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レッド・ラム

 「なあ、"レッド・ラム"って、聞いたことあるか?」

東京23区の少し外側、M署管轄のある交番にて。時計は午前2時ちょっと過ぎを指している。深夜とはいえ染み渡る寒さに冬の足音を感じながら、小太りの警察官は相方にこう話しかけた。相方はピクリと眉を上げて彼の方を見ると、ゆっくりと口を開く。

赤いラム酒(red rum)?」


「いやあ、意味は知らないけど」

「きっとそうさ」

 話しかけられた方の警官はもう一人とは対照的に引き締まった体つきに精悍な顔立ちをした男だ。彼はゆっくりとパイプ椅子の背もたれに体重をかけると、小さく伸びをする。

「どうして?」

「逆から読んだら殺人(murder)だろ。英語で」

「はぁーなるほどな。そんなことよくすぐ分かるな」

 小太りの警察官の口調はどこか間の抜けた様子で、"自分が今何を言ってるのかに無自覚であることを差し引いても"緊張感に欠けると判断せざるを得なかった。


「有名なネタだよ。聞いたことない?」

 パイプ椅子に座って見上げる彼は気味悪いほどのしたり顔で答えた。

「また映画の話か?」

「よく分かってるじゃないか」

 小太りな方の警官はマグカップにコーヒーを注ぎながら、また始まったと言わんばかりの呆れ顔でため息をついて見せる。

「はあ……いや俺が話したいのは仕事に関係あることだ」

「ああ、そうかい。仕事熱心なのはいいこった……All work and何とやらだな」

もちろん彼はその文の続きを覚えていない訳ではなかった。ただ皆まで言ったところでこの痛烈な皮肉が相手(dull boy)には通じないと悟っていただけだ。


「近頃噂になってるんだ。レッド・ラムっていう腕利きの殺し屋がいるって話」

精悍な方の警官──宇佐美はじっとダルボーイ警官の方を見つめながらこう言った。

「……で、それはどんなやつなんだ?」

宇佐美はサディスティックに笑いかけると、期待した通りの答えが帰ってくるか楽しみながらダルボーイの返事を伺う。

「さあ、そもそも存在してるかどうか俺は怪しいと思うね」

 このとき宇佐美はパイプ椅子に腰掛けながらダルボーイ警官が手にするマグカップの底を見上げることを心底楽しんでいたが、そこには誰の名前もなかった。


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