1・運命の転生
続きは書かないと言っていましたが、自分用に書いてたら楽しくなってきたので連載することにしました(*´ω`*)
1話目は短編版と同じです。
◆◆◆◆◆◆◆
─疲れた。
そう。私はもう、文字通り疲れ果ててしまった。
肉体的にも、精神的にも…。
何をしても、どう動こうとも、未来は変わりはしなかった。
最早神が予め用意していたシナリオなのではないか。そう思わずにはいられないほど、どんなに死力を尽くしても、決まった最後を迎える。
私は今、断頭台に立っている─…。
私を悪女と罵り、怒号を飛ばす民衆。
誰かの投げた石が額に当たり、裂けた傷口から血が流れ落ちるとそれを見た者が囃し立てる。
乱暴に背中を押され不様に倒れこんだ私の頭上には、愛しい女性を胸に抱き、嘗て愛した人が侮蔑の眼差しで見下ろしていた。
その眼には底冷えするほどの冷たさしかない。
彼の腕の中、震える彼女は涙を浮かべ祈る様に手を合わせ私を見ていた。
私はなにもしていない。
どんなに声を上げても誰も信じてくれない。
誰も耳を傾けてはくれない。
断頭台には私の命を一瞬で終わらせる刃が陽の光を反射してきらりと光っている。
磨耗した私の精神に、その光はいっそ愛しくも見えた。
早く終わらせて。
あの刃が落ちて私の首が落ちた瞬間、私はまた戻るのだ。
全てが眩しく、輝いていた幼少期に。
けれどもう…。
私はもう、なにもしない。誰も信じない。誰も見ない。誰にも頼らない。誰にも関わらない。
誰も…愛さない。
どうせ次も同じ。
何をしても私がたどり着くのは断頭台なのだから─…。
~Fin~
◆◆◆◆◆◆◆
「はぁ~…今回も断頭台エンドか…。もうっ、次こそは私の愛しのエルディアナが幸せになれる話にしなさいよね、作者!!」
忙しい仕事の終わり。自宅のマンションに帰り日課であるネット小説を読む。
最近の楽しみはこの【輪廻の赤い薔薇】と言う公爵令嬢ループもので、今日でエルディアナは四度目の断頭台エンドになった。
何度も何度も断頭台エンドを回避するために頑張るエルディアナだけど、今回こそは断頭台エンドを回避出来ると本当に頑張っていたのだ。
それなのにあえなく斬首…。
おい、作者。そんなにエルナたん(密かにそう呼んでますがなにか?)が憎いのかよ。そう思わずにはいられないほど。
だってエルナたんめっちゃイイコなのよ!?
それなのになんでこんなに虐めるかな~?作者って頭どうかしてるんじゃないかしら。
「っと、あとがきあとがき…っと…」
『皆様、長い間【輪廻の赤い薔薇】をご愛読ありがとうございました。本日を持ちまして本作は最終回とさせていただきます。
ぶっちゃけ疲れました。と言うか書くのに飽きました。それではさようなら』
「………………おぃぃぃ!!!!」
思わずスマホをぶん投げてしまった。
「ふっざけんな!エルナたんはどうなるんだよ!?」
このクソ作者!エルナたんを見棄てやがった!クソが!
信じられないような終わり方に付け加えて連載終了のお知らせ。なんて日だ。
「ちくしょう!やってられるか!」
私は冷蔵庫のビールを数本取り出しプルタブを上げる。プシュっと酸の抜ける音が若干のイライラを飛ばしてくれたような気がした。まぁ気のせいだけど。
ぐびぐびとビールを流し込み、ベッドへ仰向けに転がる。
明日は休みだし、このまま寝ちゃえ。
「はぁ~…私がエルナたんの側に居られたなら、絶対に泣かせないのにぃぃ~……作者ぁ絶対呪うぅ…………グゥ…」
作者に呪いの言葉を吐きながら、酒の回った私はスヨスヨと眠りについた。
「すきです!!おともだちになってください!!」
差し出した一輪の真っ赤な薔薇と私を交互に見つめるのは天使のように可愛いお嬢様…否、私にとってはお姫様だった。
突然ですが私、ついさっき前世の記憶を思い出しました。
ちなみに私は今5歳の幼女。名前はラピス。
前世を思い出したのは偶然…否、運命だったと思う。
その日は朝から街中がソワソワしていた。何故かと言うと領主様の視察があるからだ。
この街を治めるのはアーチェス・ルビニカ公爵様。今日は公爵様のご息女も一緒に来ると言うことで、宿屋を営む両親も楽しみにしていた。
ルビニカ公爵様は善政者で街の人からも好かれている。そんなお人だから、街中の人は緊張しながらもワクワクとした気持ちで迎えられるのだ。
かくいう私も両親から沢山の事を分からないながらも聞いているので、公爵様のお越しを楽しみにして噴水広場で幼馴染みのロベルトと待っていると言う訳だ。
「こうしゃくさま、まだかなぁ?」
「ラピス。やくそくだよ?ぜったいにおはなうるの、てつだってね?」
「わかってるって、もう」
ロベルトは花屋の息子で、本当は今日は店のお手伝いで花籠をもって物売りする予定だったのを無理矢理引っ張ってきた。同じ年だけど私より身長が低くてちょっぴり臆病な子だ。
「あっ!きた!きたよロベルト!こうしゃくさまー!」
通りの向こうから公爵様を乗せた馬車がやってきた。街の皆も声をあげて手を振ったりして公爵様の到着を歓迎する。勿論私も。
御者のおじさんが馬車の扉を開くと中から優しそうな男の人が出てきた。きっと公爵様だ。だってお洋服が高そうだから。
そして公爵様は馬車へと振り返ると両手を伸ばした。すると馬車の中から公爵様の手に抱き上げられたお姫様が出てきたのだ。
綺麗で可愛いお姫様。
プラチナブロンドのキラキラの髪にまるでイチゴ飴の様な濃いピンクの瞳。
公爵様に抱き抱えられたお姫様はまるでおとぎ話の天使や妖精のようだった。
公爵様がお姫様を地上に下ろした瞬間、広場にいた人達からわっと歓声が上がる。
「わぁ…すごくきれいなこだね、ラピス。……ラピス?」
「──…」
隣にいたロベルトの呼び掛けにも気が付かず、沸き立つ街の人達の声もその時は私の耳には届かなかった。
だって、その時私の中に鐘が鳴り響いたのだから。
運命の出会いをすると祝福の鐘が鳴り響くとよく聞くけれど、それは比喩で実際にはそうじゃないと思っていた。
けれど今この時、私の中で鐘の音と共に何かが溢れ出てきたのを確かに感じていた。それはこの世界ではなくて別の世界で別の人間として生きた私の記憶。そう、前世の記憶だった。
急速に頭の中に入ってきた膨大な情報に目の奥がチカチカして倒れそうになるも、たたらを踏んで持ちこたえる。
倒れてる場合じゃない。
だって、お姫様が─…エルディアナが…エルナたんが居るんだもの!
「えっ!?わぁっ、ラピス!?」
私はロベルトの花籠から真っ赤な薔薇を抜き取り人の波を掻き分けて走った。
ロベルトが後ろでなにか叫んでいたけど、今はそれどころじゃないんだ。
だって…私は知っている。
馬車から降りてきたエルナたんが笑ってない。
「……エルナたん!」
私の記憶通りならこれはエルナたんが5歳の時公爵様の視察に初めて付いてきたあの場面だ。
あのシーンではいつも彼女は笑っていた。運命に抗うため、二度目も、三度目も、四度目も…笑って民衆に手を振っていた。なのにっ、今はまるで光の射さない闇の中に居るように、あのストロベリーアイは暗く淀んで、表情の無い人形のようだ。
無。
彼女の顔からは表情が綺麗に無くなっていた。
多分彼女はまた戻ってきたんだろう。
5度目の【輪廻の赤い薔薇】に─。
だったら、だったら私はやる。やるったらやる!
彼女を、私が…幸せに導いてみせる!
人垣を抜け出て私はスライディングの勢いで彼女の前に跪き、手に持った赤い薔薇を差し出した。
「すきです!!おともだちになってください!!」
無表情だったエルナたんが瞠目する。
そうだ。
私は─。
きっとこのため─推しのため、私は転生したんだ!
2話目は夜に更新します(*´ω`*)