19・出発
あれからちょっと大変だった。
完全回復したシャーロット様はガゼボに戻ると「貴女たちだけでお茶を楽しんでいてね」とアラン様とエルナたんと私を残して急ぎ足でお屋敷に戻っていった。
その間、私達はケーキスタンドに乗ったお菓子を「これが好き」「あれが美味しい」と他愛のない会話を楽しんだ。
暫くすると土煙をあげながら猛烈な勢いで伯爵様が駆けて来て、急に私の胴体を鷲掴みにしたかと思えば空高くポーンと投げられた。
なんだなんだ!?と驚く私とは対照的に伯爵様の顔ははにかんだ表情でテンションが高く、「ありがとう!」と何度もまるで子供に高い高いをするようにして持ち上げられクルクルと回された。
私が頭にハテナを浮かべて居るとシャーロット様が遅れてやって来て、背後から伯爵様にチョップを食らわせた。
落ち着いた伯爵様とシャーロット様に挟まれ「あぁ、赤ちゃんの事を伝えたのか」と納得した。公爵様が伯爵様は子供好きだと言っていたから、赤ちゃんが出来たことがとても嬉しかったのだろう。
それからも伯爵様のテンションは下がらず、昼食は宴会状態となり、美味しい食べ物やお菓子を沢山食べた。
両親から赤ちゃんの事を聞いたアラン様も子供らしい笑顔ではにかんでいる。兄になることがとても嬉しいようだ。
願わくばアラン様が愛が重いうちの兄のようにならないことをこっそり祈っておこう。…妹ちゃんみたいだからね。内緒だけど。
そんなこんなで帰路につく時間が近付き、私達は出発することになった。
私は借りていた綺麗なお洋服を脱いで、最初に着ていた修行着にリュックを背負い短剣を差して馬車の待つ正面玄関へと一足先に向かった。
準備はほぼ終わっていて護衛の兵士さんと執事のロートベルさんが最終チェックをしていた。チラリと覗いた荷台には例のブツがちゃんと乗っている。
馬車の荷台には私が三人は入れる大きな箱が積まれており、中身は焼き菓子やジャム、蜂蜜なんかがぎっしりと詰まっていた。もちろん伯爵様の約束のお品である。うひひ。
「おい」
ニヤニヤとその箱を見ていると背後から声がかかった。この声は─。
「あ、アラン様」
「えっと…その…」
振り替えるとアラン様はもじもじと指をにぎにぎして視線を合わさない。なんだろう?
「母上と父上から聞いたんだ。その…ラピスが赤ちゃんも母上も助けてくれたって」
「助けた、というか…」
魔法を使っただけなんだけど。
「あ、あり…あり、がとう!」
叫ぶようにお礼を言われて驚いてしまった。
顔を真っ赤にして若干涙目でお礼を言われてしまった。あれだね、アラン様はシャーロット様のツンデレ遺伝子を継いでるのね。
「どういたしまして…?」
「それで、その…またうちに来るって父上に聞いたんだ。兵士の修行をつけに来てくれるって」
「はい、毎日じゃないけど、ゆるゆるしてる時を狙って奇襲をかけろって伯爵様に言われたので!」
伯爵様との決め事でそう言う事になった。なので前もって「この日に襲撃するよ」ってのを無しにして「なはは!参上!!」みたいな感じでやっちゃってオッケー!ってなったんだよね。
「そ、そっか…」
「はい。お話はそれだけですか?」
「いや、そうじゃなくて…。」
「?」
「ぼ、僕も…その…」
なんじゃい。はっきり言わんか。
「僕もその…!ルビニカ嬢みたいに…気安く呼んで欲しいんだ!」
「気安く?」
真っ赤な顔でコクコクと頷きまくるアラン様。しかし気安くってなんだ?
「ルビニカ嬢の事は、エル、エルナたんって呼んでるだろう…?僕もその…っ、そんな感じで気安く喋って欲しいし呼んで欲しいんだ!」
「アランたん?」
「なんか違う!!」
取り敢えずエルナたん風に呼んでみたら即座に否定された。ん?何が違うんだろう。
「え?じゃぁ…アラン様だから『アっくん』とか『アーくん』て事?」
「そう!それ!」
ぱぁぁ!とアラン様は笑顔で頷いた。
んー?しかし伯爵子息をそんな風に呼んで良いのかな…?いや、エルナたんは公爵家だっけか…今更だな。
「んー。じゃぁアーくんで!」
「やった!」
ひとりでガッツポーズしてるアーくんの後ろから伯爵様夫妻と公爵様とエルナたんがやって来た。なぜか伯爵様夫妻はアーくんを見てニヤニヤしている。
エルナたんが私を見つけると小さく手を振ってくれた。
「えっと、それでラピスさえよければ僕の─」
「エルナたぁぁーーーん!」
ばびゅん、とエルナたんに駆け寄った背後でアーくんが何かを言いかけた気がした。いやそれよりエルナたんだ。
「エルナたん見て見て!あれ!お菓子いっぱいなんだよ!」
「そう、よかったわね」
「えへへ」
今日のナデナデも最高です!
「ドンマイ、我が息子よ…」
「勝負はエルディアナちゃんの勝ちのようね」
「くぅ…!」
全員で馬車に乗り込み、馬が走り出した。実は馬車に乗るのは初めてでドキドキする。昨日の事はカウントしてない。だって覚えてないから。ほら…いっぱいいっぱいだったし。
馬車の四方を護衛の兵士さんが囲んだ形での出発だ。因みにギヴソンさんとテオは数日後に出発になっている。ギヴソンさんは妻帯者なので公爵様の計らいでお屋敷の近くに住居を借り、通いでお仕事をさせてくれるのだとか。公爵様優しい。
なので引っ越しも含めての後日出発になるようだ。
「どう?ラピス、お尻痛くない?」
「大丈夫!」
ふかふかの座面は座り心地がよくてお尻は全然痛くない。さすが公爵家の馬車。うちのソファーより良いんですけど。
「帰りは何もなければ良いんだけどね」
「そうですね…」
公爵様が苦笑混じりに溢す。
まぁ、昨日襲撃を受けたばっかりだもんね。そりゃ不安になるのも仕方ない。
確か小説では無事に帰れた筈だけど、既に私がシナリオを無視してぶっ潰しているので未来は不確定だ。
「大丈夫、エルナたんも公爵様も、ロートベルさんも護衛のおじさん達も私が守るからね!」
ぐっ!と拳を握りしめるとその手をエルナたんが優しく包んでくれる。
「ラピスがすごく強いのは知っているけど、もしもの時は私達の事よりも一番に自分を守って。ラピスに何かあれば私は死ぬほど悲しいわ。万が一の事があれば、私達を捨てて逃げなさい。これはお父様も同じ考えよ。はい、お返事は?」
「ぅ~…はい…」
エルナたんを捨てて逃げるなんて絶対にしないけど、頷かないとエルナたんは許してくれそうにない気がした。
真剣な表情はとても大人びて見える。
見た目は六歳でも中身のエルナたんは大人だ。勿論私もなんだけど、何故かこの時は私よりもエルナたんの方がずっと大人に思えた。
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中々ラブ要素が出てきませんが温か~く見守ってください(=ω=;)




