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剣と魔法の世界で俺だけロボット  作者: 神無月 紅
ラリアント防衛戦

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0087話

 ラリアントを出発したアランは、そう時間が経たずにガリンダミア帝国軍の姿を見つけることに成功する。

 ただでさえ空を飛ぶというのは、地上を移動するのに比べて移動速度が速い。

 それがモンスターではなく、人型機動兵器たるゼオンであれば尚更だろう。


「思ってたよりも、大分多いな」


 遙か眼下の光景が映し出された映像モニタを見て、アランが呟く。

 高度五キロほどの場所だけに、地上を進んでいるガリンダミア帝国軍はゼオンの存在に全く気が付いている様子はない。

 ゼオンが空を飛べるという情報は当然知っているのだろうが、それがまさか高度五キロもの場所を飛んでいるとは完全に予想外だったのだろう。

 たとえ心核を使って空を飛ぶモンスターに変身したとしても、高度五キロもの場所を飛べるようなモンスターはそうそういない。

 ……もっともアランもこの位置からでは地上の様子を見るのにズームされた映像を見なければならなかったが。


「向こう千人単位くらいって話だったけど……これは下手をすれば万単位までいってるんじゃないか? ガリンダミア帝国の規模を考えれば、それはおかしな話ではないかもしれないけど」


 周辺諸国を侵略して国土を広げてきたガリンダミア帝国だけに、その戦力は当然のように多い。

 また、占領した国々の軍を吸収し、場合によっては徴兵すらしているのだ。

 それを考えれば、他に幾つも戦線を抱えたまま、こうして万単位に迫るのではないかと思えるほどの戦力を動員するのも、不可能ではないはずだった。


「俺にしてみれば、人数が多い……それもきちんと訓練された兵士じゃなくて、徴兵された一般人ってのは悪くないんだけど」


 徴兵されて訓練もしていない者というのは、波に乗っているときであればまだしも、自分たちが不利になったときは真っ先に逃げ出す。

 そして多くの者たちが逃げ出せば、当然のように指揮官の指揮も難しくなってしまい、混乱する。

 混乱すれば、よりアランが攻撃をしやすくなる。

 もちろん、それは全てが理想的に進んだ場合の話であって、全てがそう上手く進むとは限らないのだが。


「ともあれ、行くか。レオノーラがいない分、今は俺が頑張らないといけないしな」


 一瞬だけレオノーラのことを思い浮かべたアランだったが、すぐにそれを頭の中から消し去って作戦を実行に移す。

 空を飛んでいた状態から、真下に向かって急降下していく。

 ただでさえ十八メートルもの機体が落下していくので、その迫力は相当なものだ。

 だが、アランはその状況からさらにスラスターを全開にして、落下速度を上げる。

 高度五キロとはいえ、ゼオンの持つスラスターを使えば、その距離がゼロになるのはそう時間がかからない。

 真っ直ぐ下に向かって降下していくゼオンの姿は、当然ながらガリンダミア帝国軍の中でも感覚の鋭い者……聴覚、視覚、場合によっては嗅覚で気が付いた者もいたが、今の状況で気が付いたところで、すでに遅い。

 異常に気が付いて顔を上げた者が見たのは、上空から流星のように自分たちに向かって降下してくる、ゼオンの姿だったのだから。


「な……」


 何かが落ちてくる。

 そう言おうとした兵士だったが、それを言うよりも前にゼオンは行動に出た。

 急速に落下し続けたままで、ビームライフルを連射する。

 放たれたビームが地上に命中すると、命中した場所にいた兵士はビームによって消滅し、次の瞬間にはビームが命中した地面が爆発して周辺にいる者たちにも被害を及ぼす。

 そんな攻撃が、次々と起こったのだ。

 瞬く間に数十人……いや、百人を超えるガリンダミア帝国軍の兵士が死亡し、それに数倍する数の者たちが怪我をする。

 そして、ガリンダミア帝国軍にとっての不運はまだ終わらない。

 地上に向かって降下してきたゼオンは、間合いが近づくとウィングバインダーのスラスターや機体に備わっているスラスターを全開にして体勢を整え、次の瞬間には腹部の拡散ビーム砲を放つ。

 拡散されたビームの雨は、次々にガリンダミア帝国軍の兵士達を消滅させていく。

 拡散している分、一撃の威力はビームライフルよりも弱い。

 それでも触れただけで人を殺すには十分な威力があり、そんなビームの雨が無数に降り注いだのだ。

 一体何があったのか分からずに消滅してしまった兵士は、寧ろ幸運だっただろう。

 ある意味で運の悪かった兵士たちは、それこそ手足がビームによって消滅したり、焼け爛れたりといったようになって、気が付けば地面に倒れていたという者も少なくない。


「さて、後は……あれだな」


 空中に留まったまま周囲の様子を確認したゼオンは、馬車を見つける。

 それは、いわゆるお偉いさんが乗っているような箱馬車の類ではなく、食料や水、馬の飼料といったものを運ぶ荷馬車だ。

 ガリンダミア帝国からドットリオン王国に入り、その先にはラリアントしかないので、食料の類を補給することは出来ず、ガリンダミア帝国軍から持ってきた代物だ。

 食料がなければ、当然のように兵士は戦うことは出来ない。

 いや、多少無理をすれば戦うことが出来るかもしれないが、全力を出せないのは間違いなかった。

 そうである以上、ここで荷馬車を狙わないという選択肢は存在しない。

 ゼオンの頭を荷馬車にある方に向け、トリガーを引く。

 頭部から発射された無数の弾丸が、次々と荷馬車に命中しては破壊していく。

 ……荷馬車を牽いている馬は自分たちの牽いている馬車がいきなり破壊されたことで、混乱し、恐怖し、それぞれがあらぬ方向に走り去る。

 実際にはゼオンの奇襲があったときから、すでに馬たちも半ば恐慌状態に陥っていたのだが、そのときはまだ馬車に繋がれていたこともあって、すぐに逃げ出すことは出来なかった。

 だが、荷馬車が破壊された以上、馬は自由になったのだ。

 ゼオンが暴れているこの場から、恐怖に駆られて逃げ出してもおかしくはない。

 馬というのは、元々大人しい動物だ。

 騎士が乗るような馬は特別な訓練によってその臆病さを克服しているが、荷馬車を牽く馬にそのような訓練がされる訳がない。


「次、次、次、次」


 頭部バルカンの弾丸、次々と物資を積み込んでいる荷馬車を破壊していく。

 また、当然ながらそうして荷馬車を攻撃している間も、ガリンダミア帝国軍の兵士たちを攻撃していない訳ではなく。

 ゼオンという人型機動兵器だからこそ、頭部バルカンを発射しながらビームライフルや腹部拡散ビーム砲を発射するような真似が出来る。


「ついでだ、これも食らえ。フェルス!」


 駄目押しにと、ゼオンにとっての切り札とでも言うべきフェルスを呼び出す。

 空間に波紋が生み出され、そこから姿を現すフェルス。

 本来なら、フェルスというのはアランにとっての切り札だ。

 このような場所で使うのは、それこそガリンダミア帝国軍に無駄な情報を与えるだけになってもおかしくはない。

 だが、ゼオンの情報は既にガリンダミア帝国軍に相応に知られてしまっている以上、当然のようにザラクニアと戦ったときに使われたフェルスの情報も知られているだろう。

 であれば、今の状況ではフェルスを使わないで隠しておくよりもガリンダミア帝国軍に対してゼオンの全力を見せつけ、自分たちが何を戦おうとしているのかというのを、しっかりと知らせた方がいい。

 ラリアントを攻めるときに、ゼオンが出て来ればこの戦いの……いや、一方的な蹂躙を思い出して恐怖に振るえるように。

 もしくは、ここからラリアントに向かうまでの間に、再びゼオンがやってきたときに恐慌するように。

 空間の波紋の中から生み出されたフェルスは、アランの意志に従って戦場を暴れ回る。

 先端にビームソードを展開させて兵士を貫く。

 鎧を着ていようが着ていまいが、そんなのは全く関係ないと言わんばかりの行動。

 そして実際にフェルスの先端に展開しているビームソードは、革だろうが金属だろうが、全く関係なく貫いていた。

 それ以外にも、先端だけではなくフェルスの左右にもビームによる刃を生み出し、触れる否や何であろうともほぼ全てを斬り裂いていく。

 先端から放たれたビーム砲は、数人の兵士の命をあっさりと奪い取る。


(よし、そろそろいいか)


 ゼオンが地上に降下してきてから、ここまで一分少々。

 いきなりの奇襲だったこともあり、混乱していたガリンダミア帝国軍だったが、それでも百戦錬磨の兵士たちだけあって、当初の混乱から抜け出す者も出始めていた。

 そんな中でもやはり最初に我に返ったのは、小隊長のような現場で真っ先に動くべき者たち。

 

「態勢を整えろ! 敵は一匹だけだ! ガリンダミア帝国軍としての誇りを思い出せ!」


 その言葉が兵士たちに届くと同時に、混乱は急速に収まっていく。

 他の場所でも同じように混乱を治めている者が多く、それを見たアランは面倒そうな表情を浮かべ……心核使いが変身したモンスターが何匹もこちらに近づいてくるのを見て、撤退を決意する。

 戦えば勝てると思いはするが、相手はどのような行動をしてくるのか分からない。

 それこそ、場合によってはアランにも全く予想外の行動をしないとも限らないのだ。

 そう、ザラクニアとの戦いで向こうにいた土のゴーレムが使ったような、泥のブレスの如く。

 泥のブレスは、まともに命中した訳ではないいもかかわらず、ゼオンの装甲を傷つけるだけの威力を持っていた。

 であれば、こちらに近づいてくるモンスターの中にも何かゼオンに対しても致命的なダメージを与えることが出来る攻撃手段を持っている者がいてもおかしくはない。

 ガリンダミア帝国軍との間に起きる防衛戦において、ゼオンという存在はラリアント軍の心の支えと言ってもいい。

 ザラクニアと戦ったときに見せた圧倒的な強さは、それこそゼオンの存在がいればガリンダミア帝国軍を相手に、勝つことは出来ずとも負けることはないと思うに十分な説得力を持っていた。

 そして負けないで耐え続けていれば、そのうち王都からの援軍が到着して、反撃に出ることが出来る。

 そんなラリアントの住人の様子を思い出せば、ここでゼオンを傷つける訳にはいかない。

 ましてや、アランがラリアント軍に協力しているのはガリンダミア帝国軍に致命的な被害を与えて自分にちょっかいを出さないようにするためという理由もある以上、ここでガリンダミア帝国軍を帰す訳にはいかなかった。

 そんな訳で、心核使い達が近づいてきたのを見たアランは、即座にその場を離脱することを選択する。

 ……アランが奇襲を仕掛けてから、一分から二分ほど。

 そんな短時間で、ガリンダミア帝国軍は予想外に大きな被害を受けたのだった。

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