28・新しいお友達
寝る準備を整えていたときにやって来たレニは不貞腐れながら昼間の事を謝り、相談があると押し掛けてきた。謝るなら視線くらい合わせんかい、と思ったけどチラッチラッと視線を彷徨わせていたのでなんとなく彼女の属性が解ってしまった。
─ツンデレかよ。
「実はアタシ、テオが好きなの!」
うん、知ってるー。
部屋に招き入れるとベッドに腰掛けたレニはそう言い恥ずかしそうに両手で顔を隠した。
「でもアタシが年下だからまともに話を聞いてくれないのよね…。この間やっと10歳になって漸くお化粧の許可が貰えたんだけど、テオってば全然誉めてくれないの」
クッションを抱えてレニは頬を膨らませた。なるほど、あの昼間の色気はお化粧だったのか。だから今は年相応に見えるんだ。納得。
「同い年にはなれないから少しでも大人に見えるように色々頑張ってるんだけど、肝心のテオには全然響いてないみたいなのよ。…て、聞いてる?」
「聞いてるー」
聞いてるよー。けどリアルな恋バナされても私にはペラペラな知識しかないんだ…。
遠い目をしてても気にしないでほしい。
「でね、昼間アンタが言ってたじゃない。相手を観察しろって」
そんなこと言ったっけ?はて?
「けど考えてもよく解らなくって…。テオの好みの女の子になりたいんだけどね…はぁ…」
「お姉さんお化粧なんてしなくても凄く可愛いと思うけど」
正直すっぴんの方が可愛いと思うんだけだなぁ。お化粧すれば綺麗系になるけど、逆に子供らしくなくて違和感がある。
「それにお化粧は大人になってからの方が良いと思うよ?子供の内からお化粧してるとお肌にも良くないし、大人になった時老けて見えるってお母さんも言ってた」
「え!?なにその情報!そうなの!?」
「う、うん…」
まぁ正しくは前世の母が言ってたんだけど。嘘は言ってないもんねー。
前世のようにクレンジングに特化した洗顔がある訳じゃないからお化粧はしないって人も少なくないんだよね、この世界。
この世界の化粧品は100%植物で作られたものばかりなんだけど、果たしてそれが本当に植物性のものかと言うと素人目にはわからない。中には悪質な物もあって安くて手に入りやすい化粧品は後々お肌が痛むものもあるのだ。
「そうなんだ…お化粧って良いことばかりじゃないのね…」
「お姉さんはマーガレットさん似だから大人になったら自然に綺麗になるだろうから、今は今のまま『可愛い系』で良いと思うよ。お化粧しなくても凄く可愛いしね! それにずーっと背伸びするのって疲れない?」
「確かに…」
「背伸びしたままのお姉さんを好きになってくれても、疲れても背伸びをお休みできないなんてしんどいだけだと思うな。だったら背伸びしてないいつものお姉さんを好きになってもらった方が嬉しいし、自然でいられるんじゃない?」
「………そっか…そうよね」
クッションを抱き締めたままレニは床を見つめてひとりうんうんと納得したように頷く。
「それに!お姉さんはまだ10歳なんだよ?これからも沢山の人に出会うだろうし。世界に男はテオひとりじゃないしね!私だってもしかするとお金持ちのイケメンさんと結婚するかもだし!」
「ふふっ、なにそれ。そんな人居るか解らないわよ?」
レニはクスクスと笑う。笑った顔は昼間のお化粧した大人びた顔じゃなくて年頃の無垢な少女の顔だった。
「えーそんなの解んないよ。毎日美味しいご飯食べさせてくれる人が私の理想だもんね!」
そう、ご飯大事!安定したお給金と安定した生活。そして美味しいご飯が食べられれば正直顔は二の次かな?
…まぁリアル恋愛したことない私が言うなって話だけど。
それに今はそんなことよりもエルナたんの方が万倍大事なことだもん。
「テオがアンタの事を『変な子』って言ってたけど、なんだか解った気がする」
なぬ?失敬だなテオ。
見た目は6歳だけど中身は立派な大人なんだぞ、私は。頭脳はアレなんで某探偵にはなれんけど。
「アタシ、無理して背伸びしてたけどやめるわ。アンタの言う通り、ずっと爪先で立ってるのは疲れるもの。これからは自然体で、そのままのアタシを好きになって貰えるように頑張ろうと思う」
「そうそう、自然体が一番! あ、それと無闇矢鱈に女の子を牽制しない方がいいよ。お友達が出来なくなるから」
「いいのよっ、そんなのは。と、友達なら…その…ア、アンタがなってくれれば良いじゃない!」
ぬあ!典型的なツンデレさんだったのね!やっぱ!
顔を赤くしたまま怒ったようにそっぽを向いてるけど、チラチラとこっちを窺うせいでデレが溢れてるよ!
リアルツンデレ侮れんな…女の私でもちょっとモエモエするわ~。
なるほど、男共はこのギャップにときめくのか…。納得。
お友だち候補に私を推してくれるとは、レニもなかなかどうして…ふへ。
「だかしかし、断る!」
「ええぇ!?何でよ!?」
「だってお姉さん私の事ずっと『アンタ』って呼ぶんだもん」
「あ…ぅ…そ、それは…」
思い返せばずっとアンタ呼ばわりだもんね~。ちょっと意地悪しちゃうもんね!
「お友達ならちゃんと名前で呼んで欲しいなぁ~?ほら、呼んで?ラピスって呼んでぇ~?」
「ぅ…っ…!」
顔を真っ赤にしたまま口ごもるレニは昼間のイメージからは想像もできないくらい可愛い普通の女の子に見える。
やべ、たんのすぃ~!
苛虐的は趣味は無いんどけど、やっぱ女の子は可愛いね!
「ラ、ラピスラピスラピスラピスぅぅ!!どう!?これで良いんでしょ!?」
羞恥に耐えて私の名前を連呼するレニを見て、思わずニヤッとしてしまった。
「やったぁー!で、私は何て呼んだら良い?レニお姉ちゃん?レニさん?」
「ただのレニで良いわ!」
「じゃあレニ!よろしくねぇ!」
「…っ、ええ、よろしくね、ラピス」
差し出した手をレニは握り返す。私より大きな手はひんやりしていたけど、はにかんだ笑顔は春のお花畑のように温かくキラキラしていた。きっとこれが彼女の本当の笑顔なんだろう。
うんうん、やっぱり恋する女の子の顔は可愛いな。
レニは来たときとは打って変わって晴れやかな笑顔で帰っていった。
明日は朝からショッピングだって言ってたし、楽しんでほしい。
明後日にはマルチスを発つのでゆっくりお買い物できるのは明日だけだもんね。
「あ、そうだ」
明後日ここを発つならテオにエルナたんへのお手紙を預けよう。
例のアレも明日にはいい感じに出来上がってるだろうし、一緒に託すのも良いかもしれない。
私は取り出したレターセットを机に広げてペンを走らせる。
「『エルナたんへ…お元気ですか?…ラピスは元気です!毎日…特訓頑張ってます…今日…新しいお友達が出来ました…』」
最近の出来事とか、美味しかったお菓子の話、それと約束していたモノをテオに預けることを書いて封をした。
「よし!完璧」
手紙をしまい、ベッドへ潜り込む。
私も明日は忙しい。
エルナたんの喜ぶ顔を思い浮かべながら私は眠るのだった。
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