22・お兄ちゃんとエルナたん2
「ラピス、この靴…?の様な物はなに?」
部屋の片隅にあるとある靴を見てエルナたんは首を傾げた。
「あ、それ長靴だよ」
「長、靴…?」
エルナたんは初めて目にしたのか、長靴を凝視している。
私の持っている長靴はレモンイエローで水色のリボンがちょこんとついた物だ。
「長靴とは何なの?」
「雨の日に履くと雨水も弾くし、泥が跳ねても足が汚れないんだよ。後はお掃除とか…土仕事とか?とにかく足が汚れないの」
「へぇ~それはとても便利ね」
この世界にも雨の日は雨の日用の革靴があるんだけど、如何せん革。長時間雨に濡れっぱなしだとどんなに手入れされた革靴でも水が染み込んでくる。しかも濡れると臭い!乾いても臭い!
それが堪らなく嫌で偶々発見したとある方法で長靴を自作したのだ。ゴム長っぽいけど実はゴムじゃないんだけど…。
「お兄ちゃんにも作ってあげたんだけど、すごく良いって言ってくれたよ」
「そう、お義兄様が…って、ラピスが作ったの?」
「まぁ一応…」
「僕の妹は何でも出来て偉いなぁ」
すかさず兄がナデナデしてくる。もう慣れたけどエルナたんの前で子供扱いは止めてほしい。
「雨の日はすごく助かってるよ。汚れても水で洗い流せるしね」
作ったのは私なのに兄がドヤ顔している。
「それにしても…見た事のない素材で出来ているのね。縫い目もないし、靴底との継ぎ目もないわ。不思議…」
エルナたんは私の長靴を裏返したり中を覗き込んだりして観察していた。
実はこの長靴の素材、魔物だったりするんだけど…それを言ったらエルナたんが怖がらないとも限らない。この世界では魔物を狩った後、皮や骨、角は武器や防具になったりする。
靴や革鞄も魔物の素材で出来たものは丈夫なので案外平民でも使っている人は多いのだけど、貴族の人達が使うものに魔物の素材が含まれているのかはよく解らない。やっぱお金持ちならそれなりの物を使ってるだろうし…魔物とかないと思うんだよね。その辺は小説でも書かれていなかったし。
それとなく聞いてみようかな…?
「実はこの長靴の素材は魔物らしいぞ!」
「まぁ!」
兄ぃぃぃ!!
なにさらっと暴露してくれちゃってんの!?
ほら!エルナたん驚いた顔してんじゃん!
「これは魔物の素材から作られているのね…」
驚いた顔でもう一度長靴を観察するエルナたん。あれ?気持ち悪いとかないの??
「エ、エルナたん…?魔物の素材とか触っても平気なの…?」
「え?ええ。平気よ」
小首を傾げたエルナたんは特に気にした様子もなく長靴に夢中だ。
「…あぁ、もしかしてラピスは貴族は魔物の素材を使わないと思ってるのかしら?」
「うん」
「そうねぇ…変に偏った思想の貴族は「魔物は悪だ!悪の素材を使うなど!」とか言う人も確かに居るけど、殆どの貴族はそんなこと気にしていないと思うわ」
「そうなんだ…」
勝手な先入観で貴族は魔物の素材は使わないんじゃないかって思ってたけど、そんなことなかったんだぁ。先入観は目を曇らせる…とはよく言ったものだ。
「私達が乗ってきた馬車にも魔物の素材を使っているのよ?外壁と内壁の間に魔物の革を挟んであるの。何の魔物かは私は解らないのだけど、弓や剣は貫通しないし、ある程度の魔法なら耐えられるそうよ」
「ほえー!凄いねぇ!」
「そりゃ貴族が使う馬車だからな。柔な作りじゃないだろう」
私達兄妹が感心している最中もエルナたんは長靴を離さない。
もしかしてエルナたん長靴欲しいのかな?
材料は狩りで集められるからいつでも作れるんだけど、余計なお世話とかだったらどうしよう。
「エルナちゃんも魔物の素材平気ならラピスに作ってもらったらどうかな?」
…兄。ぐっじょぶ!
普段空気が読めないところがあるけど今日はとってもお役立ちだよ!後でぎゅーしてあげよう。
「え!?い、いいの!?」
「エルナたんさえ良ければだけど」
「良い!良いわ!」
エルナたんはきゃー!と小さな声を上げてはにかむ。なにこれ、天使か?きゃわええ…!
「じゃぁ今度会うときまでに作っておくね!」
「ありがとうラピス!」
本当に嬉しそうなエルナたんの笑顔に私の鼻の下は狒々の如く長ぁくなっているんじゃなろうか。 想像したら予想以上に気持ち悪かったので顔の筋肉に気合いを入れておく。
「色は…」
「あ、待って!色はラピスに選んでほしいの。ラピスにお任せしちゃダメかしら?」
ちょっぴり上目遣いで小首を傾げるエルナたんは死ぬほど可愛かった。ヤバイ、鼻血が出そう。
「わかった。エルナたんに似合う長靴作るね!」
次にエルナたんがマルチスに来るのは6月だから丁度梅雨時。雨の多い時だからきっと私の長靴も役立つはず。頑張って可愛いの作ろっと。
その後一時間ほど経って大人達の話し合いは終わったのか、公爵様と両親が私の部屋にやって来た。
今日はもう遅いので公爵様はマルチスの端にある豪商のお屋敷に一泊させてもらい、明日マルチスを発つそうだ。
明日の朝お見送りに行くからね!と約束して一旦お別れ。明日は兄も一緒にお見送りに行ってくれるらしい。
そしてその日の夜、伯爵様からお土産で頂いた蜂蜜のパウンドケーキを夕食後に皆で食べた。兄が大変喜んでた。たんとお食べ。
両親は公爵様に護衛の事とか色々聞いていたはずなのに、その話は一切なくいつも通りだった。父の事だから大反対すると思っていたんだけどなぁ。
翌日。
私は兄に手を繋がれ、町の噴水広場─いつもエルナたんと会ってる場所に─にやって来た。公爵様はここを通って帰るので、エルナたんに「此処で待っていて」と約束したのだ。
兄と待つこと数分。エルナたんを乗せた馬車がやって来た。
広場に停まった馬車からは公爵様とエルナたんが降りてくる。
「エルナたん、おはよう!」
「おはよう、ラピス、お義兄様」
「おはよう、エルナちゃん」
笑顔で挨拶をしているけれど、その後は悲しい暫しのお別れだ。もうすでに泣きそう。
「はい、これ。昨日約束した例の物だよ」
「まぁ!ありがとうございますお義兄様!」
兄は何やら紐で綴じられた紙の束のようなものをエルナたんに差し出した。結構な量だ。エルナたんはそれを胸に抱き締め、今にも踊り出しそうなほど破顔している。なんだなんだ?
「ねぇお兄ちゃん、あの紙なに?」
「あぁ、あれは─」
「お義兄様!また次の機会を楽しみにしていますね!」
兄が何かを口にする前にエルナたんが言葉を被せる。それはもうとても嬉しそうに。
そんなにエルナたんが喜ぶあの紙束は一体…?
「ふっ…次の二ヶ月後、どんな風にラピスが過ごしたのかをたっぷりと書き連ねておくよ。楽しみに待っていてほしい。僕も筆が乗りそうだ」
ちょい待ち、もしやあれは私の観察日記か!?って、お前の日記かよ!!
取り上げたい衝動に駆られたけどエルナたんの嬉しそうな顔を見たらそれも出来なくなり、腹癒せに兄を睨んでおいた。くそう。
そうしてあっという間に時間は過ぎ、公爵様とエルナたんを乗せた馬車はマルチスを出発した。
エルナたんに再び聖域の魔法をかけ、ついでに公爵様にもエルナたんと同じ魔法をかけておいた。これできっと無事に帰れる筈だ。
エルナたんが馬車の窓から手を振っているのが見える。
私もブンブン手を振る。
勿論笑顔で手を振る兄とは対照的に、私は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で泣きわめきながらお見送りしたのだった。
兄は蜂蜜大好き◯ーさんです笑
それにしてもラブが遠い…_(┐「ε:)_
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