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26・売られた喧嘩は買う主義です

 


「やぁだ!!もうっ、そうならそうって言ってくれればいいのにぃ!」


 カラカラと笑いながらマーガレットさんはバシバシとギヴソンさんの背中を叩く。


「だから勘違いだって…」

「え?何か言った?」

「イエ、ナンデモナイデス」


 笑顔で圧を掛けられたギヴソンさんが固まった。美人さんの圧って怖いもんね…。


「マルチスに着くちょっと前に旦那とテオが「会いたい女の子が居るんだ」何て言い出したときは本当に驚いたわよ。男二人をタラシ込むなんて一体どんな女だー!って」


 タラシ込むっ…て。一体どんな説明をしたらそう聞こえたんだろうか。テオも、って事はテオも一緒に来たのかな?


「それがまさかこんなに可愛いお嬢さんだなんて!可愛いわぁ~!」


 マーガレットさんは私の目の高さまでしゃがむとペタペタと頭やらほっぺやらを撫でたり伸ばしたりしている。

 初見の噴火する直前のマグマみたいだった彼女は何処へ…。今は何だか楽しそうにキャっキャしてる。


「お名前は?」

「ラピスです。六歳です!」

「きゃー!可愛い!ちょっとアナタ!この子6歳なんですって!ちっちゃ!」

「あ、うん、知ってるよ」


 ギヴソンさんはアレだね。お尻に敷かれてる感じの旦那さんなんだね。マーガレットさんが怒り出さないかキョドキョドしてる。

 剣を振ってるギヴソンさんはあんなに凛々しくて格好いいのに…残念ですな。


「まだ紹介してないけれど、うちにも娘がいるのよ」


 なんと、ギヴソンさんが妻帯者なのは知ってたけど娘が居るのは知らなかった。て事は一緒に来てるのかな?名前載ってたっけ?


「そう言えばあの子ったら何処に行ったのかしら?」

「レニならテオを追いかけていったよ」


 あの子ったら…とマーガレットさんは何だか呆れたように小さく息を吐いた。


「ギヴソンさん、テオも一緒に来たの?」

「ん?あぁ、そうだよ。荷物も多いし、妻も娘も一緒だからさすがに何かあると一人じゃ対処できないからね。テオと同時に出発したんだ」

「そっか」


 確かに完全に安全が保証された旅路じゃないもんね。男手はあった方が安心だ。

 実はギヴソンさん達はマルチス経由ではなく、エルナたん達が帰るときいつも使っている道で公爵領へ向かう予定だったのだとか。

 けれど結婚以来旅行も遠出も殆どしていないので「それならちょっと遠回りでマルチス経由で観光しながら行こうか!」となったそうだ。

 マルチス小さな街だけど一応観光にも力を入れてるからね!女の人は特に喜ぶような美容や、お手頃な宝石なんかを購入できるお店も沢山ある。

 なるほど。家族サービスだね、ギヴソンさん。


「──から、──だって…」

「─う!──でしょ!」


 二人のお話を聞いていると宿屋の前から男女の声が聞こえてきた。一人は聞き覚えのあるテオの声だ。もう一人は知らない女の子の声。


「だから、そんなつもりはないって言ってるだろう」

「そんなの解らないじゃない!」


 カランカラン!とドアベルが聞こえて振り返ると、扉を開いてテオが若干困った顔で宿屋に入ってくる。そのすぐ後ろに10歳前後の気の強そうな女の子が怒っていると言うよりは拗ねたような顔で続いて入ってきた。お子さまらしからぬ色気がある。オレンジの髪だけじゃなくて、姿形がミニマーガレットさん。間違いなくギヴソンさん夫妻…いや、マーガレットさんの娘だ。遺伝スゲェ。


「いい加減に──、ラピス!」


 痴話喧嘩って言うより一方的に攻められてるようなテオがうんざりしたように顔を上げた瞬間、ニヤニヤとその様子を見ていた私と目が合う。

 なんだ痴話喧嘩終わりなのか。つまらん。


「ラピス…? ─!アンタがラピスぅ!?」


 ドタドタとギブソンさんとマーガレットさんを押し退け私の顔を覗き込む…と言うよりメンチ切ってきた。おん?とか、あん?とかそんな感じだ。

 上から下まで眺めてまた下から上まで眺めて「ハッ!」と私にだけ聞こえるように鼻で嗤った。そして勝ち誇ったように胸を張って私を見下ろしニヤニヤする。


「なによ、テオが会いたいって言うからどんな可愛い子かと思えば只のチンクシャじゃない!」


 あンだ?やんのか?お?お?私は女でも殴れるぞ?


「あ~もう、バカバカしい。焼き餅妬いて損しちゃった!」


 なんだろうか。精神年齢は私の方が上なはずなのにピキピキ来るものがある。

 相手はマセガキだ。落ち着こうぜ、私…!虚無になるのだ!


「アタシとアンタじゃ勝負にもなんないわ!」


 ふん!と芝居がかった仕草でレニはくるりと回った。

 こんなちびっこ相手に何張り合ってきてんだよ、もう…。

 イラッとしてテオに視線を向けると他人事のように傍観していた。

 おい!お前が絡んだ痴話喧嘩の飛び火なんだからお前が何とかしろよ!と顎をしゃくって合図すると、肩を竦めて苦笑しただけだった。役に立たねぇ!


「こら、レニ。やめなさい。この子は─」

「お姉さん、馬は好き?」


 ギブソンさんの注意を遮り私は笑顔でレニとやらに話を振る。


「は?馬?別に嫌いでも好きでもないわ」

「そうですか。なら今夜は仲良く添い寝してあげてくださいね!お馬さん、きっと喜びますよ!」


 にっこーー!と無邪気な体で微笑んで爆弾を投下してやった。要は「今夜は馬小屋で寝やがれ!」って事だ。

 マーガレットさんはキョトンとし、テオとギブソンさんが同時に吹き出す。一拍置いて意味を理解したレニとやらは顔を真っ赤にして怒り出した。


「はぁ!?何でアンタにそんなこと言われなきゃいけないのよ!アタシがどこに泊まろうがアタシの勝手でしょ!?」

「レニ、もうやめなさい。アンタの負けよ」


 烈火のごとく怒る彼女の肩をマーガレットさんが苦笑しながら叩く。それでも怒りは収まらないのか私を睨み付けてきた。ふふ…そんな態度とっていいのかなぁ~?


「ここは私のお家だから、誰を泊めるかも私の自由だよね!」

「何言ってんの?お客様は神様でしょ!」

「ハッ…神様は信徒を選べないけど、信徒は神様を選べるんだよ?そんなことも知らないの?お姉さん私より年上だよね?もっとお勉強した方が良いよ?」


 止めじゃい!


「ブハッ!やっぱりラピスはラピスだ!毒が凄い!」


 テオがお腹を抱えてケラケラと笑いだした。

 マーガレットさんもギブソンさんも笑いを堪えるような顔で娘を嗜めている。私はそんな彼女を見ながら無邪気な幼女を装いながらニヨニヨと笑っておいた。


 ふっ、私に勝とうなんて10年早いわ!

 とくと思い知るがいい!!フハハハ!





遅くなりました~(>_<)


誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)

ブクマ&評価ありがとうございます(๓´˘`๓)♡

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― 新着の感想 ―
[一言] 「ハッ…神様は信徒を選べないけど、信徒は神様を選べるんだよ?」←なんかすごい納得してしまった(笑)
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