

「へへへ…一週間後をお楽しみに」


 にんまりと笑って小瓶を見詰める。最低でも一週間くらい馴染ませた方が美味しくなるからね~。問題としてはこの世界に米があるかどうかだ。いや、あるよね?だって味噌も醤油もあったんだし…。

 マリスさんは指先で摘まんだ小瓶を胡乱な眼差しで眺めてスパイス棚の端っこに置いてくれた。


「マリスさん、お米ってある?」

「米ならあるぞ。滅多に使わねぇから保冷庫の奥に瓶詰めにして保存してる。何に使うんだ?」


 カレーと言えば米だもんね。ナンも美味しいけど日本人なら米一択でしょ!

 マリスさんにお米を使っていいか聞くとOKを貰えたので一週間後には懐かしのカレーに再び再会出来ることだろう。楽しみだ。


 さてはて、そんなこんなで時間を過ごしているとあっと言う間に時間は過ぎていった。空がうっすら茜色に染まっている。

 窓の外からはガヤガヤと兵士さん達の声が聞こえた。

 顔を覗かせてみるとお肉は串に刺さってピラミッド状態に積み上がっていた。しかもその肉ピラミッド、何個もある。しゅてき…!


 でっかいバーベキューコンロのような物で火をおこしている人や、お肉に塩を振ってる人、お酒の準備をしている人、食器を用意している人、各々が自分のやることをはじめから解っているようにてきぱきと動いている。さすが連携が物を言う軍人さんだね。

 後で分けてもらおっと。


 そんな彼等の元から再び厨房に戻る。

 もう既に夕食の準備は始まっていて調理場の人達はバタバタと動いていた。そんな中でひとりだけ動かず厨房を見渡す人が。


「マリスさんはお料理しないの?」

「あ?俺はいいんだよ。俺の仕事はコイツらを一端の料理人に育てることだからな。監督だよ、監督」


 ドヤ!と胸を張ったマリスさんが目の端に映った男の子にすかさず「もっと丁寧にやれ!」と口を出す所を見るに、しっかりと指導はしているみたいだ。ただのチャラ男かと思っていたのに…。


「で?なんだ…?カラ…カラ、オケ?だっけか?続きやんのか?」


 おぅ…それだと歌う方だぜマリスさん。


「唐揚げ、だよ。えぇとね、私じゃ危ないからマリスさんにやってもらいたいんだけど…」

「危ない…?いったい俺に何をさせる気だよ…」

「さっきのお肉に粉を付けて油で揚げるの」

「は!?油でって…そんな事して大丈夫なのか?」

「ダイジョブ!料理人の見聞が広がるよ!」

「???」


 マリスさんは腑に落ちない感じで頷いてくれたものの、ちゃんと手伝ってくれるんだよね。いい人だ…。早くお嫁さんが見付かるといいねぇ。




 今私の頭の中では某クッキング番組のBGMが鬼リピされている。キューピーも踊っちゃうぜ。


 油の中のお肉がシュワシュワと歌っている。

 二度揚げでカラッと仕上がった唐揚げ達が皿の上に上がってゆく。

 マリスさんの隣からそれを覗き込みながら、ワクワクと皿を見詰めた。


 この国には油で何かを揚げるって調理法が無いので、マリスさんはおっかなびっくりで油の中の肉をツンツンしていたけれど、お肉が揚がり香りが立ち上ると顔色を変えた。

 そして一番最初の出来立て唐揚げを一口食べたマリスさんは雷に打たれた様になり、一言「新たな扉が開いた…」と溢したのだった。

 それからは鼻唄混じりで唐揚げをドンドン揚げてゆく。そしてそれを調理場の人達にも食べさせてあげていつものようにドヤッてた。作ったのアンタじゃなくて私なんですけど…と思ったけど、きっとレシピも覚えてくれてるだろうし、これからはマリスさんが作ってくれる事だろう、私のためにも。


 私はその唐揚げをモシャモシャと食べながら懐かしい味をめっちゃ堪能した。

 そして揚げたての唐揚げを空間収納魔法で保存する。夕食の時に揚げたての唐揚げを皆に食べてもらうためだ。


「へへへ…皆喜んでくれるかな~」


 最近は勝手知ったるなんとやら…で、公爵様が来る時以外でも頻繁に伯爵家へ出入りしているせいか、週に一度はお泊まりする私のために小さいけれど私室があったりする。まぁ小さいって言っても私の部屋の6倍はあるんだけど…。

 なので夕方まで私が伯爵家に留まっているときは大抵夕食を皆で一緒に食べる流れになっている。今や私専用の椅子とカトラリーまで用意されているくらいだ。

 伯爵様も公爵様も貴族なのに、平民の私をまるで家族のように迎え入れてくれるのでちょっと面映ゆい時もあるけれど、この二人が特別なのであって他の貴族相手なら多分一家もろとも首が飛んでる。

 なのでそんな風に私に接してくれる二人を喜ばせたい気持ちもあるのだ。いつも怒られてばっかりだけど、伯爵様は今は気の置けないお友達って感じだし、公爵様も失礼だけど親戚のお兄さんって感じだ。


 皆の笑顔を思い浮かべながらニヨニヨしているとマリスさんが目を輝かせて近寄ってくる。


「なぁ!コイツ売ったら一儲けできるんじゃねえか!?」


 近々領内で催される祭りで出店を出そうぜ!ってお話だった。


「え、やだ。めんどー」

「へ?」


 スパッとお断りしたらマリスさんの目が点になる。

 物凄く面倒臭そうで迷惑そうな顔をした私に戸惑っているようだ。


「え…だってこれ、スゲー旨いしさ!売れるって!俺とひと稼ぎしよーぜ!勿論売り上げの何割かは嬢ちゃんに渡す!だから、な?な?」

「………」


 なんだその『ひと狩り行こうぜ!』的なノリは。

 尚も迷惑そうな顔をする私に、終いには「じゃあレシピ教えてくれ!」と土下座の勢いで頭を下げ出した。

 いや、あんた作るの見てたやないかい。覚えてないのかよ!


 全く…。

 マリスさんや…。何か勘違いしてないかね?

 私は決して前世の知識を活用して荒稼ぎして金銭を手にしたい訳じゃないんだよ。

 そりゃラノベならここで唐揚げでひと財産稼いだりする展開だろうけど、マジで勘違いしないでほしい。


 それは…私の知識はエルナたんのためにあるんだってことだよ!


 そう、私の知識はエルナたんのためのものだ。

 エルナたんを喜ばせるためなら私の梅干し脳をいくらでもフル稼働するよ?それ以外は割りとどうでも良いと言うか…。まぁ後は私がしたい事や食べたいもの、作りたいもの等目的のためくらいだ。

 唐揚げだってエルナたんに食べさせてあげたいだけで…あ、ついでに公爵様と伯爵様もね。決してその他大勢の人のために作った訳じゃない。偶発的に皆の口に入るってだけの話だ。…まぁ私も食べたかったんだけど。


 だから何度も言うが勘違いしないでほしい。

 私にとって優先すべき事は『エルナたんが笑顔になってくれるかどうか』だ。

 エルナたんファーストを掲げる私にはそれだけは揺るがない。だから私に変な期待は寄せないでほしいのだ。


「……マリスさんがまた美味しい物を私に貢いでくれるならレシピ教えてあげても良いけど…」

「本当か!?作る作る!!」


 ぱぁぁぁ!と表情を輝かせたマリスさんにいくつか条件を出して出店で売ることを承諾した…のだけど、後にこの唐揚げが領地の名物になるなんて私はこれっぽっちも思いもしないのだった。





私の中のマリスさんは緩い天パの髪を無造作に後頭部でまとめてる感じです。イケメンでモテるけど、何故かすぐに捨てられる残念なお兄さんです笑


誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)

ブクマ&評価ありがとうございます(///ω///)♪

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