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41・兎祭り2

今まで名前のなかった一兵卒の彼等に名前がつきました!笑

その中のひとり、ショーン君(23歳、彼女なし)目線です(๑>؂<๑)

 


 俺の名前はショーン。ハーマン伯爵様お抱えの軍隊の一兵卒だ。

 事の始まりは確かこうだった…。


『明日ネームレスが兎狩りするってよ!』

『なに!?ってことは兎狩りに参加できれば肉が手に入るって事か!?』

『それは解らんが、少なくとも相当数の兎を仕留めるようだぞ!』

『おぉぉーい!皆!』

『どうした?』

『今さぁ、お嬢ちゃんにそれとなーく聞いてみたら、参加しても良いってよ!沢山狩れたら皆で焼き肉パーティーしようってさ!』

『マジか!?』

『よし!俺は参加するぞ!肉も欲しいが何よりネームレスの戦闘をこの眼で見たいからな!』

『おぉ!いつになく熱いな!ショーン!』


 とまぁそんな感じで、当日非番で参加希望者を確認すればかなりの人数になった。

 当然参加できない者達からは羨望の眼差しでブーブー文句を言われた。

 だが狩るのは可愛いただの兎ではなく【血塗れ兎】だ。狩りに成功して得るものも大きいが、精神的にはかなり負担になると言う事を不参加者は忘れているのかもしれない。

 しかし俺達も日々ネームレスの強襲と言う訓練に何も得ずにボコボコにされてきたわけではない。

 この2ヶ月の扱きに俺達も僅かながら強くなったはずだ。

 それを証明するためにも今回の兎狩りに是非とも参加したい。

 決して旨い肉にありつきたいと言う邪な願望からの参加ではない。ないったらないのだ。うん、ない!



 そして俺達は山の中で血塗れ兎の群生地に足を踏み入れた。

 ここは兎の好む野草が多いので巣を作る個体が多い。仲間意識は殆どないが、血塗れ兎はある程度成体になるとこうしてコロニーを作る習性があるのだ。

 普段は互いに無干渉で、攻撃し合うことはない。共食いもするが自分より強い相手ではなく弱い幼体をターゲットにするので、成体同士では殆ど争うことはないそうだ。

 だが共闘する場合もある。それは『共通の敵』が現れたときだ。


 そんな中に現れた共通の敵『人間』。

 そこに居た血塗れ兎達の眼がギラリと俺達人間をロックオンしたのが嫌でも解った。首の後がビリビリと痺れるような殺気。


 あ~…俺、死んだかも。


 そこに居たほぼ全員がそう思ったに違いない。

 肉のために命を落とすのか…と半ば呆れながら己の死を悟った瞬間、足元から光が立ち上った。


「!?」


 それは俺だけではなく、その場に居た仲間全員に起こった現象だった。そして思い出す。作戦前に兎隊長が俺達にかけた魔法を。

 兎隊長は何て言ってた…?

 ─そうだ!確か……


『危なくなると足が速くなる魔法だよ!』


『あ、命が危なくなるともっと速くなるから頑張ってね!』


 にこにこと可愛らしい笑顔でそう言ったはずだ。


「なるほど…!これが【足が速くなる魔法】か!」

「うおぉ…!なんか知らんが今なら空まで駆け上れそうな気がするぜ!」


 そいつは気のせいだ、と頭の片隅で突っ込んでみたが、その気持ちは解らなくもない。

 何故なら俺もちょっとそう思ったからな!ハハッ!


 …だがしかしそんな悠長に構えている間は無さそうだ。


「ギギギ…!」


 一匹の兎の鳴き声を皮切りに数匹の兎が頭身を低くし出した。そして地面を蹴り物凄いスピードで俺達目掛けて突進を開始した。

 一体何処にこんなに隠れていたんだと思うような数の兎が怒濤の勢いで俺達を追い掛けてくる。

 しかし魔法をかけられた俺達の脚は羽のように軽く、山道にも関わらずまるで野性が目覚めたかのように素早く移動できた。もしかして俺は前世猿だったのかもしれない…と思う程だ。


「へへっ…!これなら兎共に追い付かれることはないぜ!余裕だ!」


 俺も少なからずそう感じた。

 だが世の中そんなに上手くはいかないらしい。

 お調子者の後輩クルトが兎に尻を向けて挑発した途端、シュン…とそいつの足元の光が消えた気がした。それは本人にも解ったようで、不思議そうに脚をあげて首をかしげている。


「─!おい!後!兎が来てるぞ!!」

「へ?─どわぁ!?」


 ドゴン!とそいつの直ぐ脇に兎の蹴りが炸裂した。土煙が晴れると後輩は尻餅をついていて、そして陥没した地面の中心には眼をギラつかせた血塗れ兎が…。


「ヒッ…!」


 クルトが声にならない悲鳴をあげそうになった瞬間、足元からあの光が立ち上る。クルトがその光に気が付くのと兎がニ撃目を構えたのは同時だった。


「クルトーーーッ!!」


 その場を目にした者、全員がクルトは死ぬと確信した。

 手を伸ばしたところでクルトに届く筈もなく、お調子者の彼奴らしい最後だったな…等と柄にもなく目頭が熱くなった刹那─。


 一陣の風が俺達の間を駆け抜ける。


 一体何が起きたんだ!?と振り返ると、遥か前方にはクルトの後ろ姿が…。


「俺はまだ死にたくないっスーーーッ!!!」


 遠くから響くその声は紛れもなくクルトのもので。

 奴はそんなに叫びを置き去りに俺達を置いて脱兎のごとく山を走り抜けていった。

 そのスピードは先程の比ではなく瞬く間にクルトの姿が遠くなる。


「……………」


 置いていかれた俺達も、状況が理解できない血塗れ兎も唖然とクルトの後ろ姿を見送った。


 なんだ?どうして急に魔法が消えたり復活したりしたんだ?

 クルトの奴が調子に乗ったからか?そうだ、彼奴が血塗れ兎を挑発した瞬間……なるほど、そう言う事か!


「ギギギ…ギギッ!!」


 俺がひとり納得していると背後で血塗れ兎が激しく鳴き出す。クルトに馬鹿にされて腹が立ったのか、辺りに殺気が満ち溢れた。


「くっ…!全員走れぇ!!あと、クルトみたいに調子に乗るな!この魔法は心に連動している!恐怖心がなくなれば魔法が消えるぞ!!」


 兎が飛び出す瞬間、俺達もクルトの逃げた方向へ走り出す。俺は走りながら大声で叫んだ。

 そうだ。忘れてはいけない。俺達は束になってやっと血塗れ兎一匹仕留められる戦力なんだ。そんな俺達が個人で血塗れ兎に勝てるわけがない。いくら魔法で足が速くなろうとその事実は揺るがない。この魔法はそんな俺達の増長を見越してのものだったのだ。

 彼女は言っていた。『危なくなると』と。つまり身の危険を感じなくなれば魔法の効果が切れる訳だ。

 相変わらずのスパルタだと辟易する部分はあるものの、嫌な気分ではない。

 これは教訓だ。『慢心するな』と、彼女から俺達への。


「皆!全員で兎をゲットしようぜ!!」

「おう!!」

「そうだ!皆で焼き肉パーティーだぁ!!」

「うおおぉぉ!!俺は!俺は兎を狩ってデイジーちゃんに告白するんだぁぁ!!」

「「「「あ゛ぁ゛ん!!??」」」」


 全員で鼓舞し合う中でひとりが飛んでもないことを口にした。


 俺達はしがない一兵卒。

 女性との出会いは中々巡っては来ない。

 そんな中で女性に告白…だとぉ?!羨ま…否、許さん!!


 血塗れ兎への恐怖に彼奴への羨望、その他諸々の感情がごちゃ混ぜになった俺達のテンションは最早訳が解らない状態まで高まっていた。


「おい!テメェ等!彼奴を処すべきだと思うが意義のある者は居るかぁッ!?」

「「「「意義なし!!!」」」」

「テメェ等!殺るぞおぉ!!」

「「「「応!!!」」」」


 俺の心からの叫びにひとりを除く全員の心がひとつになった瞬間だった。


 彼女持ち、処すべし!!!





誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)

ブクマ&評価ありがとうございます(///ω///)♪

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