29・うさぎ美味し!
翌日。
朝からギヴソンさんとテオはマーガレットさんとレニ引っ張られ宿を出た。
朝挨拶をしたレニは昨日のように化粧はしておらず、すっぴんだった。お洋服も昨日着てた襟ぐりが広目の大人っぽい物ではなくて、清楚なパステルグリーンの可愛いワンピース姿。
思わず「レニ可愛い!」と駆け寄ると彼女は照れた様子で「ありがとう」と素直にお礼を口にした。
昨日からのレニの変貌ぶりにギヴソンさんもマーガレットさんも首を傾げていたけど、テオだけはなんか訳知り顔でニコニコしてたのがムカついた。
「ふんふんふ~ん!」
鼻唄混じりに山を駆け抜ける。
途中なんか知らんけどデカイ兎に襲われたのでサクッと倒して血抜きをして木に括りつけていつもの修行場所に向かった。
兎のお肉って鶏ムネ肉とササミの中間みたいで美味しいんだよね~。伯爵様へのお土産に持っていってついでに私も食べさせてもらおっと。
その前に、と。
いつもの修行場所に着いた私は岩の上に置いてあるモノに近付き、出来映えをチェックする。
「うん、良い感じにできてる!」
つるんとした質感に太陽が反射した。
そう、ラピス製の長靴だ。
薄いピンクの長靴は履き口に指一本程のベリーピンクのラインが入っている。底の部分も同じベリーピンク。後は履き口に同色のリボンを飾れば完成だ。
出来映えに納得していると視界の端にもにょもにょと蠢く物体が這い出てきた。
スライムさんだ。思わず感慨深く眺めてしまう。
実はこの長靴はスライムさんで出来ているのだ。
この世界の魔物は前世での動物と同じで、死ねば腐って骨になる。勿論スライムでも。
ただスライムは殆どが水分で、死ねばその体は蒸発してしまう。骨なんて無いので綺麗さっぱり消えてしまうのだ。
ある時私はたまたま持っていた瓶にその死体を入れて経過観察することにした。ただの興味本位で、だ。
そしたら四日後位に変化が訪れたのだ。瓶いっぱいに入っていた液体が徐々に減り始め、一週間後には五分の一程にまで減った。
そこから数日観察してみたがそれ以上は量に変化は見られなかった。瓶を空け、中を覗くと腐敗臭等はなく見た感じ透明のただの粘土だったので、瓶から出して平らな岩の上に薄く広げてどうなるのかを再び観察。すると三日くらいでスライム粘土は固まった。
広げた時のままの大きさで、持ち上げるとそれはゴム版の様にてろん、と垂れた。持っていたハサミで細く切り、輪にするとまるで輪ゴムの様に伸縮したので当時は感動したものだ。だってこの世界ゴムが無いんだもん。
髪を結ぶ物はただの糸だからずれ落ち易いし、誰かの手を借りないと子供の私には結い直す事も儘ならない。
だから感動したのだよ。このスライム輪ゴムなら前世の髪ゴムと同じ様にひとりでも髪を結えるじゃないか!ってね。
結果、毎朝髪を結ってくれる兄にはとても好評価貰えた。ので「これからは自分でやる」と言うとあからさまに気落ちしたので仕方なく今でも髪を結うのは兄の仕事になっている。
そしてその後スライムを乱獲しまくり、スライム粘土を沢山作ったので新しい試みとして長靴を作ったのだった。
色をつけてコネコネして木で作った型に貼り付けて形を整えて乾かす。それだけで長靴の完成だ。
これで雨の中でも足元ビションコになんないぜー!と出来上がった時にはかなり嬉しかったのを覚えている。
当時を思いだしながら、私は持ってきた布に出来立ての長靴を包みリュックに詰める。今日は大きめのリュックを持ってきたので余裕だ。
背中にリュックを背負い、棒に吊るされたデカイ兎を肩に担ぐ。
「あ~…でもこんな時思うなぁ~…」
そう、今私は切実に欲しい魔法がある。
それは空間収納魔法。
ファンタジーな世界なら絶対にあるだろう魔法だ。
今のところ空間収納魔法の魔導書は目にしていない。伯爵様の蔵書室の魔導書の全てに目を通した訳じゃないのであるのかどうかは解らないので、今日伯爵様に会えたら聞いてみよう。
本日は襲撃はせずに普通に門から入った。
「おはようございます!」
「おう!はよー!今日も元気だな、嬢ちゃんは」
「お?なんだなんだ?今日は襲撃はなしか?」
敷地内をぽてぽてと歩いていると顔馴染みになりつつある兵士の人達が話しかけてきた。
あの初のフルボッコ以来、皆私に気さくに話しかけてくれるようになった。流石に襲撃中は皆本気なのでこんなにフレンドリーな訳じゃないけど、普段は皆こんな感じなのだ。
「げっ!嬢ちゃん…そいつぁ…」
「ん?」
ひとりの兵士さんが私の担いだ兎を指差してぎょっとしている。
それに気が付いた回りにいた人達も私の背後に回り込み「マジか…」とか「うわ…」とか呟いた。
「兎のお肉って美味しいからお土産だよ」
「兎って…嬢ちゃん、こいつぁ魔物の【血塗れ兎】だぞ…」
「へー」
この兎そんな物騒な名前なんだ?
確かに普通の兎とは違ってでっかいけど。
「一体どうやって仕留めたんだ?」
「素早いから後ろに回り込んでこう…ギュッとしてボキッと」
「…………」
よくTVとかで見る腕で首を押さえてもう片手で絞める、みたいなのって実際に使えるんだねー。アレってお話の中だけの技かと思ってたけど、実際めっちゃ有効。もうきゅっと落ちたよ。すごいわー。
「マジか…ひとりで【血塗れ兎】を落としやがった…」
「俺はもう驚かないぜ…嬢ちゃんに対してはもう何も、な…」
「おい、しっかりしろ!こんな事で驚いてどうする!嬢ちゃんなら数年後にはドラゴンだって落とすかもしんねーのに、こんな事で驚いてたら後々気が持たねぇぞ!?」
「そ、そうだな。気をしっかり持たなきゃな…!」
「そうだ!俺たちにだってヤれる!ヤるんだ!」
「そうだ!」
「だなっ!!」
「やるぞーー!!」
「「「「「おぉぉぉーーー!!」」」」」
なんか知らんが物凄い一体感が芽生えたみたいだ。ちょっと暑苦しい。
そんな彼らから抜け出した私はお屋敷の裏手の使用人用の扉へとやって来た。
たまたま洗濯物を持ってきたメイドさんと鉢合わせになり、驚いた顔をしながらも中に入れてくれた。そのまま目的の厨房へと向かう。
「おはようございまーす」
「お?嬢ちゃんじゃねーか。どうした?今日は早いな」
厨房には料理長のマリスさんと、その他数人の補佐の人が朝食の後片付けをしていた。
ちなみにマリスさんは独身、28歳のお嫁さん募集中だ。見た目はチャラいけどお料理の腕は大変素晴らしい。伯爵家で食べるおやつはマリスさんが作っているのだから、私の胃袋はがっちり捕まれていると言っても過言ではない。
「えとね、お土産だよー。…どっこいしょー」
担いでいた兎を床に置いてマリスさんに差し出す。
それを見て彼の口角が引き攣った。
「おいおい…【血塗れ兎】じゃねぇか」
「美味しくない?」
「いや旨いけどよ…」
問題はそこじゃねぇ、とマリスさんがガシガシを後頭部を掻く。
マリスさんはすっ、と兎を指差すと「こいつだよ」と教えてくれた。
「コイツが、軍で【うさぎ】って呼ばれてる嬢ちゃんの渾名の由来になってる【血塗れ兎】だ」
ほう!これが!いや待て。
「私こんなに弱くないよ?」
「ダロウネー」
突然マリスさんが棒読みっぽい口調になった。
小学生の頃はあの歌の「うさぎおいし」をマジで兎美味しいんだ!と思ってました笑
私だけじゃないはず…だと信じたい…
誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)
ブクマ&評価ありがとうございます(о´∀`о)ノ




