体を乗っ取られてひどい目に逢う女の子の話
とある高校で長身痩躯の男子が悶々としていた。
(ああ。細川さん。いいなぁ……彼女をボクの自由にできたなら)
暗い情熱を抱く乃取 泰郎の視線には金髪ギャルが映っていた。
乃取 泰郎。いわゆるひとつの陰キャ。
あまりの不気味さで、いじめの対象にならないほどだ。
身長は高いがひどく痩せていて、高校生なのにほほがこけて顔色も悪かった。
前髪が左目にかかり、他人ごとなから視界が確保できるのか心配になる。
そんな彼がひそかに思いを寄せる女子。
細川優姫は泰郎と正反対の人間だった。
金色の長い髪。
整っているのはわかるが、素顔が想像できないほどの厚化粧。
大きな胸の谷間が見えるだらしない着こなし。
スカートは本来とめる位置より10センチほど上にあげ、ベルトでとめている。
だからちょっと動いただけで下着が見える。
アクセサリーは数多くピアスも右に三つ。左二つ。
典型的なギャルだった。
ハスキーボイスというより明らかにタバコでつぶれた声で馬鹿笑いをしている。
頭の中身もいささか不安。
そんな少女に恋をしてしまった泰郎だか、あまりの「すむ世界」の違いに恋をほぼ諦めていた。
ネットである方法を見つけるまでは。
とあるホテルで。
一糸まとわぬ姿の優姫はベッドでタバコをくゆらせていた。
祝日前夜であろうと高校生がいていい場所ではない。
「良かったよ。さあ。お小遣いをあげよう」
裸の中年男性が三万円を手渡す。
「わぁ。ありがとう。パパ。だーいすき」
タバコでつぶれたかすれ声で甘えた感じで言う。
もう何人と肌を重ねたかわからないが、あくまで少女らしい振る舞いをする。
鼻の下を伸ばした中年は満足そうにうなずく。
優姫も身支度を整えると二人でホテルを出た。
同じころ、泰郎も飛び出した。
自分の肉体から魂が。
高校生の娘が10時過ぎに帰れば親は怒る。
しかし優姫の両親はすでにさじを投げていた。
強く出ると暴力をふるう娘に対し、腫物を扱うようになっていた。
優姫は無言で自室へと引き上げる。
部屋着に着替えてベッドに腰かける。
「あー。きもかった。あのロリコンくそオヤジ、胸ばっかり吸いやがって。赤ん坊かよ」
肌を重ねた相手に悪態をつき始めた。
そしてタバコを口にして火をつけようとした時だ。
(もらうよ)
どこからか少年の声が聞こえた。
「え? なんだ? 今の……ウッ!?」
硬直する優姫。
(体が動かない? 声も出ないぞ)
(それはね、ボクがこの体の主導権をにぎったからさ)
(な…んだと?)
「聞こえなかった? それは……お。声が出る。完全にこの肉体を乗っ取れたな」
(乗っ取っただと?)
「そうとも。この体は今日からボクの物だ」
高笑いをする優姫。
いや、それを言うなら憑依して細川優姫の肉体を奪い取った乃取泰郎がだ。
「これからはボクが細川優姫だ。この体は自由にさせてもらうよ」
(てめえ……アタシの体をどうする気だ?)
「ふふ。悪いようにはしないよ。さて、手始めに」
泰郎の魂が入った優姫……ユウキは洗面所へと向かい、けばけばしい化粧を落としにかかる。
そして両親の部屋に行く。
月曜日。
細川優姫の変貌に誰もが驚いた。
長い金髪を黒く染め短く切りそろえている。
ノーメイクでアクセサリーも一切つけていない。
スカートの裾は膝にかかる正当な長さに。
そしておとなしい態度。
一言で言うなら「清楚」だった。
さらにホームルームでは発言の許可を得たうえで「真面目になった」と宣言した。
「私、反省しました。これからは清楚な女性になるよう頑張ります。両親にも心を入れ替えたといいました」
タハコでやられた声なのに柔らかく聞こえる。
教師もクラスメイトも驚いたが、まともになったのならとひとまずは受け入れられた。
(てめー。何勝手なことを)
優姫の体内で本来の持ち主が抗議する。
(言っただろ。この体は僕がいただいた。好きにさせてもらうと。そう。僕好みの清純派になるんだ)
最初は怪しまれたものの次第にその柔らかさで受けて入れられた優姫はすっかり清楚な印象が付いた。
泰郎は勉強できるので教師の評価もよくなり、いいことづくめに思えた。
しかし元の持ち主は肉体の主導権を奪われ、望まぬ生活をさせられ苦痛の日々だった。
完
あとがき
いくつか見た憑依などはほとんどがせっかく美少女ないし美人になりながら、男の習性のままということか下品なケースが多く。
それに対して懐疑的な僕でした。
望んで女性になったのならそこは理想の女性にしないか?
そう思って書いたのが本作です。
タイトル見てエッチなのを想像した人は残念でした(笑)
でも「体を奪われ望まぬ行動をとらされる」展開は嘘はなかったはずですし(笑)
そんなひどい奴なので実在の人物と同じ名前はまずいと思って タジャレでつけたのか乃取 泰郎。のとりたいろう→のっとりたい。
被害者の優姫は女性的な名前ならよかったので。
途中で思ったのが
「他者に憑依している間、魂の抜けた本来の肉体はどうなるのだろう?」ということ。
「主人公を幽霊にしとけばその問題も憑依できるのもクリアできる」と気が付いたのは半分ほど書いてからでした(笑)
かなり「憑依」のトレンドを無視してますが、こういうアプローチも変化球としてありかと(笑)
お読みいただきありがとうございました。
城弾