15・ブラックラピス
※暴力、流血描写有り
※ラピスがブラックです
私が前世で読んでいたネット小説【輪廻の赤い薔薇】には時折閑話として台詞だけで構成されたページが存在した。
そのページのなかでは誰が誰なのか、何人居るのか名前も性別も解らない。
会話の内容も誰を指しているのかいまいちはっきりしない。そんなページだ。
しかし異世界に転生してしまった今、謎は謎のままである。
解っていたのはただひとつ─。
「何が目的なのか…エルナたんを狙ってるんだよね~…」
マジでギルティですわ。何処のどいつじゃい。
此処はハーマン伯爵家の軍の詰所脇にある地下の牢獄。上からは小さな小屋にしか見えないけど、地下は50人程を収容できる牢があった。
石畳の上を小さな足音が響いている。
等間隔で見張りの兵士さんが座り込んで寝息を立てていた。
此処に踏み入る前、探知魔法で確認すると捉えられた盗賊は三つのグループに分けられて投獄されていた。そして見張りの兵士が等間隔で10人配置されている。
他に収監されている者は居らず、見張りの10人と牢に入れられている盗賊達だけだった。
手っ取り早く睡眠魔法で見張りだけをピンポイントで眠らせ、こっそり侵入を果たす。睡眠魔法は精神への干渉を行うためとても複雑で難しい。私も50回は練習した。兄で。
そのお陰か今では成功率100%だ。
まぁ、それはさておき、だ…。
「見ぃ~つけた」
ひとつの牢屋の前に立ち止まり中を覗き込む。
両手はひとつに束ねるための手枷がひとつ、足には鉄の重石がついた足枷。その部屋には一人の男が壁とひとつになっている石で出来た椅子に磔にされていた。残りの男達は部屋の隅で丸くなっている。眠っているのかどうかは解らないけど。
なかは薄暗く牢屋の外にある燭台が唯一の灯りで、通気口のために開けられている小さな穴から細く月明かりが射し込んでいた。
牢の前で眠る兵士の腰から鍵を借り、鉄格子を開き中へと入る。キィィ…と鉄の軋む音に椅子に座っていた男が顔を上げた。
男は盗賊団の頭目で、初手の蹴りで沈んだ奴だ。
「何だァ?何でこんな所に子供が居る」
怪訝に私を見ていた顔は何か録でもない事でも思い付いたのか、途端にニヤニヤと笑い出す。
「よぉ、嬢ちゃん、ちょっとコイツを外してくれや。そしたら嬢ちゃんの欲しいものは何だってやるよ」
子供なので誑かして逃げてやろうとでも思っているようだ。
「私はお前に聞きたいことがあって来た。下らん期待はするな」
「はぁ?」
男の方眉がつり上がる。
「ルビニカ公爵の馬車を襲ったのは何故だ。答えろ」
「あぁ?なんの事だ」
不愉快げに男は唾を吐き捨てた。その仕草を冷えた目で一瞥し、再度問う。
「なら質問を変えよう。─誰に依頼された」
男の顔色は変わらずただ小馬鹿にしたような表情で私を見下ろす。
「なんの事だ?俺達はただ公爵の娘を拐って身代金を巻き上げたかっただけだぜ?」
「……」
す…と目を眇め私は腰に差した短剣を抜いた。
燭台の僅かな明かりに仄暗く刃が照らされる。
─こいつは嘘を吐いている。
そう。私は知っている。
あの襲撃が誰かに手引きされたものだと。
四度の人生。エルナたんは必ず最初にあの場所で襲撃を受ける。
それはどんなに彼女が頑張っても避けられなかった。時間を変えようが日にちを変えようが、まるで誰かが背後から糸を引いているように。
そのすべての人生に置いて彼女は大切な人達を失くす。
もし身代金を目的とした誘拐を企てているのなら、援軍が到着する前にエルナたんだけを拐えば良いはずだ。しかし援軍の到着を待たずして盗賊団は逃げる。援軍の到着は襲撃後。その間僅かとは言え間はあるはずなのに、だ。
それではまるで最初から襲う事だけが目的だったと言わんばかりの行動だ。
それが一度ならば偶然とか偶々とかで片付けられるかもしれない。
けれど四度だ。どんなにエルナたんが未来を変えようとしても、まるであの結末へ導くように計画されている様に感じる。
「侮るなよ。嘘は許さない」
シュンと金属を研ぐような音が小さく牢屋内に響く。それと同時に男の左頬に火花が散った。刃先が石壁を摩擦したせいだ。
「…………!!」
パタッと何かが石床に落ちた音がして男の顔が苦悶に歪む。
「こ……ンのクソガキ…!!」
男の顔に脂汗が浮かぶ。男の左耳からだらだらと鮮血が流れ落ちた。
「心配するなちゃんと耳は付いてる。少し削ぎ落としただけだ」
男の双眸は憎々しさを隠そうとはせず、痛みに顔を歪めたまま私を射殺さんばかりに睨み付けてくる。
そんな視線は痛くも痒くもない。
「もう一度聞く。誰に依頼された」
「だから知らねぇって──!」
激昂した男が吠えた瞬間、宙に舞った何かがポトリと落ちてきた。男の膝の上に。それは人間の耳─男の左耳だ。
それを目にした男は痛みと私への怒りが合わさり獣のように唸り声を上げた。
「─テメェ!殺す!嬲り殺しにしてやる!!」
「……」
いかにも頭の悪そうな物言いに溜め息もでない。
暫く喚き続けた男は肩で息をしながら血走った目で拘束された手足を蠢かせた。金属の音がチャリチャリと牢屋に響く。
「…時にお前、知っているか?人間はこの世で最も拷問に適した体の造りだと」
男は怒りからかフーフーと息を吐きながらこちらを睨み付けたままだ。
「人間には手足の指が全部で20本だ。そして次は手首、足首。肘、膝、腕、股…そして耳。一つずつ切り落としていけば長い時間拷問は続く。だが目は抉らない。暗闇はある意味救いだ。見えないことで恐怖が和らいでしまう。己の体から一つずつ落ちる部位を見て恐怖を感じてもらわなければ拷問には成り得ない」
つらつらと語られる言葉に男の顔が引き攣ってゆく。
「最後は舌だ。焼けた鉄の杭を食してもらおう」
「なんだ…!なんなんだテメェ!?─おぃ!テメェ等何で起きてこねぇんだよ!!」
そこで初めて男は仲間が全く起き上がらないことに気が付いた。起きる訳がない。この牢屋に入った時に残りの男達には見張りの兵士と同じ睡眠魔法で眠らせた。私が話したいのは頭目のこの男だけだったから。
後はこの牢屋のみ防音の膜を魔法で張っているのでどんなに騒いでも外には聞こえない。
「さて、始めようか。─あぁ、心配しなくても殺したりしない。鉄の杭を食してもらった後は私が完全に元通りになるように回復魔法をかけてあげるからね。
─そしたらまた最初から始めよう」
終始無表情で話していた私はこの時最後ににっこりと微笑んだ。
「うん。割りとあっさり吐いたね」
静まり返った牢屋に呟きが小さく響いた。
男は拷問には耐性がなかったのか割りとあっさりと口を割った。私の知りたかった事はちゃんと聞けた。とは言えこの男もはっきりとした事は知らず、依頼人が男なのか女なのかも覚えていなかった。と言うよりも解らないようだった事から相手は恐らく認識を惑わす魔法を使っていたのだと思う。
そして目深に被った外套の隙間から終始首から下げた何かを握り締めていたそうだ。
「さて、さっさと帰らなきゃ」
指をぱちんと鳴らせば防音の膜がパンとシャボン玉のように弾けて消えた。同時に盗賊の頭目に見せていた幻術も霧のように霧散して消える。
実は最初から幻術をかけていたのだ。
なのでお耳は飛んでません。
踵を返した瞬間、牢屋の隅で壁を背に誰かがこちらを見ていたことに初めて気が付いた。
驚きはなかった。だってこいつなら睡眠魔法をレジストする事も可能だと思っていたから。
「──君、見た目とは逆で結構えげつないね」
苦笑しながら声をかけてきたのはテオドールさんだった。
ラピスはエルディアナのためなら鬼になれます笑
誤字脱字ありましたらお知らせください(*^^*)




