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25・聖女、とは

 


 ほわい?何を言ってるんだいキミキミ。

 突然何を言い出すかと思えば…。


「ない。私が【聖女】とか…絶対ないわー」


 思わず本音が溢れた。

 だって聖女ってアレでしょ?もっとこう神々しいっていうか…要は乙女な訳でしょ?私のどこを見てそう思ったんだ、アー君や…。


「そもそも私は博愛主義者じゃないし」

「で、でもでも!」

「デモデモダッテじゃない。だいたいこの本に載ってる聖女は「全ての人々のため、悪に立ち向かいますわ!」みたいな人物像だけど、よぉ~く見て?私がそんな人間に見える?」

「えっ…とぉ…」

「私にとっての悪はエルナたんの敵のみ!!」

「あ、うん、そうだったな」


 ふんす!と鼻息荒く宣言するとアー君は無の表情でうんうんと頷いた。わかればよろしい。


「ちなみに何でアー君はこれ見て私が聖女だと思ったわけ?」

「それは…ラピスは色んな魔法を使えるし、兵士達をボコボコにするくらい強いし、それに母上を助けてくれた。母上だけじゃなくて僕の弟妹まで助けてくれたんだぞ?」

「そりゃ目の前で苦しんでる人が居たら誰だって助けるでしょ」

「けど、母上達を助けようと動いたのはラピスの心が優しいからだ。それは偽りようのない事実だろう?」


 優しいって…明け透けにそんな風に言われると照れるんですけど。



「けどそれだけで聖女って言うなら魔力持ってて治癒魔法使えれば大体の人は聖女じゃん。確かに困ってる人が居たら助けたいと思うけど誰でも助ける訳じゃないし、飽く迄も私の手が届く範囲内での事だもん。この本の聖女みたいに知らない人の為にまで自分の力を使おうとはこれっぽっちも思ってないよ。だから絶対に私は聖女なんてものにはなり得ない」

「そんなことはないよ!そりゃ僕だって聖女には会ったこと無いけど、きっとラピスみたいに損得勘定なくて人を助けられる人こそ聖女なんだって思う。だから─」


 アー君はグッと拳を握りしめて私に向き直る。


「だから、僕にとっての聖女はラピスなんだよ。断言できる」


 真剣に言葉にするものだから思わず瞠目してしまう。

 どんだけ聖女に夢抱いてんだよ、と思ったけどアー君が真面目に言ってるのが解ったので口には出さなかった。


「……そっか。ま、いいや。アー君がそう思いたいならそれで。けど、私は聖女じゃないと思うけどね」


 最後は悪戯っぽく笑っておいた。


「僕だけじゃなくて、父上も母上も、きっとお腹の赤ちゃんもラピスの事を聖女だと思ってるよ」

「逆にめちゃくちゃ照れ臭いんどけど…」


 それにしても、【聖女】か…。

 そんなの小説の中に出てきたっけ…?

 まぁもし本当に聖女が存在するなら、小説の中にそれっぽい奴の心当たりはある。そう、あのクソビッチだ。有り得ん。

 聖女の事もそうだけど、大賢者も小説には出てこなかった。

 歴史も小説の方にはそこまで詳しくは載ってなかったし、これを期にちょっと勉強してみようかな?


「アー君、この本ちょっと貸して貰ってもいい?私歴史は詳しく知らないから読んでみたいんだけど」

「いいよ」

「ホント?ありがとう!」


 アー君は快く本を貸してくれた。

 今はこうして笑顔で何でもお喋り出来る間柄になったのが嘘のようだね。初見のツンは何処へ。


 ─コンコン


 開かれたままの扉を叩く音に私達は振り向いた。

 そこにはニィナさんがワゴンに新しいお茶とお菓子を追加で運んできてくれた姿が。

 素早くアー君の前にセットして、ついでに私にも温かいお茶を煎れ直してくれる。出来るメイドさんスゲェ!


「ニィナお姉ちゃんありがと~」


 笑顔でお礼を言えばニィナさんもにっこりと笑顔を浮かべてくれた。こっそりお菓子も追加してくれるし、優しいなぁ。

 そして私達の会話の邪魔をしないようにスッと退出していった。


 ちなみにどうして図書室の扉が開かれたままなのかと言うと、婚約者でもない男女が同じ部屋に二人っきりなのは外聞が悪いから、と言う理由らしいけど…。

 アー君はともかく私は平民だし、それに何より私等まだ幼児よ?なんの心配してんのさ…。貴族って面倒なんだなぁ。

 とか思ってみたものの、私もエルナたんと同じ王立魔法学園に入学するために貴族のお勉強もしなくちゃなんだよね。

 勉強は好きじゃないけど、頑張ろう。











「ただいまぁ~!」


 帰宅したのは14時を回っての事。

 今日はシャーロット様が「是非お昼を一緒に」と言ってくれたのでお言葉に甘えてお昼ご飯を頂いた。その後少しお喋りしてから帰ってきたのだった。



「おかえりなさい、ラピス」


 裏口から自宅に入ると母が薪を手に台所へ向かう途中だった。

 うちは宿屋なので裏口には馬車や馬を預かる厩舎や倉庫がある。その脇に薪を積み上げてあるのだ。

 今日は旅のお客さんでも居るのか、倉庫も厩舎も埋まっている。


「あぁそうそう、今日のお客様にね、ラピスの事を知ってる方が居たわよ」

「私の事を?」

「えぇと…確かギヴソンさん、だったかしら?」

「え!ギヴソンさん!?」


 母の言葉に私は慌てて家の中に入る。帳簿を確認すると確かにギヴソンさんの名前が。下には奥さんの名前なのか『マーガレット』と書かれていた。

 一週間ほど前からギヴソンさんの姿が見えなかったからもう既にお引っ越ししたのだろうと思っていたのだけど違ったようだ。

 て事は倉庫の荷物は引っ越しのためのものだろうか?


 宿屋の談話室まで行くと椅子に座るギヴソンさんの後ろ姿が見えた。


「ギヴソンさん!お久しぶりです!」


 回り込んで顔を覗かせると、そこには見知らぬ男性が…。あれ?

 正しくは顔面ボコボコの見知らぬ人だ。


「ごめんなさい、人違いでした」

「いやいや!私だよ!ギヴソンです!」


 ボコボコの人は慌てて手を振って自分はギヴソンだと名乗った。


「あ、声がギヴソンさんだ」


 ほっと息を吐いているんだろうけど、顔面が酷いことになってるので解らない。取り敢えず声がギヴソンさんなのでギヴソンさん本人に間違いないだろうと思う。


「その顔、どうしたんですか?」

「いや…それが…」


 取り敢えず可哀想なのでお顔に治癒魔法をかけてあげた。腫れの引いた顔は私が知っているギヴソンさんだ。

 困ったようにへにょっと眉を下げたギヴソンさんは精悍な男前が台無しだった。


 そこへカツカツと靴音を響かせながら二階から誰かが降りてくる。二階へ続く扉が開かれるとそこには赤みの強いオレンジの髪のナイスバディーなお姉さんが眦を吊り上げて腕組みしたままギヴソンさんを睥睨していた。気が強そうな美人さんだ。睨み付けられたギヴソンさんの肩がヒェ!と上がる。


「………で?」


 ギヴソンさんの影に隠れて様子を見ていると、その女性はバキボキと指を鳴らしながらゆっくりとギヴソンさんに歩み寄った。


「アンタの会いたいお嬢さんとやらにはもう会えたのかしら…?」

「ち、違うんだ!マーガレット!話を─ぶべら!」


 ゴスッ!とギヴソンさんの左頬に美人さんの拳がめり込む。ギヴソンさんは3m程吹っ飛んで海老反り体勢で壁と仲良しになった。


 おう…美人のマジギレこわ…!





誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)


ブクマ&評価ありがとうございます(★`>ω<)ノ

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