33・空間収納魔法
「で?」
「……」
開口一番が笑顔の「で?」だった。
笑顔で手招きされ伯爵様が座る前まで行くと、預けていた背中を起こし膝に肘を置く体勢で顔を近付ける。
笑顔が怖い。
「!」
ガシッとほっぺを両手で挟まれてむにぃ~と引っ張られた。
痛くはないけどすんごい伸びてる…。
「たまたま外を見てるとだなぁ…ラピスの走っていく後ろ姿が本当にたまたま見えてな。俺は思った。「あ、アイツ何かヤるな」って。そしたら地響きはするわ、竜巻みたいな暴風は吹き荒れるわ。兵舎は魔物の襲撃かと騒ぎ出すし。暫くするとその現象がピタリと止んだ。さて質問を戻そう。な、に、を、し、て、た?」
「あぅ、おぅ、むぅ」
めっちゃ笑顔でほっぺを伸ばしたりもちもちしたりされるので言葉がでない。
「素直に言わないとどこまで頬が伸びるか実験するぞ?」
「ごえんらひゃい」
これは逃げられん。
素直に謝って白状した方が何か安全な気がする。
伯爵家の蔵書室にはまだまだ用があるし、出禁になると困るし。
それに伯爵様は大人だ。幼い私のした事なんて広い心で許してくれるはずだ。…そう信じたい。
斯々然々あれそれこれそれ、と私は素直に白状したのだった。だって背に腹はかえられん。
全てを聞き終わった伯爵様はとても大きな溜め息を吐いた。そして顔を上げるとおもむろに私の頭を掴む。大きな手のひらは私の頭をがっちりと掴んだ。
…アイアンクローですね。でもごめんなさい伯爵様…私石頭だから全然痛くないや。
「お、ま、え、は!何やってんだ!!」
「ごめんなさい。ちょっとした興味本位でした!」
「潔く言えば良いってもんじゃないだろ!」
大変…それはもう大変怒られた。大人になってから…いやいや転生してこの方こんなに怒られたのは始めてだ。多分一時間くらいはお説教された。その度に私はごめんなさい、ともうしません、を繰り返す。
「そもそも空間収納魔法とあの惨劇と何がどう繋がってるんだ」
「だって空間収納って言うくらいだから別次元の中に収めるのかと思って…」
「……ちょっと待て。ベツジゲンってなんだ? 空間収納魔法は自分の魔力を介して【異界】に自分専用の箱を設置するものだぞ?」
ちょ、なにそのレンタル倉庫みたいなの!
と言うか【異界】ってなに?初めて聞くんだけど。
「はい!【異界】って何ですか!」
シュビ!っと手をあげて質問する。解らないことは聞いとかないと。一応私は前世の知識はあるけど、今世でのこのファンタジーな世界の知識は本当に子供並だ。なので一瞬の恥は掻き捨てだ。
「【異界】ってのは人間からは見ることも行くことも出来ない神の世界だと言われてる。…つってもそう言われてるだけで真実かどうかは誰も解らんけどな」
「ほへ~」
なるほど。【神の世界】ね。要は次元の違う世界ってことだよね?やっぱ二次元とか四次元とかと同じってこと?それとも平行世界の別世界ってことなのかな?う~ん。
けど考えてみたら変な話だよね。自分の魔力を介して異界に自分専用の箱を設置するって。二つの部屋に別々の人が住んでて「これ預かっといてね」って無断で隣の部屋に箱置くみたいな感じでしょ?迷惑極まりないとか思ってしまうんだけど。
それともその【異界】の人はやさしいのか?意味が解らん。
けどまぁそこまで聞いて何となく解った。
やっぱここは異世界なんだな、科学とかあんま関係ないみたいだなって。だって何もないところから水を出したり出来るし、勿論火も出せる。けど科学の力で空気中から水分のみを集めるって魔法みたいに一瞬で集められるわけ無いし、火を自然発火させるなんて手ぶらじゃ不可能だもん。
「じゃぁ伯爵様も空間収納魔法使えるの?」
「…まぁ一応」
ん?なんだ?ついっと視線を逸らされたような。
すると入り口の扉から別の人の声が聞こえてきた。
「空間収納魔法は魔法学園の最終学年で習うのよ」
「…!シャーロット」
入り口にはシャーロット様が立っていた。伯爵様が慌てて立ち上がり駆け寄る。そして手を取るとゆっくりとエスコートしソファーに案内した。
「シャーロット、寒くないか?大丈夫か?」
「大丈夫です。心配しすぎですよ」
身重のシャーロット様を過剰なほど心配する伯爵様は何だか大型の犬みたいで面白い。そんな伯爵様の顔をアイアンクローでぐっと押し退けてシャーロット様はソファーに腰掛けた。
妻ラブなのは解ったからちょっと大人しくしてて欲しい。
「こんにちは、シャーロット様。 えと、それじゃぁ魔法学園じゃないと空間収納魔法は覚えられない…って事ですか?」
「いいえ。そうではないのだけど、魔力量が落ち着いてから…と言うのが学園の方針なの」
神の世界に空間を借りるのである程度の魔力量は必要になるとシャーロット様が教えてくれた。
「けど魔力量が多いからといって誰しもが空間収納魔法を習得できる訳ではないのよね。現に私は使えないわ。適性がなかったみたい。旦那様は使えますものね」
「う…まぁ…な」
水を向けられた伯爵様が歯切れ悪く口にする。さっき聞いたときも視線を逸らしてたし、なんかいやらしいものでも隠してんのかな。
「潜在魔力の量で容量は変わるんですか?」
「魔力の量は関係ないみたいなのよね。旦那様は確か…これくらいだったかしら?」
シャーロット様はお腹の前で長方形の箱のような形を手のひらでなぞる。結構小さい。ティッシュの箱2個分位だった。
「ちっさ」
思わず口に出してしまった。だって想像の遥か下と言うか斜め下と言うか…。
ファンタジーなアレとかならこう…家まるごと入りそうなそんなイメージしてたものだから、ちょっとがっかりした。つまり私もあんなものなのかな…と。夢の空間収納魔法のショボさに肩が落ちる。
「いやいや!俺のはまだ大きい方だぞ!国王なんてこんなだぞ!こんな!」
私の呟きにプライドが傷付いたのか、伯爵様が人差し指と親指で輪っかを作って目の前で主張し出した。何気に国王ディスられてる。可哀想に…会ったことないけど。
「それで、なんで空間収納魔法なんてものを覚えたいんだ?一応魔導書は蔵書室にあるが…」
「え!あるの!?」
魔導書があったとは!
隅から順番に見てたから何れは見つけてたって事なんだろうけど、魔導書があるなら是非とも先に見せてもらいたい。
目を煌めかせる私とは逆に「反省してるのか…?」と伯爵様は呆れ気味に額に手を添えた。
伯爵様は立ち上がり蔵書室に入っていく。指でなぞりながら目的の魔導書を探している様だ。
「ふへへ…」
この際適性があるかどうかは後回しだ。あれば嬉しいけど、なければまた別の方法を考えれば良いしね!
蔵書室から一冊の魔導書を手にした伯爵様が戻ってきて、私に本を差し出した。
それを両手で受け取りうっとりと見詰める。
「…ちなみに、空間収納魔法を覚えたとして何を入れるつもりだ?」
空間収納魔法はある意味完全なインナースペースだ。見られたくないものや大事なものを入れておくには持って来いだろう。王様なら玉璽とか。
けれど私が入れたいものはそんなものではない。
私は笑顔で嘘偽りなく答えた。
「お肉!!」
最近更新速度が遅くて申し訳ないです(´;ω;`)
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