13・伯爵様の提案とお菓子
「これは……アーチェス」
「…っ、あぁ…」
神妙な顔つきで伯爵様は公爵様に視線を寄越した。
それに答えるようにこくりと頷いた伯爵様。
「取り敢えずこの話はこれで終わりにしようか。ラピスには後で私から説明するよ」
それでいいね?と公爵様は顔を覗き込んで微笑んだ。こくりと頷くと「では、話を戻そうか」と伯爵様に向き直った。
実は私が目を覚ます前、公爵様と伯爵様は別のお話をしていたのだけど、偶々起きてきた私の実力を見よう!って提案とその話し合いの内容が一部一致していたそうだ。
「実はジョシュアのところから二人ほど派遣してもらおうと思ってね」
伯爵以上の爵位を持つ貴族は私兵を持っているのが常識らしいが、その公爵様の私兵から半年ほど前から領内を嗅ぎ回る者が居ると報告があったそうだ。
自分の警護は心配ないが家族にも念のため、と言うことで伯爵様のところで誰か手練れの者を派遣してほしい旨を伝えに来たそう。
杞憂であればそれでよし、そう考えていたのだけど、道中の襲撃で憂いは確信に変わった。
このままでは家族に危害が及ぶかもしれない、と焦っていた矢先に私の模擬戦が行われ兵士達も含め実力のほどを確認できたので候補を絞れたようだ。
て事はギヴソンさんとテオドールさんは派遣候補なのか。
「決めるのは君達なんだけど、良かったら引き受けてくれないか?」
「おぅ、お前達で好きに決めな。ちなみにコイツんちの飯は旨いし、地酒も旨いぞ!」
ニヤニヤと伯爵様が振り返ると、二人は目を合わせて頷き合った。
「私でお力になれるならば」
「俺も行かせてください」
「よし!二人とも、俺の親友を頼むな」
出発は早い方が良いが無理を言っているのは此方なので、と後でその件については伯爵様を挟んで四人で話し合うようだ。
エルナたんに護衛が就くのは嬉しいな。二人には身を粉にして是非とも頑張ってもらいたい。
「で、だ。この二人が抜けるとうちの戦力も落ちちまう。そこでお嬢ちゃんに頼みがある」
「?」
首を傾げると伯爵様がニヤッと嫌な感じに笑った。
「お嬢ちゃんは毎日あの山迄修行に来てるんだろ?だったらあの山からここまでの4㎞なんて誤差みたいなもんだよな?」
4㎞往復8㎞やぞ。誤差ってなんじゃい。
「毎日じゃなくても構わない。うちの奴等を鍛えてくれないか?別に指導してくれって言うんじゃない。今日みたいに突然現れて彼奴等をボコボコにしてやって欲しい。彼奴等も一応は軍人だ。幼い子供にやられたまま心が折れるような柔な奴はうちには居ない。発破って意味でもお嬢ちゃんは良い起爆剤なんだよ。勿論只でとは言わん!給料も、ついでに菓子もつけるぞ!」
お菓子!
ま、まぁ別にすぐそこだし?それに毎日通ってるもんね!伯爵様も領地の境界線越えたこと何にも言わないみたいだし、やっても良いかな?ふへへ。別にお菓子に釣られた訳じゃないもん。
「ラピス?お菓子なら私が沢山持ってきてあげるわよ?だから引き受けてはダメ。ラピスは女の子なんだから」
お菓子に釣られている私にエルナたんが天使の微笑みでクッキーを差し出す。そのまま口元までクッキーを近付けられエルナたん手ずからお口へ。迷わずパクッと食いつく私にエルナたんが微笑む。その笑顔から「ダメよ?」と言う圧を感じた。
でもなぁ~…。
ダメって言われても今の私には必要なものもここにはあるわけで…。
嫌われたくない。怒らせたらどうしよう…。そんな風に思いながら
意を決して言葉を紡いだ。
「…あのね、私ね、もっと強くなってエルナたんを守りたいの。いつも魔物や動物や岩とかで特訓してるけど、それには人間みたいな悪意や意思がないから何となく勘で倒せるけど、人間相手じゃ多分うまく立ち回れないと思うの。対人間でも動けるように伯爵様のところで特訓しちゃダメ…?」
話ながらチラチラとエルナたんの顔を窺えば、彼女は真剣な顔で私の言葉を最後まで聞いてくれて、溜め息を溢した。そして困ったように微笑みを浮かべて「わかったわ」と言った。
「ほんと!?」
「ええ。但しロリコ─こほん。変な人が居たら全力で打ちのめすのよ?」
「わかった!フルボッコにするね!」
ん?今ロリコンて言いかけたような?それよりも…。
わーい!エルナたんが許してくれたー!
「わ~…残念だな。俺も君と特訓したかったけど、仕方無いかぁ」
テオドールさんが残念そうに口にすると「そんなこともないよ」と公爵様が声をかけた。
「ラピスは何れエルディアナの専属護衛になるからね、そしたらラピスと特訓し放題だよ?」
あ!そっか!エルナたんの専属護衛にって公爵様が言ってくれたんだった!て事は…あれ?伯爵様のところで特訓出来なくない?あれれ?
「ふふ…ラピスが混乱してるから、その話はまた後でね」
マドレーヌを両手に持ったまま首を傾げている私に見て公爵様が小さく笑った。
「ま、取り敢えず今日はうちに泊まっていけ!こいつらも今日は泊まるしな」
後ろから回り込んだ伯爵様がわしゃわしゃと頭を撫でる。
いやそんなことより!
エ、エルナたんとお泊まり…だと…!?
なんのご褒美だ!!!!
思わずハァハァしそうになって家の事を思い出した。無断外泊なんてしたことないから絶対怒られる!主に愛の重い父と兄に!
「君のご両親には私から早馬を飛ばすから心配要らないよ。ラピスも一筆書くかい?」
おぉぉ!公爵様良い人!!書きますとも!
伯爵様が執事のお爺さんを呼ぶと何だか豪華なレターセットみたいなのが運ばれてきた…。めっちゃ高そう…。
さらさらと公爵様が私の身柄を保護しているので心配ないことと、今日はハーマン伯爵家に泊まることを綺麗な字で綴ってゆく。最後にサインをして新品の紙を私に寄越してくれた。
「え~と…『お父さん、お母さん、お兄ちゃん…ラピスは今日は帰りません…伯爵様のところにお泊まりします…心配しないでね…お菓子を沢山くれるって伯爵様が約束してくれたので…お土産たくさん持って帰ります…ラピスより』…っと。出来ました!」
書き終えた手紙から顔を上げるとエルナたんが微笑ましげに私を見ていて、反対方向からはアラン様が驚きの表情で私の手紙を見ていた。ジロジロ見てんじゃねぇぞ。お?お?
お菓子に釣られるチョロインなラピスでした笑
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読んでくださる方がいるんだなぁ…と思うと書くのも楽しいです(ФωФ)
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