17・朝食の風景
「……!!」
ダイニングルームの扉の前にやって来たのは私達だけではなく、何様クソガキ様アラン様もだった。
アラン様は私を見てあんぐりと口を開いて驚愕に目を開いている。今が目潰しのチャンス!やらないけど。
「おはようございます、アラン様」
「……」
にこやかに朝の挨拶をしたエルナたんをスルーし、アラン様は穴が空くんじゃなかろーかと言うほど私を凝視してくる。何だ、文句あんのか?
首を傾げるとアラン様がハッとしたように挨拶を返してきた。
「あ、あぁ、おはよ」
「ほら、ラピスも。一応、ね?」
「ん。おはようございます」
一応、の部分に力が入ってた気がするけど、取り敢えずご挨拶。
エルナたんみたいに綺麗な淑女の礼は出来ないのでペコリと頭を下げただけだけど。
メイドさんが左右から扉を開いてくれたので私達は同時にダイニングルームに入った。
「やぁ、二人ともおはよう。おや、今日のラピスはとても可愛いね」
にこやかに誉めてくれる公爵様と違い伯爵様は「馬子にもなんとかってやつだな!」とにやにやしている。失敬な。
ふと部屋のなかに視線を向けると綺麗なドレスを着た妙齢のお姉さんが伯爵様の前に座っていた。私の視線に気が付いた伯爵様がすかさず立ち上がり、その女性のところへ行き身を屈めて肩を組んで言った。
「俺の愛しの奥さん、シャーロットだ!」
臆面もなくそう言いきる伯爵様の顔を、顔を赤くして目を吊り上げたたシャーロット様が手のひらを突っ張って遠ざけようとして居る。ツンデレかな?
「朝からお止めくださいませ!…全く。─貴女がラピスちゃんね?昨日はご挨拶できなくてごめんなさいね。少し体調が優れなかったものだから」
そう言って躊躇もせずに私の視線に合わすようにしゃがみ込む。貴族の、それも伯爵夫人が。驚きだ。
私の知る貴族と言えばエルナたんと公爵様と伯爵様、それにアラン様。一部微妙だけど皆いい人だと思う。けれど小説【輪廻の赤い薔薇】に登場する貴族達の描写は七割方クズかクソかド変態しか居ない。
階級社会を逆手にやりたい放題で平民を使い捨ての道具だと思っている人間も少なくはない。末端でも貴族と言う称号を持つ者の中には自分を神か何かと勘違いしているのではないか?と思わずにはいられないほどプライドが高い者が多いのも事実だ。
そんなプライドの高い貴族達だ。勿論のこと平民の為に膝を着くなんて、矜持もプライドも天元突破な彼等には屈辱でしかない行為なのに。
真夏の若葉のような淡い緑の髪に、アラン様に似た少しつり目がちなオレンジ色の目が私を映している。にこりと笑みを浮かべるシャーロット様はキツそうな見た目とは違いとても優しそうな女性だった。
「初めまして。ラピスと言います」
ペコリと頭を下げると、良い匂いのする柔らかな大人の女性の手が頭の上を丁寧に撫でた。
「私はシャーロットと言うの。よろしくね」
昨夜の旦那様は貴女のお話に夢中だったのよ?とこっそりと囁く。その仕草は何だか年頃の少女の様でもあり、本当に一児の母なの?と思うほど若々しく可愛らしい。
「出発は昼過ぎなのでしょう?だったら私ともお茶をいたしましょうね!」
「え!ズルいです!僕も母上とお茶したいです!」
アラン様が「僕も僕も!」とグイグイ来るのでその場でシャーロット様とお子様三人でのお茶会開催が決定してしまった。
エルナたんも嫌そうな顔はしてないし、良いのかな?
「さぁ、お話はまた後でたっぷりいたしましょう。折角の朝食が冷めてしまっては料理長に悪いですからね」
シャーロット様が席に戻る。
エルナたんと一緒に馬車に乗っていた執事のおじさん、ロートベルさんが案内してくれた席には子供用の座面が高い椅子が用意されていた。
私達ちびっ子は手助けをしてもらい椅子に座る。私の横にはエルナたんが、斜め前にはアラン様が座っていた。
朝食は和やかに進む。
しかしふとエルナたんを見たとき、その隣のシャーロット様のお皿が見えた。中身は余り減っていない。体調が優れないって言ってたから、余り食欲が無いのかもしれない。
私はお医者様じゃないから病気には詳しくないけど、大抵の病気は治癒魔法で治せるのがこの世界。魔法って便利なのだ。
とは言え治癒魔法は使える人間が限られるので、そんな人は教会に取り込まれてお金儲けに使われている。
そしてそんな人達は大抵教会の総本部に居るのでこちらから出向かなければいけない。病人をつれて危険な旅をしてまで総本部まで行く人は少ないし、何よりも日数に護衛を雇う費用その他諸々で大変お金がかかる。
町医者も居るには居るけれど、怪我を治せるほどの魔力は持っていない。要するに前世の医者と同じで治療はするし、お薬は出してくれるけれど回復はその人次第、と言うわけだ。
一宿一飯の恩…いや沢山食べたけど…。
皆和やかに食事を取っていて気が付かないだろうとこっそりとシャーロット様の身体を検査してみる。
頭の天辺から徐々に見てゆくと胃の辺りが少し炎症を起こしていた。胃もたれ…?とかなのかな…。そして更に視線を下ろしくてゆくと、下腹部にある光に目が釘付けになった。
「あ」
思わず見詰めたまま声を出してしまう。しまったと思い思わず両手で口を隠してしまった。しかし既に遅く全員の視線が私に集中していた。
「どうしたの?」
隣のエルナたんが首を傾げて私を覗き込む。
言っても良いのかな…?けど隠していたり…とかだったら余計なことだし…。けどこのまま放置して見ぬ振りをすれば恐らく…。
あぁ~。どうしよう。
「どうした?何か気になることがあるなら気兼ねなく言っても良いぞ」
私は眉尻を下げて無意識に伯爵様とシャーロット様をチラチラ見て居たようで、皆が不思議そうにしている。
「えと…えと…」
なんとか誤魔化すものはないか!?
テーブルの上─私が手が届かない場所にある籠の中身を見てこれだ!とおずおずと指差す。
「手が、届かないの」
「まぁ、気が付かなくてごめんなさいね」
シャーロット様が給仕に目配せすると素早く私のお皿にパンを乗せてくれる。
実は既にふたつ食べていたけれど、パンなんて空気と同じなのでいくらでも入る。しかも焼きたてなのか香ばしくてふわふわでほんのり温かい。さすが伯爵家の料理人。うまうま。
私がパンをはむはむしているといつの間にか皆がそれぞれ食事を再開。エルナたんが時折話しかけてくれるので、ご飯は美味しいし楽しいし大変満足した。
ただ終始チラッチラ私を覗き見るアラン様は謎だった。
見てんじゃねぇぞ。
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ブクマ&評価ありがとうございます!(*´ω`*)
ラピスはちょっぴりアホな子なので温かく見守ってやってください…笑




