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1分半の産声

 オーディションはまず、90秒以内で自己紹介の録音ファイルを提出するというものだった。台本があるわけでもなく、1分半の間何を話すかなど細かな指定は一切ない。ただ「元気いっぱいで愛嬌溢れる、高校2年生のアイドル」を勝手に想像して演じろというのだ。


 「いやあアイドルなんて言われても、あたし分かんないなあ」

「そんなにこだわらなくたって、とりあえず元気よくすれば良いんじゃないですか?」

「詩織はどういう風にやろうとしてんのよ」


「私は清楚系JKの子をやるので」

詩織は小さく咳払いするとおもむろに立ち上がり、履いてもいないスカートの、裾をつまんでカーテシー(一礼)。妙なウィスパーボイスで、

「皆さま御機嫌よう、(わたくし)、バーチャルアイドルの明神堂ハナと申しますわ」

「やば」

ヒッヒッヒと変な笑い声が漏れる。杉山や恵も漏れ出す笑みを収めきれずにいるようだ。


「ちょっとなんで笑うんですか」

「いやごめん、だって……いつもと違いすぎるんだもん」


っていうか、「清楚」ってそういう感じだっけ? お嬢様っぽければ清楚なのか? そもそもなんでウィスパーボイスなんだよ、ASMRでも撮るつもりか。


「気を悪くしないでよ、つまり上手いってことだから」

「そうそう、上手いよ」


納得したようなしていないような顔で詩織は言う。

「じゃ、真実先輩、小鳥遊ミカやってくださいね」


 おうよ、やってやろーじゃん。真実は少し息を調えると、腹に力を入れ、元気が良いとはどんな感じかと意識しながら言い放った。

「やっほー! 皆元気? 初めまして、小鳥遊ミカでーす! ……えっと、なんだ」

「好きな食べ物!」

詩織がヤジを飛ばす。

「焼肉です! カルビが好きです! 皆わたしにジャンジャン焼肉奢ってねー!」

「こらこらこらこら真面目にやりなさいって」

失笑を禁じ得ないメンバーたち。


「だって、他人のお金で焼肉食べたい……食べたくない?」

「そうだけど、アイドルキャラはイチゴとかパフェとか言うもんじゃないっスか」

「それはさすがにアイドル観古すぎでは? 今時のアイドルもそんなん言ってんの? 出身地はナントカ星とか、アイドルだからウンコしないとかそういうファンタジーはナシよ、ナシナシ」

「まあな……でもちょっとはキャラ作らない?」


「いやあ、作ってますとも。"焼肉が好きなアイドル"。実際の島木真実の好きな食べ物はレバニラ炒めと筑前煮と芋焼酎なので。焼肉も好きだけど」

真実はニタニタしながら答えた。

「ま、別に本気で受かろうってわけじゃないんだから好きなようにやろうよ。固定観念とかに縛られても楽しくないっしょ」


 90秒の自己紹介音声は挨拶と好きな食べ物、趣味の話でまとめることにした。あれだこれだと沢山詰め込める長さではないし、少ないことを詳しめに話した方が中身が濃くなるだろう。

「じゃ、録音しますか」

 なんだろう。誘われた時はそうでもなかったのに、いつの間にかノリノリな自分がここにいる。

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