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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
ラリアント防衛戦

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0088話

『わああああああああああ!』


 ラリアントの中に、歓声が響く。

 その理由は、ガリンダミア帝国軍に対して一方的に被害を与えてきたゼオンの存在だ。

 実際には致命的と言えるまでの被害を与えた訳ではなかったのだが、それでもとてつもなく大きな被害を与えたということになっていた。

 アランとしては、少々大袈裟なのでは? と思わないでもなかったのだが、これからガリンダミア帝国軍と戦うということを考えれば、少しでも士気は高い方がいいというモリクの判断により、このような……それこそ凱旋と呼ぶに相応しいようなことになったのだ。

 基本的に武器や魔法を含めて、探索者としての才能には恵まれなかったアランだ。

 士気を高めるためとはいえ、こうして英雄として祭り上げられることが嬉しくないかと言えば嘘になる。

 ゼオンのコックピットに乗っているので誰にも分からなかったが、その顔は実際には照れで赤く染まっていた。

 嬉しいが、照れ臭い。

 これが一種のやらせに近いということは、アランも理解している。

 それでも、嬉しいものは嬉しいのだ。


「とはいえ、こんなことが何回も成功するかと言われば、難しいだろうけど」


 コックピットの中で、自分に言い聞かせるようにアランは呟く。

 今回の奇襲は、向こうが予想していなかった……訳ではないだろうが、それでも初めてだったから、ここまで上手くいったのだ。

 ガリンダミア帝国軍も、まさか高度数キロという場所から奇襲されるとは、思ってもいなかっただろう。

 だからこそ、成功して相手に大きなダメージを与えることが出来た。

 だが、そのような手段があるということを向こうも知ってしまった。

 そうなると、次に同じ手が通用するはずもない。

 少なくても、向こうは同じ手でアランが襲撃してくるのを警戒しているのは明らかなのだから。

 もっとも、アランとしてはそれを残念に思いはするが、それでもどうしようもないとは思わない。

 奇襲の目的は、国境を越えてきたガリンダミア帝国軍に対してダメージを与えるだけではなく、奇襲を行ったことによって敵に警戒させるという意味もある。

 それこそ、ラリアント側としてはダメージを与えることが出来れば御の字といったところだが、それ以上にガリンダミア帝国軍の行軍速度を落とすことが出来れば、それで十分に効果を発揮しているのだ。

 王都からやってくる援軍が来るまでの時間を稼ぐことが出来れば、それで十分なのだから。

 ……とはいえ、それでもやはり籠城してガリンダミア帝国軍と戦うことを考えれば、向こうの戦力や食料が少しでも減っているのに越したことはないのだが。

 そんなことを考えながらも、アランはゼオンを動かす手を止めない。

 ラリアントの大通りを進み続け、やがて領主の館……いや、城に到着することで、パレードは終了する。

 実際にはここからモリクやその部下が色々と話すので、パレードそのものはまだ終わっていないが、アランがゼオンを動かしてパレードに参加するという意味でははパレードは終了したと言ってもいい。

 モリクとしては、今回の大戦果を挙げたアランに演説の一つでもして貰いたいというのが正直なところなのだろうが、アランはそのようなことは出来なかった。

 いや、あるいはやろうと思えば出来るのかもしれないが、出来れば遠慮したいというのが正直なところだ。

 大勢の前に出て演説をするような真似は、アランはやったことがないのだから。

 ラリアントの住人たちの前で演説をしようものなら、何を言えばいいのかすら分からなくなってしまうだろう。

 そうなれば、むしろ士気は下がると言ってもいい。

 だからこそ、アランとしては演説といったものは、慣れているモリクやその部下たちに任せることにした。

 実際には、モリクも元は騎士団の小隊長であって、大勢の前で演説をすることに慣れている訳ではなかったのだが。

 それでも今のように行動を起こした状態であれば、モリクに演説をしないという選択肢は存在しない。

 本人がそれを認めるかどうかは、また別の話だったが。

 ともあれ自分の出番が終わったアランは、ゼオンを城の方に移動させると、ゼオンを心核に……カロに戻す。

 

「ふぅ」

「ぴ?」


 手の中に戻ってきた心核が、アランに大丈夫? と鳴き声を上げる。

 人工知能のような存在たるカロではあったが、そのカロが存在するのはアランがいるからこそだ。

 もしここでアランが身体に不調を訴えるようであれば、雲海を率いるイルゼンやアランの両親たるニコラスやリアに何とか現状を訴えていただろう。

 だが、それは出来ない。

 カロはあくまでも心核であって、自由に動き回れる訳ではないのだから。


「安心しろ。俺は別になんともないから。ただ、ちょっとああいうパレードは初めてだったから、緊張しただけだ」


 カロの様子から、自分を心配しているのだと理解したアランは、己の手の中の心核に向かってそう告げる。

 そんなアランの様子に、カロも多少は安心したのか、『ぴ!』といつもより少しだけ元気が出たような鳴き声を上げる。

 

「取りあえず、今は疲れたから少し休むとするか。また明日か……場合によっては今夜にでも、出撃するかもしれないし」


 パレードはやったが、それにつきもののパーティのようなものはない。

 当然だろう。今はまだ戦時中なのだ。

 アランによって大きな被害を受けたガリンダミア帝国軍だが、それでも撤退をするということはなく、ラリアントの占領を諦めないのは確実だった。

 だからこそ、ゼオンの存在やモリクの演説によって士気を上げたら、ラリアントの住民はすぐにまた籠城戦の準備に戻る。

 パーティをやっている暇があったら、働けと。

 ここで働かなければ、その代価は命で支払うことになるとラリアントの住人は知っているのだ。

 よってアランもパーティに参加するといったようなことはせず、奇襲を行った報酬として数時間睡眠をとることを許可されていた。

 もちろん、それはまたいつでもすぐにゼオンでガリンダミア帝国軍を襲撃出来るようにという、ゼオンの考えも入っているのだが。

 アランが実際に戦った時間は、それこそ数分程度にすぎない。

 それでもここまで疲れているのは、それが体力的な疲れではなく精神的な疲れだからだろう。

 とはいえ、それは別に人を殺したということに対する後悔といったものではない。

 この世界において人の命の値段は軽く、アランも今まで何人も殺してきている。

 それでもこうして精神的な疲れがあるのは、やはり自分一人だけでガリンダミア帝国軍に攻撃をした、というのが大きいのだろう。

 人を倒すというだけであれば、それこそザラクニア率いるラリアント軍……いや、この場合は旧ラリアント軍と言うべきか。ともあれ、そちらと戦ってけいたが、そのときは自分以外にも大勢いた。


「ともあれ、眠いんだからゆっくりと眠るとするか」


 そう言い、アランは何が嬉しいのか、『ぴ』と鳴き続けるカロを懐にしまい、現在の寝床に向かうのだった。






 アランがベッドで昼から眠るという幸せな時間を楽しんでいる頃、その後始末をしているガリンダミア帝国軍は、多忙を極めていた。

 当然だろう。意気揚々とドットリオン王国への侵略を開始したと思ったら、いきなり襲撃されたのだから。


「それで? 具体的に被害としてはどのくらいだ?」

「一割……といったところかと」


 四十代ほどの男の問いに、二十代程の男がそう返す。

 四十代程の男は、ガリンダミア帝国軍でも三人いる大将軍の一人にして、この遠征軍を率いてるディモ・アルベニス。そして二十代程の男はディモの腹心の部下の一人、イクセル・ヤンゾン。

 他に天幕の中には何人もいるが、ディモの問いに答えたのはイクセルだった。

 それが、イクセルがどれだけディモの信頼を得ているのかの証拠だろう。


「一割か。……まだ、実際に戦闘も行っていないのに、それだけの被害が出るとはな」


 ふうううう、と。深く、深く息を吐くディモ。

 そうしながらも、握られた手の筋肉は張り裂けそうなほどに張っている。

 歴戦の勇士といった顔だったが、その顔も険しいものとなっていた。

 少しでも刺激があれば、いつ己の内に溜め込んだ怒りが爆発してもおかしくはない。

 そんな様子のディモだったが、それでもここで当たり散らしても意味はないと理解していたがゆえに、何とか怒りを押し殺す。

 猛将として名高いディモだったが、猪突猛進という訳ではなく、退くべきときはきちんと退ける冷静さも持つ。

 軍を率いる大将軍の地位を持つ者だが、本人も最前線で戦い抜いてきただけの実力の持ち主だ。

 顔に幾つも存在する切り傷は、ディモが今までどれだけの戦いを勝ち抜いて来たのを示していた。

 怒りを押し殺しているディモだった、そんなディモにイクセルは声をかける。


「安心して下さい。被害を受けたのは、そのほとんどが歩兵です。心核使いの被害は皆無ですし、騎士も数人の消耗です」

「……そうか」


 数人の消耗……つまり死んだということに、ディモは目を閉じて哀悼の意を示す。

 猛将ではあったが、ディモは部下を捨て駒として扱っている訳ではない。

 自分も最前線で戦うからこそ部下を大事にしており、部下たちからも慕われていた。

 そんなディモの様子に一瞥したあとで、イクセルは言葉を続ける。


「食料を含めた物資もそれなりに被害を受けましたが、ディモ様の許可を貰えればすぐにでも本国に連絡して補充の兵士や食料を送って貰いますが、どうしますか?」


 ざわり、と。

 イクセルの言葉を聞いていた者たちがざわめく。

 当然だろう。ラリアントを攻略している中で増援を求めたり、食料の追加を求めたりといった真似をするのであれば本国でも理解は得られるだろうが、まだ国境を越えたばかりで、ラリアントに到着すらしていないのだ。

 だというのにこの状況で援軍や食料の追加を求めれば、それはディモの評価にも影響してくる。

 大将軍という地位にいても、大きなミスをすれば降格させられることもあるのだ。

 それを考えれば、この時点で本国に援軍や追加の食料を求めるのは明らかな失点となる。

 だが……


「構わん。このまま戦えば、兵士の士気が下がるだけだ。であれば、今は俺がどうこうというよりも、そちらを重視した方がいい」


 あっさりとディモはそう告げるのだった。

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