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20・帰宅

 


 長閑な風景が続く帰路。

 私はいつも駆け抜けていただけでゆっくり風景を見たことはなかったので何だか新鮮だ。

 実はいつも伯爵様の所から公爵様のおうちに帰るときは別の道を通るのだけど、私のためにわざわざマルチス経由で帰ってくれているらしい。ありがたいけど申し訳ないや…。

 本当はあの大きなお菓子箱を背負って帰るつもりだったのだけど皆に却下された。それに公爵様も私の両親に話があるようなのでお言葉に甘えて同乗さてもらう事にしたのだ。



「そうそう、ラピスにひとつ伝え忘れていたことがあるんだ」


 出発して間もなく、公爵様が切り出した。


「宝玉に触れたとき、魔力と魂のバランスがとれていないって話しはしただろう?覚えているかい?」


 そうだった。確かそんな話しがあったけど忘れてた。


「君の中には膨大な魔力があって、それがラピスの身体の成長を阻んでいるのは話したよね」

「はい」

「ラピスは日頃どれくらい魔法を使っているんだい?」


 どれくらい、と言われても…。

 う~んと首を傾げて考える。ぶっちゃけそんなに使ってない…かも。

 昨日は久しぶりに沢山使った気がするけど、普段はほぼ使っていないような…。


「3日に一回くらい軽く火魔法を使って山で焚き火するくらい…ですかね?」

「て事は家の中でも使わないのかい?明かりを灯す生活魔法の類いはどうしているんだ?」

「家の明かりはお兄ちゃんが点けてくれるし、特に困ったことはないです」


 そう、兄は私の部屋をいつも明るくしてくれるしお掃除もしてくれるしお布団も干してくれるのだ。つまり私のやることは遊ぶことのみ。


「…なるほど。それなら魔力が貯まる一方と言う事か…」


 妙に納得した様子で公爵様はうんうんと頷いている。

 公爵様の説明によると私の今の状態は、伸びようとする木の上に重りを置いて成長を阻んでいるのと同じ状態なのだそうだ。重りは魔力で、魔力と言う重りが多ければ多いほど身体は成長することを押さえられる。だから私は未だに5歳の子供の平均値より下なのだそうだ。


「ラピス、これからはなるべく魔法を日常で使いなさい。魔法を使って重りを減らすんだ。そうすれば一般の平均よりは遅いだろうけど、ラピスもちゃんと大きくなれる」

「がんばります!」


 にっこりと笑った公爵様が私の頭を撫でてくれた。

 魔法をなるべく使った方が良いのかぁ。なるほど。

 それなら…。


「『聖なる加護を彼の者に』」

「え!ちょっ、ラピス?!」


 パアァァとエルナたんが目映く輝く。そしてエルナたんを中心に半径10m程のドーム型にまでその光は広がりそのままスッと消えた。

 アホの私はとっさの思い付きで魔法を使ってしまったのだけど、光のドームに包まれた馬が足を止めた。驚いて急ブレーキ、じゃなくてカッポカッポゆっくり歩いていた足を止めただけだったので馬車は揺れなかったのだけど…。

 護衛さんと馭者さんはそうじゃなかったようで、ちょっぴり外が騒がしい。いきなり予告もなく魔法を使ってしまったので見えていなかった馬車の外にいた人達を驚かせてしまった。

 や、やばいかもしんない…!


「何事ですか!?」


 慌てた様子で小窓から護衛さんが顔を覗かせる。


「ご、ごめんなさい!私が魔法を使っちゃって…!勝手なことしてごめんなさい!!」


 あわあわして語彙がおかしい。とにかく謝らなくてはと何度も頭を下げると護衛のおじさんはほっと息を吐く。何事もない様子に安堵したようだった。


「それで、さっきの光の効果は…?」


 公爵様がいつもの落ち着いた様子で首を傾げている。よかった…怒ってないっぽい…!


「えっと…エルナたんを中心に半径10mの聖域(サンクチュアリ)を展開しました…」

「その効果は?」

「悪意や害意を持ってエルナたんに近付くと悪意の度合いにもよるけど、最悪ミンチになります!」


 ドヤッ!最強の愛の壁だぜ!と言わんばかりに答えると公爵様は笑顔のまま頬を引き攣らせた。あれ?


「エグい…」


 それを聞いていた護衛のおじさんも引き攣った顔でボソッと溢す。

 何で?悪人に手加減とかいらなくない?ダメな感じ?


「う~ん…それだと犯人の口を割れなくなるから困るかなぁ」

「…じゃあ吹っ飛ぶだけにしとく…」


 周りの反応に何となく納得できないけど、仕方無く解除して新しく少しだけ弱めに設定した聖域を展開することにした。





「あぁ、そうだ。ジョシュアから言伝てがあるんだ」


 馬を休ませている間におやつを食べていたら、公爵様が思い出したように顔を上げた。

 因みにおやつはローストビーフが沢山挟まれているサンドイッチ。あと卵のサンドイッチもある。おやつと言うより昼食だ。

 何やらエルナたんが私のためにお願いして作って貰ったようで、もうそれだけで美味しさ倍増だよ!うましうまし!


「ジョシュアの所も魔導書をそれなりに所蔵しているから、気が向いたら勝手に読んで良いって言っていたよ」


 おぉ!伯爵様いい人!

 教会の魔導書は制覇してしまったから新しい魔導書が読みたかったんだぁ~!やったぁ!


「良かったわね、ラピス」


 ほっぺについていたパンくずをナプキンで拭ってくれたエルナたんも笑顔だ。しかし─


「─でも、変な人には気を付けるのよ?あそこは殿方ばかりなのだから」

「う、うん…?」


 なんだろう。エルナたんのハニースマイルから冷気が…。

 いやいや、気のせいだ。エルナたんはいつだって太陽の女神!




 昼食後は再び馬車での移動。

 間もなく私の暮らすマルチスの街が遠くに見えてきた。


 マルチスは割りと平和な街だけど平原に面しているため、普段は人の暮らす場所には近付かない野生の狼や肉食獣がごく稀にお腹を空かせて侵入しようとする。それを阻止するために街の周りをぐるりと高い壁が囲んでいるのだ。

 街へ入るための大きな門が見えてきた。門衛さん数人が壁の上に立っている。門の入り口では警備の男性が数人、あとは街へ入るための審査をする役人さんが居た。

 私達を乗せた馬車が近付くと役人さんは瞠目し、慌てて駆け寄ってきた。きっと普段はこちら側から帰る事がないからだろう。


 執事のロートベルさんが役人さんに斯々然々と何やらお話しする事数分、馬車に乗った私達は顔を見せただけですんなりと街へ入ることができた。

 因みに役人さんはうちの五軒隣に暮らす厳ついおっさんの息子で、私の顔を見て変な顔をしていた。何でお前が公爵様の馬車に乗ってるんだ?みたいなハテナ顔だ。


 街に入って10分程進んだ先に私の家、宿屋の『白猫』がある。

 家の正面では両親と兄が待っていて、父と兄は落ち着きなくウロウロしては母にシバかれていた。


「ただいまぁ~!」


 家の正面に停まった馬車から飛び降りて取り敢えず父に飛び付いておく。この父、余りに構わなさすぎると泣き出すからだ。


「おかえりラピス!!伯爵様の所に泊まるだなんてパパは心臓が止まりそうだったよ!てか一回止まったよぉ!!」

「ぐぇ」


 ぎゅっと抱き締められて蛙みたいな声が漏れてしまう。父鬱陶しい。暑苦しい!


「まさかもうお嫁さんに行くのか!?世界が許してもパパは許さないんだから!」

「そうだぞラピス!お兄ちゃんのお嫁さんになるって言ったじゃないか!」

「え!?パパのお嫁さんじゃなかったっけ!?」


 最早意味不明な事を言い出した。


 ちょっと止めて!公爵様とエルナたんが反応に困って固まってるじゃん!



誤字脱字がありましたらお知らせください(*^^*)


ブクマ&評価ありがとうございます!(*´ω`*)


今更な余談ですが百合っプルなお話じゃないですよ?笑


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