105・おじゃまします
私の『お手洗いかして』作戦は成功した。
何で『作戦』なのかと言うと…。
「あのね、お腹痛いからちょっと時間かかるかも…」
幼女らしく上目遣いで可愛く言ってみる。
ふっ、使える幼女は有効に使わねば。
「はい。お待ちしておりますよ」
にっこりと笑ったメイドさん─マリアンヌさんは私と視線を合わせて頷いた。
今私はマリアンヌさんにお手洗いに連れてきてもらっている。ジークはエルナたんの所に置いてきた。これからはジークにも色々と協力してもらわなきゃなので仲良くなってくれたらいいなぁ。
届かないのでドアノブを回してくれたマリアンヌさんにお礼を言ってお手洗いに入る。正直私の部屋の三倍はあった。貴族のお屋敷のお手洗いは私の部屋より広い…心のメモに綴っておこう。
背後で扉が閉じたので目的のものを探す。なければアウトである。
「あ、あった」
三メートル位上に換気用の小窓を見つけた。大人では通り抜けられそうにない大きさの小窓だけど、私なら余裕だ。
ジャンプして窓の縁に手をかけ、押し上げた窓からスルリと抜け出た。
「へっへっへっ…ヨユー!─っと、怪しまれないうちに用事を済ませなきゃ」
その場でお屋敷全体を探知魔法でスキャンする。おぉ、さすが公爵様のお屋敷…広い。頭のなかでお屋敷全体を見て行く。生体反応だけを観察していると皆それぞれ動き回っている。忙しくお屋敷の中を移動してるのはメイドさんかな?そんな中、全く動かない生体反応がひとつあった。三階の東側の部屋から二つ目の広いお部屋だ。
─うん、多分この部屋だ。
私は一度地面に降りて屋根の上までもう一度ジャンプして登った。それから気配を消して素早く東の目的の部屋の窓まで移る。
目的の部屋の外にはバルコニーがあり、風を通すためなのか広く開け放たれていた。
「おじゃましまーす…」
何となく小さく挨拶をして部屋に踏み入る。
部屋は薄いコバルトブルーで纏められていて、部屋の主の好みなのか調度品もセンスが良い。その中に天蓋付きの大きなベッドがあった。
「ふぉぉ…!」
ベッドの中で眠る人物を見て思わず声が漏れてしまう。
だって、エルナたんにそっくりなんだもん!いや、正確には私の想像する大人になったエルナたんだ。
「─ハッ!見とれてる場合じゃない。えーと…」
ベッドによじ登りレーシアさんのおでこに自分のおでこをくっつける。
エルナたんのママ、確かレーシアさんは謎の現象で眠ったままの状態だ。王都からの帰りに馬車の事故に遭い、外傷がないのにも関わらず眠ったままなった。
呪術によるものなのか何なのか原因は未だ不明…。公爵様は何とかレーシアさんを目覚めさせるため、情報を探し続けている。
「あー…良かった。精神体は身体の中にちゃんとある」
レーシアさんの身体を『検査』してみると確かに外傷はなかった。
やっぱり問題は精神体の方にあるみたいだ。
原作の小説だと今から2年後、聖なる力に目覚めたかもしれないクソビッチヒロインマリエルがエルナたんのママの現状を聞いて何を思ったのかレーシアさんを目覚めさせるため治癒魔法を使う。結果レーシアさんは目覚めた。文字通り、目覚めた。そう、目覚めただけだ。
レーシアさんは身体だけ目覚めただけで、喋ることもなく人形のように目を開いてただ座っているだけの状態になった。
公爵様は愛する奥さんが目を覚ましただけで感激していたがエルナたんはそうじゃなかった。
─『こんな…眠っていた頃と何が違うと言うの?』
その言葉にマリエル信者は、怒ってエルナたんを悪者扱いし出す。
実際私からすればそれは間違った方法で無理矢理目覚めさせたのだから、クソビッチの魔法は失敗したも同然である。エルナたんは何一つ間違ったことは言っていないのだ。
人の身体の中には魂がある。言わば命である。けれど魂は魂で、その中に個人の精神体も一緒にあるかと問われればそれはNOだ。命は命で、精神体とは違う。二つは隣り合ったものだけど、決してひとつではない。精神体が起きるのを拒否してるのに身体だけを目覚めさせてしまうとバランスを保っていたそれらがずれてしまう。無理矢理起こされれば精神体は魂から切り離されてしまうのだ。
精神体が迷子になってしまうとそれはもう廃人と同じ。だからエルナたんは納得できなかったのだと思う。
「それにしても本当にエルナたんにそっくり~…」
余りに綺麗なものだから見惚れてしまったけど、目的を忘れちゃいけない。
空間魔法の中からとあるものを取り出す。後はそれを見付からない場所にこっそり隠せば完了だ。
隠す場所はなるべく見付からない場所がいい。最悪見付かっても捨てられはしないだろうけど警戒されて場所を移されたら困るからなぁ。
「あ、ここがいいかな」
ベッド脇の小さめのチェストの下段の引き出しを引き抜き、奥に手を伸ばしソレを置いた。
「絶対に迎えに来るから、待っててね」
そう声をかけると引き出しの奥でソレ─ペンダントトップは返事をするようにキラリと光った気がした。
ペンダントトップはジルに貰った物で、あの後シーナちゃんに頼んで私に似合う様に作り替えて貰ったものだ。流石にあのデザインだと大人になっても何か似合わなさそうだったしね…セクシーな大人の女性じゃなきゃシーナちゃんの洗練されたデザインは似合わない気がする…。
引き出しを元に戻し、急いで戻った私は何食わぬ顔でお手洗いから出る。
もちろん内側からノックしてドアを開けて貰ったのだけど、開いた扉の向こうには人集りが出来ていて、驚いた私はポカンと口を開いたまま大人たちを見上げた。
「きゃー!本当にお小さい!」
「お嬢様の仰られた通りだな」
「ほらほら、皆様!驚いておられるではありませんか!」
「あぁそうでした!ラピスお嬢様、我等使用人一同、心よりお礼を申し上げます!」
全員がバッと頭を下げる。中には涙ぐむ人までいて何が何やら解らないので私は首を傾げることしか出来なかった。
お礼?なんのことなのか解らない。はっ!数ヵ月前の盗賊やっつけた事か!?
「ラピスお嬢様と出会われてエルディアナお嬢様は以前のような…いえ、それ以上に明るくなりました。ラピスお嬢様の事をお話しするお嬢様は本当に嬉しそうで幸せそうで…すべてはラピスお嬢様のお陰でございます。誠にありがとう存じます」
はえ?私と出会って?
あ、そっか。ループ直後のエルナたんをこの人達は見てきたのか…。でも─。
「エルナたんはずっと明るくて優しくて可愛いよ?」
「──!…そう、ですね…。ラピスお嬢様の仰る通りでございます…!」
思ってる事をそのまま口にすると、何人かの人が口を押さえて涙を堪えるような素振りをする。
─初めて会ったときのエルナたんは表情が無だったけど、お話しすると物凄く周りの人を気遣う優しい人だと思った。小説じゃ解らなかったらけど、エルナたんは本当に優しいのだ。笑顔を見せなかったのは見せられるほどの余裕が心になかっただけだと、今のエルナたんを見ていると解る。
エルナたんは本当は強くてカッコ良くて淑女の鑑で、いつもお花が咲くみたいに笑う優しくて可愛くて…そう、女神のような存在だ。
この世界の聖星教はエルナたん教に改心するべきだと本気で思ってる。
うんうん、そうだ、エルナたん教を興そう。
「ちょっと、皆様!退いてくださいませ!」
私が新しい宗教を興そうとしていると聞き覚えのある声が人集りの向こうから聞こえてきた。
あばばばば!!((( ;゜Д゜)))
長らく更新できずに申し訳ありません!…忘れられてそう…_ノ乙(、ン、)_
私生活がちょっと慌ただしかったので更新遅れてしまいました(´д`|||)
落ち着いてきたので、相変わらず亀更新ですが頑張ろうと思います!(*´pωq`)♡
誤字、脱字がありましたらお知らせください。助かります!(*´ω`*)
ブクマ&評価ありがとうございます!(*^¬^*)




