107・ラピス、疑われる
ジークがふたつ目のプリンを堪能していた時、突然公爵様がやって来た。とても緊迫して慌てた様子でエルナたんに走りよる。テオや使用人の人達が困惑した表情ながらも「お帰りなさいませ」と頭を下げているので何処かにお出掛けしていたのかな?
「お帰りなさいませ、お父様。どうかなされたのですか?随分とお早いお帰りですが…」
きょとんと可愛らしく目を見張ったエルナたんを目にした公爵様は見るからにほっとした様に肩から力が抜けてゆく。
ちなみにエルナたんの影になって居るのか公爵様は私に気が付いていない模様。
「エルディアナ…良かった。何事も無かったようだね」
「…? はい…」
不思議そうに公爵様を見上げるエルナたんに、公爵様が「実は…」と口を開いた内容に私は思わず噎せそうになったよ。だって…。
古竜が人里に降りて来て王都で旋回した後、西に向かって飛び去ったので公爵様はエルナたんの身を案じて帰ってきたそうだ。
そうだった。古竜は山から降りてこないんだった。ヤバイ。連れてきちゃったよ。いやいや、誰もジークの姿見てないしバレないバレない!もーまんたい!!
よもやこの足元でプリンぺろぺろしてるモコモコが古竜だなんて誰にも解るはずないし。
ちょっとドキドキして身体を小さくしてる私とは裏腹に、ジークは短い尻尾をブンブン振りながらプリンに夢中になっていた。この駄犬め…。
─ん?あれ?けど公爵様のお話だと公爵様は王都に居たって事だよね?王都からここまでそれなりに距離がある筈なんだけど…ジークの飛ぶ速度は結構早かったし、馬車や馬に乗って追い付ける筈ないんだけどなぁ…どうやって移動したんだろ…?
「私達ずっと外に居ますけど…。テオドールは何か気が付いた?」
「いえ。特には」
そんな物は見ていない、とふたりが口にすると公爵様は心底安心したように息を吐き出した。
「もしかすると何処かで進路を変えたのかもしれないな…」
そんな風に口にしながら公爵様は椅子に腰を下ろす。いつの間にか椅子がもう一脚増えてた…。あ、さっきの給仕さん、やりきった顔してる…さすが公爵家の給仕さんだ。音もなく椅子をセッティングするとは…やりおる。
「ところで、今日はどうしたんだい?珍しいね、エルディアナがこの時間にお茶を飲むなんて。いつもはテオドールに剣術指南を受けている頃だろう?」
「今日は特別です。だってお客様がいらしたんですもの」
「お客様?」
「ええ」
エルナたんが私に振り向いてにっこりと笑う。あう!可愛い。じゃなくて、エルナたんの影に隠れていたけれどエルナたんが振り向いた瞬間、公爵様と私はバッチリ視線が合ってしまった。
公爵様は「おや…」と目を丸くさせている。いくら私が伯爵様に能天気の烙印を捺されていると言えど、この状況がよろしくないのは解る。
あ、ほらぁ…公爵様ニッコリ笑ってるのに目が笑ってない…。
「どうしてラピスがマルチスから遠く離れた我が家に居るのかな?」
「あぅ……」
目が怖い!圧が…!
「えっと…お、お散歩…で…」
思わず目を逸らして口にした言葉は大変に嘘っぽかった。
その証拠に公爵様は「ふぅん…」て…ほら、目が笑ってないよぉ。
その時、足元のジークが口許をぺろぺ舐めながら私を見上げてきた。お皿は空っぽになってる。
「きゃう?(どうかしたのか?)」
プリン犬はやっとプリン以外の言葉を発したのだけど、ジークと会話なんてしたら怪しまれる。どうしたら…ぐぬぬ。
「…きゃわん。わふわふーん(…別に我が古竜だと教えても良いと思うぞ?)」
「は?」
「きゃん!わふん、くぅ~ん…(ラピスの言う『エルナたん』とはこの娘の事だろう?だったら別に良いのではないか?それに…)」
ジークが何か言いたげに視線を動かす。その先にはテオがジークと私を見て首を傾げていた。…私、犬と会話してる怪しい奴だと思われてる…!?
「わふ!きゃわん!(まぁ、皆ラピスの大事な者達なのだから我も力を貸すし、互いに正体を知っておる方が後々面倒がなくて良いのではないか?)」
「うわ…適当…」
此処へ来る道すがらジークにはエルナたんが正体不明の敵に狙われている事を教えた。ジークが協力してくれるなら私としてはとてもありがたいけど…。なのでジークが言うことも一理ある。とは言え、安易にジークの正体をバラしてもいいのかな…。エルナたんは勿論、確かに公爵様もテオも私は信頼してる。けど流石にこの毛玉を「実は古竜です!」と言っても私が頭おかしい人間だと思われないだろうか…。
「えっと…ジークって元の身体を小さくすることは出来る?こう…コンパクトな感じに…」
私は極力小声でジークに問い掛ける。
毛玉姿のままだと多分信じてくれないだろうし、かといって元の大きさに戻られたら大変な騒ぎになることは私にもわかる。元の姿を小さく出来るなら、見た目は古竜な訳なので多分信じてくれると思うんだよね…多分だけど。
「わふ!(出来るぞ!変身より簡単だ)」
尻尾をフリフリ得意気に胸を張るジーク。ジークが言うなら出来るんだろう。…よし。
ジークを抱き上げ、覚悟を決めて公爵様を振り返る。
あうぅ…二人とも笑顔なのにエルナたんと公爵様の目の温度差ぁ…。
「えっと…エルナたんはジークが古竜だって言ったら信じる?」
「信じるわ!」
間髪入れずにエルナたんははっきりと口にした。あまりにもキッパリと言い切るものだが私の方が面食らう。
「え、でも…」
「ラピスは私に絶対嘘をつかないでしょ?ラピスがそう言うなら例えそれが嘘だったとしても私はラピスを信じるわ。ラピスが白って言うなら黒だって白なのよ!」
ぐっと拳を握って声高らかに言い切るエルナたん。
ちょっと待ってエルナたん、後半なんかおかしくない?
ほら、公爵様もなんかポカンてしてる!
「……ラピス。本当にその子犬が古竜なのかい…?」
「きゃん!(そうだぞ!)」
公爵様の問いにジークが手をあげて答える。まぁジークの声は私にしか聞こえないから聞こえたのは鳴き声なんだろうけど。
公爵様に人払いを頼むとその場には私、ジーク、エルナたん、公爵様、テオが残った。
騒ぎになると困るので取り敢えず認識阻害の結界を張り、ついでに防音もしておく。
周囲からは私達が楽しくお茶を飲んでるように見えることだろう。
「わふん!(ではゆくぞ!)」
5mほど離れた位置にジークが駈けて行き、こちらを向き直る。
それを見ている私達だけど、公爵様はまだ半信半疑だ。
「ジークぅー、もういいよぉー!」
私の合図に尻尾をふりふりして応えたジークの体がピカッと輝き出す。私以外の三人は光を遮るように手を眼前に掲げた。私はもう何度も見てるので慣れてしまったけど。
ジークの体が光の中で大きくなって、小さい足がむくっと太くなり尻尾がしゅっと伸びて行く。大きさは馬程で止まり、光がすうっと消えて行くと、そこには初めて会ったときと同じ漆黒の綺麗な鱗に覆われた竜の姿のジークがいた。
ひぇぇ(´゜ω゜`)更新が遅くて申し訳ないです(´TωT`)
でも決して放置はしないので見捨てずに思い出したときにでも覗いてやってください…
早くラピスをおうちに帰してあげなくては…
誤字、脱字がありましたらお知らせください!助かりますので♡
ブクマ&評価ありがとうございます(ノ≧∀≦)ノ




