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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

れんれん異世界転生

初投稿です。どうぞよろしくお願いします。

異世界転生や魅了魔法が既知ならこうなるのでは?と考えました。

悪役令嬢可愛いなぁと思って書いてみたくなりました。

似通ったお話が存在していたら申し訳ありません。

出来心からのふんわり小話なので、あまり粗をつつかず、軽い気持ちでお読みください。


※※※流血、欠損、男女問わない暴力がありますのでご注意ください。


 その日、久々に友人と集って穏やかなティータイムを過ごしていた公爵令嬢ヨランダ・クレーンプットは、まさかの闖入者に文字通り目を丸くした。常日頃から完璧な淑女と称賛される鉄壁の感情コントロールが制御を失いそうになる。目だけでなく口もぱっかり開いてしまいそうだったが、寸でのところで保つことが出来た。

(あっぶな……)

 これ以上の失態をせぬよう、慌てて、しかしながらそれと気付かれぬよう、すっかり落ち着いた所作で扇子で口元を隠した。

 心中は大パニックであるのだが。

(オーケー、ヨランダ。まずは今一度確かめなくてはならないわ。落ち着いて対処しましょう)

 先程から足首が熱くて堪らない。

 気合いを入れるために、扇の中で小さく溜息を吐く。それからパチンと閉じて、計算された微笑みと声色でもって問い掛けた。


「まずはご機嫌よう、殿下。恐れながら、あえて前口上は省かせていただきますわ。それで、先程おっしゃったこと、もう一度確認させていただいてよろしゅうございますか?」

「ふん、何度でも言ってやろう。貴様との婚約は破棄だ! 貴様のような性根の腐った女は我が妃に相応しくない! 俺に相応しきはこのマリータ・スミッツだ。よって宣言する。俺はマリータを新たな婚約者とする!」

 可憐な少女——マリータ何某とやらの肩をしっかりと抱き寄せて、アードリアン・フォン・ドンブルフ王子は堂々たる態度でのたまった。


 ヨランダは思った。マジか、と。


 ところで、この令嬢やたらと心の声がフランクだとお思いではなかろうか。

 実はというか、やはりというか、ヨランダは異世界転生者なのだ。とはいえ、この世界において異世界転生者はまったく珍しいことではなく、ひとつの村に一人の転生者がいると言われるくらいのことだった。

 そんな世界であるため、ヨランダはいわゆる前世の記憶を持ちながらも、公爵令嬢としての日常もこなすことが出来るよう育ててもらった。これもよくある話で、ほとんどの転生者は過去の自分と折り合いをつけて、この世界での生を享受しているのだ。


 閑話休題。

 ヨランダはたった今突き付けられたアードリアンの所業に気が遠くなりそうだった。よくよく見れば、王子の後ろには側近たちも揃っており、事態が想像以上に悪いことが伺えた。

(うわぁあん勘弁してよー!)

 リアルに泣きそうになりながらも、表面上は表情を崩さず、ヨランダは身に付けていたブレスレットに手を這わせてそっと魔力を流した。

 宣言の後、王子と側近たちはヨランダがいかに性悪か、どんな風にマリータを傷付けたかなどをあげつらね、その間マリータは小さく震えながら涙目で王子に縋り付いていた。

 一方的におかしな責めを負わせる彼らに、黙っていられないのはお茶会に同席していた友人たちだ。当然義憤に駆られ言い返そうとするも、ヨランダは視線で制して手出しを禁じた。戸惑う友人たちに申し訳なく思いながら、ブレスレットを掴む手に力を込めた。足首の熱も上がってきた気がする。

(早く……早く誰か……)

 焦る気持ちをじっと耐えた結果——


「ヨランダ、なんぞあったか?」

「……うっそでしょ」


 取り繕うことが出来ず、ヨランダは小さく小さく言葉をこぼした。

(いちばん凄いのきちゃった……てか、なんでいるの!?)

 ある種の絶望感が押し寄せたが、それを必死になって押し殺して礼を取る。周囲もそれに倣った。ちなみに、残念ながら王子側の面々はポカンと突っ立っている。いよいよまずいとヨランダは冷や汗が止まらない。

「ご無沙汰しております、マルハレータ皇太子妃殿下。お目にかかれて恐悦至極に存じます」

「よいよい、そう堅苦しくするな。ちと野暮用で里帰りしたまで。そこへヨランダからの緊急アラートがあったのでな。折り悪く父も母も即座の対応が難しかったゆえ、王命にて臨時担当者にしてもらった。可愛いそなたの窮地に是非とも臨場したくてな」

 ニコニコと笑いながら言うのは、アードリアンの実の姉姫であり、一昨年近隣の皇国皇太子へ嫁いだマルハレータ皇太子妃だ。

 非常に見目麗しく、たおやかな所作で自国だけでなく諸外国からも人気のある姫であるのだが、あまり知られていない、秘密と言ってもいい事柄がある。


「む?」

「——っ!」

 マルハレータが訝しげにアードリアンの方へと目を向けたため、ヨランダは思わず身を竦ませた。

 王子はというと、何故か現れた姉にいささか面食らっていたが、自分に意識を向けられたことから気を取り直し、朗らかに話しかけた。

「姉上、久しくしておりました! ちょうどよい、紹介したい人がいるのです。この——」

「弟よ、いつアンクレットをはずしたのだ?」

「は?」

「いつと聞いている」

「は、ええと、アンクレット? そういえば学院に入学した頃にメンテナンスではずしてから着け忘れて——」

「愚か者めが」


 ゴキン!


 鈍い音と共にアードリアンが吹き飛んだ。お茶会の場所が学院の庭であったため、王子の身体は植え込みをなぎ倒しながら止まった。


 マルハレータ王女の秘密——それは、外見にそぐわず非常に苛烈な質だということ。


 その激しさは両親である国王夫妻をもってしてもドン引きであり、王女の地雷を踏み抜いた日には、首と胴体が繋がっていたらラッキーと言わしめる。しかも手を下すのを人任せにせずに、自ら腕を奮う豪腕であった。『麗しの処刑人』とは、知る人ぞ知る二つ名だ。なお、彼女の夫たる皇太子は「そこが良い」らしい。


「貴様らもとんだ怠慢だ」


 その言葉と共に、側近たちの片腕や片足があっという間に斬り飛ばされていく。ある者は痛みにのたうち回り、ある者は耐え切れず気を失った。

 一部始終を目撃したヨランダと友人たちは、あまりの出来事に理解が追いつかず、ただただ硬直するしか術がない。

 そんなヨランダたちを気にもかけず、マルハレータはまさしく絶対零度の視線でマリータを見た。惨劇の傍らにいた彼女は、あちらこちらに鮮血を染み付けて茫然自失の状態だった。


「そこな小娘よ、名乗れ」

「ぁあ……あ……あ……」

「名乗れと言うておる」


 パァン!


 マルハレータに平手打ちされたマリータは、勢いに負けたのか倒れ込んでしまった。そんなマリータの髪を掴み上げ、王女は今一度問いかけた。


「名乗れ」


 手加減なく引っ張られた頭皮が痛い。痛みを訴えたいが、名乗らなければまた殴られる。

 そのことを確信したマリータは震える喉に力を入れて、なんとか望まれた言葉を絞り出した。


「ま、まり、マリータ・スミッツで、す」

「そうか。ならば——『マリータ・スミッツ、そなたが為そうとしたことをすべて語れ』」


 それからマリータが流暢に述べたことは、集約すれば『入学式の日に前世の記憶を取り戻した。ここは乙女ゲームの世界だから、攻略対象である王子を始めとした男性たちと一緒に、悪役令嬢を断罪して逆ハーレムエンドを目指していた。悪役令嬢がなにもしてこないから、仕方なくいじめられたと嘘をついた』とのことだった。

 途中に隠しキャラが一番の推しだとか、一部の攻略対象と肉体関係があるなどといったことも発覚したが、もはや余談だろう。


 ひとしきり語った後、マルハレータは再び問いかける。

「魅了魔法はどうやって使っていた?」

 しかしマリータは尋問を受けている最中だとは思えない、キョトンとした表情で、

「魅了……? そんなの知らない。目と目が合えば皆わたしを好きになってくれる」

「ゲーム転生、半無自覚で指向性か。まだ軽微、か」

 美しい形の眉をぎゅっと寄せてマルハレータは呟くと、おもむろに振り返った。マルハレータの登場に目を奪われてばかりだったが、臨場には国王陛下直轄の衛兵たちが随行していた。

「衛兵、ここまですべて記録したな?」

「はっ! 漏れなく記録されております」

「ならばよし。続けて記録せよ。ドンブルフ王国国王陛下名代、マルハレータ・フォン・ドンブルフとして宣言する。王国法により、禁術『魅了魔法』の保持および行使をしたマリータ・スミッツの人権を剥奪、魔術研究所検体とする。瞳に力があるようだ。目隠しをせよ。魅了魔法にかかったアードリアン王子以下側近たちは、状態を確認し、魔法に晒されて以降の言動に応じて沙汰を下すとする。また、状態異常反射アンクレットのメンテナンス以降、王子のメディカルチェックを担当した医療魔術士をすべて捕らえよ。彼奴らも怠慢だ。責任者にも何故こんなことが起きたのか、再発防止策を添えて陛下に説明させるように。……波及範囲も調べねばならんな。学院で全検査も実施せよ。以上」




 ここからの処理はつつがなく、粛々と進行した。

 細かい経緯や理由は長くなるため割愛するが、まずアードリアン王子は王族の資格無しとして身分剥奪の上で生涯幽閉となった。側近たちも王子と似たような状況のため身分剥奪。その後は幽閉、放逐、病死のいずれかになった。王子担当の医療魔術士たちは、簡単に言えば国家転覆に近いことをしでかしたとして漏れなく処刑、または研究所の検体になるべく人権を剥奪された。医療魔術部責任者はなにが起きていたか知らなかったようで、しかしながら管理不行届きで降格。魅了魔法の波及は、マリータがある意味真面目に、攻略対象者のみに魔法をかけていたことから最悪は免れた。事件の目撃者たちには箝口令が敷かれ、破った者は厳しい処罰が及ぶことが約束された。


「なにも出来ず申し訳ございませんでした」

「よい。過ぎたことよ」

 事後処理からやや落ち着いた頃、マルハレータとヨランダは二人きりでのお茶会を開いた。

「いいえ。今思えばサインはあったのです。わたくしが半年の短期留学に発つとき、たった半年だからと、会えない時間を楽しんでみようと、手紙のやり取りもしない約束をしました。ですが、期間中にわたくしの誕生日があったので、お祝いのプレゼントだけは送るとおっしゃってくださいました。ですが来なかった。きっと新しい生活にお忙しいのだと流さずに、どうしたのかと、何かあったのかと、本人でなくとも周りに問い合わせれば良かったのです! あの日、帰国のご挨拶を差し上げるのを、用があると時間をずらされたことに疑問を持てば! だって、帰国日は最初から決まっていたのに……そうすれば、もっと、少しでも早く……」

「ヨランダ、詮無い。彼奴は反射アンクレットをはずした。この国が、世界が、時には文字通り命をかけて蓄積してきた叡智を軽んじたのだ。残念だが、結果はさほど変わらんように思う」

「……そういうトコ、戦国武将のお嫁さんらしいですね」

「民主主義に親しんだ、優しさと柔軟性をもつそなたにはなかなか辛いか」

「無理ゲー感凄すぎて。血とか欠損とか性癖じゃありません」

「王族を危機に晒すことは、基本的に問答無用で極刑だ。我らが先達のおかげで、今の世に貴人が毒殺や暗殺で死ぬ確率は低いからな。その体制をとっている。この上王族に害意が及ぶなど、怠慢以外のなにものでもない。即処刑でよかったくらいだ」

「ハハハなにこのお姫様ちょー恐い」

「……泣いてよいのだぞ。今はわたししか居らぬ」

「……っう」

「惜しんでやってくれ。愚弟もそう遠くなく、時期をみて病死となる。わたしの分も泣いてやってくれ。わたしは泣くのが苦手でな……殿様の時も泣けなんだ」

 ヨランダはひりつく喉を呻らせて泣いた。止めどなく流れる涙は温かく、いやおうにも自分はこれからもこの世界で生きねばならないのだと痛烈に自覚した。


 ヨランダはアードリアンに恋はしなかった。しかし、積み重ねた親愛があった。救いたかった。こんなことで失うとは想像もしなかった。

 前世のヨランダはサブカルチャーに明るくなく、乙女ゲームもチーレムも内政チートもよく知らずに育った。スラングもテレビや友人経由で覚えたものばかり。今世になってから知ったことが多い。ただ、この世界で好き勝手やった転生者がいたことは理解した。

 公爵令嬢であるヨランダは、改めて婚約者が宛てがわれ、何事もなければ婚姻を結ぶだろう。それはパワーバランスを考慮された完全なる政略結婚だ。それを辛いとは思わない。今の自分の大事な義務だからだ。普通の女の子だった人生は既に終わっている。世界を支えることに憂いはない。そう育てられた。

 でも今だけ。

 今この時だけは、ただの少女のように、ひたむきに泣きたかった。





お読みいただきありがとうございました。


「そこな小娘」と「怠慢だな」という台詞が浮かび、ヒロインちゃんの首がすっ飛ぶシーンを思い描き、「おひめさまちょーこあい(ガクブル涙鼻水)」と悪役令嬢ちゃんが必死で自分の命を守るという構想から、バイオレンス物騒コメディになるつもりがどうしてこうなった。

側近たちはしめやかに爆発四散とか、王子は種馬枠とかも考えていた筈なんですが……。

戦国時代への偏見が多大にあると理解しています。

皇太子殿下は歴オタ転生者で、「歴史の目撃者やっべwwwだいちゅきィ(*´ω`*)」というしょーもない裏設定があります。

作者は悪役令嬢・悪役姫がとてもご贔屓です。

れんれん=恋恋、連連

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