16・負けないもんね!
模擬戦で戦ったときテオドールさんは私と戦闘スタイルが似てるなと感じた。
他の人はちゃんとした剣術を身に付けているのに対して、テオドールさんは私と同じ様に相手によって戦闘スタイルを変えるタイプだ。
振り上げた剣を受けるのではなくて回避して次の一手に備える。それは完全に対魔物に特化したスタイル。魔物は人間のように駆け引きをしてこない。そんな相手に対する本能の戦い方だ。
公爵様は剣の扱いはまだまだだって言ってたけど、この上さらに剣術をきちんと身に付けたら物凄く強くなりそう。
いや、負けないけど。…負けないもんね!
な訳なのでこんな所でバッタリ会っても「何かお前なら居てもおかしくないや」って妙に納得してしまう。
「勘違いしないでほしいんだけど、俺最初からここに居たから。調書でちょっと曖昧なところがあって来てたんだけど…何か急に皆が眠りだして「なんだ?」って思ってたら君が来たんだ」
あぁ、この牢屋の中の人物に用があって、睡眠魔法使ってなかったからかぁ…。人数もぱっと見ただけでちゃんと確認してなかったや。でも入ってから用のない人間には睡眠魔法使ったけど、どうしてテオドールさんは起きてるんだろう?
テオドールさんは警戒した素振りも、私を不振に思っている様子もないようだ。
普通はもっと警戒するもんじゃないの?
「それで、昼間の君と今の君。どっちが本当の君なの?」
「……」
え、聞くのそれなの?そこなの?逆にそれ以外のことの方が気にならないの?
「テオドールさんさぁ…やっぱり変わってるね」
「そうかな?」
「そうだよ。普通そこは「お前は何者だ、どうしてこんな場所に居る」でしょ」
テオドールさんはう~んと顎に指を添えて首を傾げる。
「けど君はエルディアナお嬢様の事が大好きだから、彼女のためなのかなぁ…って思って。彼女のためにならない事の為にこんな深夜にこんな場所までわざわざ来る理由はないと思うけど、違う?」
まぁ、確かにそうなんだけど。
「公爵様の話だと周囲を嗅ぎ回ってる奴等か居るって言ってたし。あの話も含めて今日の襲撃に何かを感じたのかなって」
人好きのする笑みで自信ありげに「どう?正解?」と胸を張るテオドールさんは年相応に見えた。
「とにかく俺には君に敵対する意思はない。それだけは信じてくれたら嬉しいな。だから微妙に殺気放つのはやめてほしいんだけど…」
「私も流石に誰彼構わず殺意ばら蒔いてる訳じゃないよ」
「うわ…殺意って認めるんだ」
顔をひくつかせたテオドールさんは「こんな場所じゃ何だから取り敢えず外に出ようか」と牢を出た。続いて私も外に出る。
「いやー、そろそろ出ようと思ってたら鍵持ってる人が皆寝落ちしてて、最悪朝まで彼奴等と過ごさないといけないのかと焦ったよー」
「男同士親睦を深めればいいじゃん」
「…難しい言葉知ってるね。君本当に6歳?」
何食わぬ顔でテオドールさんは外に出ると私を背に隠すようにして移動した。…何だ、結構優しいじゃないか。変態だけど。
なんと、テオドールさんは男の子らしく私をお屋敷の裏まで送ってきてくれた。端から見ると幼女を連れ込む変態にしか見えないのは残念だけど。
「ここから登るの?本当に?」
「ここから加速つけて壁を蹴って飛び上がってこの木を足場にしてもう一回跳べばバルコニーに上がれるよ?」
「…うん、もうさすが…としか言えないや」
バルコニーを見上げたテオドールさんは呆れたようにハハ…と笑う。
「じゃおやすみなさい、テオドールさん」
「うん。おやすみ。あぁそれと、俺の事は『テオ』で良いよ」
「じゃあ私も『ラピス』で。キミキミ言い過ぎだよ」
二年後には同僚になるんだし…あ、でも二年後には私とエルナたんは王立魔法学園に入学するんだっけ。護衛って私だけなのかな?それともテオドールさん─改めテオが一緒に行くのかな?それともギヴソンさん?
…ちょっと眠くなってきて頭が回らなくなりそう。いくら頑張って鍛えてても如何せん幼女体…睡魔には勝てぬ。
「ふぁ…じゃ今度こそ本当におやすみ、テオ」
「おやすみ、ラピス」
あくびを噛み殺して私はバルコニーへと跳んで行く。タン、タン、タンと小さな足音が三回。無事にバルコニーに上がり下を覗くとテオが笑顔でヒラヒラと手を振った。私も手を振り返してから静かに部屋に入る。
「エルナたん、ただいま~」
超小声で囁き着替えを済ませてベッドに潜り込む。
隣には私が出て行った時のままエルナたんは気持ち良さそうに眠っていた。
「ラピス、朝よ」
「んん~…」
昨日の夜更かしでまだちょっと眠いや。
むくりと上半身を起こすと目をごしごしして大きなあくびをする。あくびをすると眠気が飛ぶなんて誰が言ったんだろう。全然眠いんですけど。
「おはよう、ラピス」
「おはよー…エルナた…」
まだ頭がふわふわしててぐらぐら揺れる。このまま枕に沈みたい気持ちを堪えて「んんー!」と背伸びをした。
「ふふ…寝癖がすごいわよ、ラピス」
私の頭を撫でながら寝癖を押さえてくれる優しいエルナたんにはとても気の毒だけど、私の寝癖はかなりボンバイエなんだよね。撫でたくらいじゃ元には戻らないのだよ。まぁ撫でられるの気持ちいいから黙っとこ。
その後メイドさん達がやって来て私達の身支度を整えてくれた。
私の頭を見たメイドさん達は「まぁまぁ」と笑いながらも蒸しタオルで温めてくれ、気持ちよかった。もう少しで二度寝しそうだったよ。
私の髪は修行に邪魔なので肩に着くくらいで切っているのだけど、メイドさんは何だか良い匂いのするさらっとした油を少し馴染ませまた後二つに別けて綺麗な編み込みで結わえてくれた。リボンも結んでくれた。…このおリボンお幾らかしら。
「私のドレスじゃラピスには少し大きいものね…まぁ仕方ないわ」
何だか納得の行かない顔でエルナたんは数枚のブラウス中から丸い襟でフリルの着いた物を何故か憎々しげにメイドさんに手渡す。
後ろから袖を通され前ボタンをとめる時に身頃が左上だった事でこのブラウスが女性用ではない事に気が付いた。多分アラン様のお下がりだ。だってすべすべの生地だし。
スカートはエルナたんの物を履かされたけど、裾がかなり長い。ウエストは私のキューピー体型のせいかぴったりだった。解せぬ。
私の回りに四人のメイドさんが跪くとほんの数分で長かった裾が綺麗に裾あげされる。すごい、ハーマン家のメイドさん。
靴下と靴を履いて私の魔改造は終了した。
振り替えるとエルナたんも同時に準備が完了していて、綺麗な淡い菫色のドレスを身に着けていた。美ひぃ~。
「可愛いわ、ラピス!」
「えへへ」
誉められてナデナデされて照れていると、メイドさんもエルナたんの可愛い笑顔を見てほっこりと頬を緩めていた。解るよ、その気持ち。
「では、朝食の準備が整いましたらまたお声をかけさせて頂きますので、それまでごゆるりとお過ごしくださいませ」
そう言って一人のメイドさんを残し、退室していった。
貴族の朝食って何時なんだろう?うちは宿屋で朝も早いから朝食は6時なんだよね。
10分程経つと朝食の準備が出来た様で、私はエルナたんに手を引かれながらダイニングルームに向かった。
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次の更新は月曜日です☆
恋愛要素…今のところゼロですね…ふへ




