32・ここは異世界だったっけ
元々頭が良い方じゃないのに、聞きかじりの事を知ったかぶって安易に試すもんじゃないな、とこのとき初めて思った。
─ピシッ
空間に走った亀裂が小さな音と共にパラリと破片を落とそうとした瞬間。
風が吹いた。亀裂に向かって。
その風がどんどん強くなってゆき、踏ん張りが効かなくなる。
ヤバイヤバイヤバイ!!
ゴオオォォォ!と地響きのような轟音が凄まじい暴風の中で響き渡る。
「ヒィィエェェーー!!」
余りの暴風に手近な木にしがみ付いて吹っ飛ばされるのを堪える。
ヤバイ…!埋まってる木の根がメキメキいってる。しかも亀裂の方へ思いっきり傾いてるぅ!!
どうしよう!?こいつはヤバイ!!
てかあんなちっちゃい亀裂になんでこんな力が働くの!?
どう考えてもおかしいでしょ!!
風に煽られる鯉のぼりのごとく下半身がぶらぶらと暴風に靡く。
「アカン…!これは絶対に怒られる案件だ…!!」
誰にって、この領地の領主様、ハーマン伯爵しか居ない。
あの人怒るとめっちゃ怖いって兵士のおじさん達が言ってたし、何よりこんな不祥事起こしてしまった後じゃ最悪出禁にされてしまう。
それはアカン!私の魔導書(伯爵家所有)がぁ!
そんなことよりも下手すればエルナたんの専属護衛の話も立ち消え…何て事にもなりかねない。
穴ぁ~…穴ぁ~…ええと…埋めれば良いのか?いやいや吸い込んでるし…。
轟々と吹き荒れる暴風の中、明らかにキャパオーバーな大木がスルン、とストローで吸い込むみたいに穴に消えていく。
あにあれ、自然の法則無視してない?
埋めることは不可能。ならどうすれば─。
「─そうだ!蓋すりゃ良いじゃん!」
よし、なるべく部厚くて強固な結界…いや、盾がいいかな?
そうと決めれば今出来る最強の強度の魔法を頭の中で練り上げて行く。
あんなに小さい穴だもん。大きさは直径1メートルくらいできっと大丈夫なはず。多分魔法は物質じゃないから木や石みたいに穴に吸い込まれることは無いはずだ。と思いたい。
「呪文とかはすっ飛ばす!取り敢えず『最強の盾、あの穴塞いでぇ!』」
このままじゃ私が吸い込まれるぅぅぅ!!
もう形振り構っていられない。だって怖いもん。あの穴に吸い込まれたら私どうなっちゃうの。最悪の未来しか予測できないよ。
私の前に透明で真ん丸の盾が出来上がり穴に向かって飛んで行く。もう祈るしかない。頼む、盾よ吸い込まれないでくれ、と。
「お…?おぉ…?」
盾が近付いて行くにつれ暴風が治まってきた。暴風にぶらぶらと靡いていた下半身が地面に着く。辺りの轟音も治まってきた。
まだ怖いので木にしがみついたまま穴の方へ視線を向けてみると、盾の魔法が見事に穴にくっついていた。まるで蚊に刺されたときに貼るあのパッチの様に。
「よ…良かった…。魔法は吸い込まれなかったのか…」
恐る恐る盾に近付いて穴を見る。穴の中は真っ暗で何も見えない。ほんの指先程度の大きさのこの穴に、何処にこんな力があったのか不思議で仕方ないくらいだ。
いやいや…そう言えば此処って異世界なんだっけ。説明がつかないことがあったっておかしくないか~。
─などと感心している場合ではない。
辺りを見渡せば薙ぎ倒され引っこ抜かれた木々達。中心点を描いたようにそれらは穴へ向かって倒れている。今空からこの地を見たならば恐らく10円ハゲになっているんじゃなかろうか。
さあ、頭を整理しようか。
ここは伯爵様の領地、OK?
「oh…」
ヤヴァイよ。
人様の…それも伯爵様の領地を実験地に使ったあげく、失敗してご覧の有り様。
加えて謎の空中に浮かんでる魔法の盾&穴。
思わず頭を抱えてしまった。
「と、兎に角この穴をどうにか…!」
とは言えどうすりゃこの穴は消えるんだ。頼むから消えてくれー!と念じてみる。無駄なことは解ってるけど最早私には神頼み位しか思い浮かばない。
「つーかこの世界の神ってクソじゃん!」
手を合わせようとして思い出した。
そうだ。考えてもみろ。神だか何だか知らないけど私の大事な推し天使エルナたんを苦しめてるのは他ならぬこの世界の神なんじゃないのか?いや知らんけどさ。
けどクソな未来を何度も何度もさせてるのっていったい誰なんだよ?と考えたところで思い浮かぶのはもう神しか思い浮かばないんだよ。だってエルナたんがループしても誰も前回の記憶は持っていなかったんだし、だったらもう神が犯人じゃないのこれ?
「くっそ!禿げる呪いでもかけてやりたい!呪われたくなかったら穴閉じろよクソ神!」
憎々しげに頭をかきむしる。
とにかくこの穴が消えてくれたら証拠は隠滅できる。あとはもう自然災害だと言い張れば大丈夫なんだよ!だから消えろ!!消せー!!頼むから消えてくれ!お願い消えてくださぁーーい!!
もう神でもトイレットペーパーでも何でも良いわ。頼むから消してほしい。でなければ私が伯爵家出禁になっちゃう!
そんな事を考えていると伯爵様のお屋敷と隣接した軍の演習場の方から馬を走らせる地響きが聞こえてきた。
「うおぉぉ!本格的にヤバイ!言い逃れ出来なくなるぅぅ!」
涙目でお屋敷の方角を見て穴を振り返る。
「…ん?………あれ?あれれ?」
私がパニックになっている間になんと、穴が小さくなっていってた。
少しずつだけど、何か向こうから此方を塞いでる…みたいな、茶巾で絞るようにきゅっと中心が萎んでゆく。
そして完全に穴が閉じると歪んでいた空間がゴムを弾いたように元に戻った。
「消え…た…?」
魔法の盾をそうっと動かす。
うん、吸い込まれない。
吸引力が完全に消えているのを確認して魔法の盾を消す。穴のあった場所を指先でツンツンしてみたけれど何もなかった。本当に消えてるのか?と両手でシャシャシャッと空を引っ掻いてみたけれど本当に消えたようだった。
「…よし!証拠はない。この場から私が消えれば完璧だ!」
私はとんずらした。
勿論、何食わぬ顔で図書室に戻るために。
見つからないように遠回りしてお屋敷に戻る。
我ながら何て奴だとは思うけど、証拠がないし大丈夫だろう。森をぶっ壊したのは流石に悪い事したな~と思うけど、私の未来のために許してほしい。
「フッ…罪な女だぜ」
なんて、ドヤ顔で呟き図書室の扉を開いた。
──ごめんなさい。人生イージーモードだなんてちょっと舐めてました。
扉を開いた先にはソファーで寛ぐ伯爵様が物凄い笑顔で私に手招きしたのだった。
チーン…。
ふおぉぉ!!大寒波!Σ(´д`ι)
誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます!(*´ω`*)
次はお仕置きタイムです笑




