43・懐かしの調味料
怒られた。めっちゃ怒られた。解せぬ。
誰にって、伯爵様にだ。
「アホか!!」
怒鳴られる気配を察知して先に耳を閉じていたのにそれでも伯爵様の怒鳴り声は大きかった。
「魔物に跨がって戻ってくるとか何を考えてるんだ!?」
「だって…荷物が多かったんだもん」
ブーっと頬を膨らませて伯爵様を非難の目で見上げる。
伯爵様が言ったんじゃん。空間収納魔法の容量は私と伯爵様だけの秘密だって。だから収納が出来なくて大荷物になったから代わりに魔物に運んでもらったんじゃんか。
植物の蔓でぐるぐる巻きにした先の二頭を後からやって来た一頭に括り着けて引っ張ってもらっただけなのに。
「まぁまぁ、ジョシュアもそんなに怒ること無いだろう?」
「お前…他人事だと思って…」
朗らかに宥めてくる公爵様に伯爵様はこめかみに手を指を当て深く息を吐いた。まるで私が頭痛の種みたいじゃないか。失敬な。
「けど、ラピス。魔物はとても危険なものだからね?そんな危険なものを屋敷の近くまで連れて来るのはやっぱり駄目だよ。次からはしないように」
「はい…」
あう…公爵様にやんわりだけど叱られた…。
「もう!お父様もおじさまも、余りラピスを叱らないで下さい」
「エルナたん…」
しょんぼりと肩を落とした私を庇うようにエルナたんが間に入る。公爵様は苦笑し「大丈夫。もう叱らないよ」とエルナたんの頭を撫でた。そしてスッと膝を折り、視線が合うと公爵様は少し困った様に笑いながら私の頭も撫でる。
「ラピスも。私は怒っているんじゃなくて、君が心配なんだよ。君がとても強いことは知っているけど、それでも君はまだ子供だ。頼るべき所は存分に大人に頼りなさい。 それに、ラピスに何かあればエルディアナが悲しむからね」
最後に小さな声で「ジョシュアはね、あぁ見えて頼られるのが大好きなんだよ」と教えてくれた。
ん?伯爵様私に頼られたいの?
ちょっと意味がわからなくてコテンと首をかしげる。それを見た公爵様がクスクスと笑った。
「……はぁ、もういい。説教はまた後だ。 それよりも…」
私達を見下ろしていた伯爵様が視線を寄越した先には既に解体され部位毎に切り分けられたお肉の山が出来ている。兵士の皆さんのテンションは爆上がりで浮き足立っていた。
「経緯はどうあれ、彼奴等も喜んでるからな。そこは感謝してる。だが次はせめて俺に一声かけてくれ…頼む」
頭痛が持病になりそうだから、とちょっぴり憔悴気味にお願いされたので素直に頷いておいた。反省はしてないけど何かごめんね。
─場所は厨房。
夕食にはまだ時間があるのでマリスさんの所へつまみ食いに来ました。
「何してんだ?」
入り口からこっそり覗いていたけれどすぐ見つかった。ちっ。
「お腹すいたぁー」
なので堂々とハラヘリ宣言する。
厨房の中ではもう夕食の準備が始まっていて、皆色々と下ごしらえをしている様だ。
マリスさんは今日の献立の品書きを眺めながら部下の人に指示を出していたのだけど、私に気が付いて声を掛けてくれた。
「今日の夕食はなぁに?」
「んん?旦那様の願いで香草焼きだな。今回は南の小国で使われてるスパイスを使うつもりだ」
南の小国?そんなのあるのか。それよりもスパイスってどんなだろう?
「どんなスパイスなの?」
「嗅いでみるか?ちょっと待ってろ」
マリスさんは調味料の並ぶ棚からジャム瓶くらいの大きさの容器を持ってきて私の前で蓋をあけてくれた。
「!」
「どうだ?ちょっと変わった香りだろ?こいつと他の香草を混ぜると鼻に抜ける香りがいい感じになるんだよ」
得意気にニヤッと笑うマリスさんの話を私は耳半分で聞いていた。だってこれ、クミンじゃん!クミンがあるってことは…。
「カレー食べたい…」
思わず懐かしの食べ物の名前が口を吐いた。
転生してかれこれ6年とちょい…こんなに長い間あの国民食を口にしない日が来るなんて思いもしなかった。もう食べることが出来ないと諦めていたのにこんな場所でスパイスに出会うとは…!
「かれー…ってなんだ?嬢ちゃんトコの郷土料理か何かか?」
「マリスさん!!スパイスって他にもあるの!?」
「お?おぉ。まだあるぞ。仕入れたは良いけど使い道の解らないのもあるから結構な数だけど…」
「見せて!」
ふおぉぉ!カレー!
私カレー大好きなんだけど辛いのが苦手で家族が皆中辛派でいつもひとりレトルトだったんだよね。それじゃ寂しいからって煮込みの段階で小鍋に別けてもらって手作りの辛くないカレー粉を使って作ってたんだぁ。
なのでカレー粉のレシピはなんと無く覚えてるぜ!…分量はあやふやだけど。
厨房だと邪魔になるので隣の休憩室の机の上にマリスさんはスパイスの入った瓶をズラッと並べてくれた。
見た限り色だけならターメリックじゃね?ってのもある。これは期待できそうだ。
「…あれ?そっちのは?」
机の反対側には別の物なのか瓶や小さいバケツのような物がいくつか置かれた。
「こっちのは東の島国の物なんだけどよ、これがまた独特っつーか…」
困った様子で目を細めるマリスさんは「まぁ取り敢えず嗅いでみりゃわかるよ」と瓶の蓋を開ける。瓶の口を私に向けて来たので近付いてフンフンと嗅いで驚いた。
「お醤油だ!」
「嬢ちゃんこの調味液知ってるのか?」
瓶を引っ込めてマリスさんも瓶の口に鼻を近付けるけどその表情は微妙だ。
瓶の中身が醤油ってことはまさかそっちのバケツっぽいものの中身はまさか…!?
「まぁこっちのは液体だから調味液ってのは解るんだけどよ…」
そう言ってバケツみたいな容器の蓋をパカッと開けたマリスさんの眉間にはくっきりと縦皺が。
背伸びして覗き込んだ私の目に映ったのはやっぱりお味噌だった。
「はわわわわ…!」
感動に打ち震えているとマリスさんはそのバケツを私の前まで差し出した。懐かしい香りがして思わずにんまりと口角が上がる。
「そいつの使い方が解るのか?」
「うん!知ってるよ」
味噌と醤油があれば大抵の懐かしの味が再現できる。懐かしの日本食を思い出して思わず涎が垂れそう。
けどマリスさんは醤油にも味噌にも何か微妙な表情だったし、きっと東の島国の調味料はこの国じゃ珍しいものなのかな?
お醤油美味しいのに…。外国の人が日本の唐揚げ食べてドハマリするみたいに、一回食べれば絶対に醤油の美味しさに気が付くと思うんだけど。
「…!そだ!唐揚げ!!」
ちょうど今あの美味しい兎肉があるじゃないか!唐揚げには最適なお肉ちゃん出番ですよ!
エルナたんに私の故郷の味を食べさせてあげたい。ついでにお世話になってる伯爵様にも。
きっと美味しいって思ってもらえるはずだ。
「から…あげ…?ってのは何だ?」
聞いたことの無い名称にマリスさんが首を捻る。是非ともマリスさんにも食べてもらって味を覚えてレシピを習得してほしい。そんで改良してもっと美味しい唐揚げを完成させてほしい。
自分で作るのも美味しいけど、人に作ってもらった方が絶対に美味しい気がするだよね~。マリスさんはプロの料理人だし、きっと美味しい唐揚げを完成させてくれるだろう。
全ては私の欲望のため、マリスさん頑張って!
誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます(///ω///)♪




